ざまあをください【完結/改稿済】

「主人公はもう降りてくれて構わない。その代わり、僕と仲良くして欲しい」
「…………」

永良はまったくと言っていいほど驚かなかった。
まさか気取られているとは思ってもみなかったから、僕は大いに戸惑う。

「……っ……に決まってんだろ……」

永良が顔を俯かせて何事か呟く。
けど、上手く聞き取れなかった。
「何?」と訊ねると、永良は苦笑混じりに応える。

「今度はダチになれってか」
「出来れば親友がいいな」
「贅沢言いやがって」
「そうだね。でも、君にもメリットはあるんだよ」
「ほぉ? どんな?」
「君のためだけに最速の男になって、無双し続けてあげる」
「けど、それは――」
「大丈夫だよ。ゴールした先には君がいるから」
「…………」

永良の固く引き結ばれていた唇が、ポップコーンみたいにパッと勢いよく爆ぜた。
僕っぽい独特な言い回しがお気に召したのかもしれない。

「くっくっく」と一頻り笑い終わったあとで、「かぁ~~~っ!」と痰吐きじいさんみたいな声を発しながら顔を上げる。

「分かったよ。俺は主人公を降りる。もう一つの方は……まぁ、可能な限り努力するってことで」
「確約して欲しいんだけど」
「無茶言うなよ。俺だって人間なんだ。相容れないヤツだっている」
「そりゃそうかもしれないけど――」

話は終わりだと言わんばかりに取り上げていたスマホを突き返してくる。
それを見て僕ははっとした。

「そうだ。新しい契約も成立したことだし、君の連絡先を教えてよ」
「は? ダメに決まってんだろ。お前が最速になるまではお預けだ」
「殺生な……」
「的場さんに伝えとく。それでいいだろ」
「何でよりにもよって……トレーナーの鴫野(しぎの)さんにしてよ」
「あのな。的場さんのこと、いい加減ちょっとは信用してやれよ。お前は本当にマジで愛されてるんだからな?」
「はぁ~……まんまと騙されちゃって可愛いね」
「テメエ……」

ガルルと唸る永良を愛でつつスマホを受け取る。
すると永良は跳ね起きるようにして椅子から立ち上がった。
相変わらず身軽だね。

「話は済んだな。帰るぞ」
「どっか寄り道してこーよ」
「却下だ。さっさと帰ってカラダ休めろ」
「……ケチ」
「うっせ。このバカ」

永良と並んで歩き出す。
桜が舞い散る中をゆっくり、ゆっくりと。

君との友情は根気強く育てていく必要があるみたいだね。
正直言うと物凄くもどかしい。
だけど、こうして君が隣にいてくれるのなら、それはそれで悪くないのかもしれない。