大会終了後、僕らは馴染みの金木犀の園で待ち合わせた。
春先の金木犀の葉は黄緑色で、所々に赤茶色の新芽が芽吹いている。
あの日、永良と出会った時もこんな感じだった。
もう一年も経つのかと、しみじみと思う。
「なぁ、おい。これ見ろよ」
永良は僕と合流するなりスマホを見せてきた。
ニュースの切り抜きみたいだ。
プールサイドで、僕と永良が楽し気に話をしている。
……永良は後ろ姿だけど(憤怒)。
『厳巳選手は御覧の通り、とてもリラックスした状態で大会にのぞまれていたようです』
『オリンピック出場がかかったあの大一番で! いや~、頼もしいですね~』
画面の中の僕が、永良の顔を覗き込んでケラケラと笑っている。
我ながらとても楽しそうだ。
「お前のこの姿、万バズしてんぞ。やっぱイケメンは得だな」
「不本意」
「あ? 何でだよ?」
「あれは君と僕の笑顔だよ。他の誰のものでもない」
「っ、……かっ、かてーこと言ってんじゃねえよ! アスリートだって、好かれるに越したことねえんだからさ――っ!」
一瞬の隙をついて、永良のスマホのスタートボタンを連打した。
そうして表示させたのは待ち受けだ。
僕が設定されている――かと思えば、にゃんこだった。
真っ黒でもふもふな猫が、生活感溢れる青い毛布に包まって寝ている。
「ばっ! 何してんだよ」
「待ち受けチェック」
「~~っ、この変態!!」
「ねえ、ホーム画面は? 見せて」
「誰が見せるか!!!」
「お願い。僕の待ち受けも見せてあげるから」
「はっ、……はぁ? ンなもん1ミリも興味な――っ!!!???」
永良は僕のスマホの画面を見るなり驚愕した。
それもそのはず。僕の待ち受けは永良だ。
制服姿の彼が、目を真ん丸にして口をぽかーんと開けている。
言わずもがな、これは凸った日に撮った写真だ。
今も変わらずとても気に入っている。
「いつの間に!? じゃなくて、何で俺だ!!?」
「可愛かったから」
「~~っ、バカ!!! ごっ、誤解されたらどうすんだよ!!」
「誤解?」
「っ! ……何でもねえ」
「で、君のは?」
永良は大きく舌打ちをしつつ、渋々といった具合にホーム画面を見せてきた。
どうやらお友達と撮った写真みたいだ。
写っているのは……五人以上。中には我喜屋君の姿もあった。
全員寝巻き姿で、永良を中心にもみくちゃになって写ってる。
大方、修学旅行の時にでも撮った写真なんだろう。
少し……いや、大分むっとした。
永良、やっぱ人気者なんだな。
「何、怒ってんだよ」
「……別に」
永良がふっと笑う。
何だか小バカにされてるみたいで、ますます腹が立った。
「……僕とも撮ってよ」
「何度も言わせんな。俺はお前をざまあさせる男だ。お前とはぜってー馴れ合わね――っ! おい!!」
永良の肩を抱いて、無理矢理に画角に押し込む。
よし。これでいいや。
パシャシャシャシャッ……と、連射モードで撮りまくっていく。
「~~っ、離せこの――あがっ!!?」
逃げようとする永良の手を掴んで、力任せに引っ張った。
彼はなすすべもなく引き戻されて――座面にドシンっと尻餅をつく。
「~~痛っ、テメエ!!!」
ぎゃうぎゃう吠える彼を他所に、戦利品を確認する。
ふふっ、これじゃ君……なろー系主人公じゃなくて、なろー系ヒロインだね。
永良はハグされた状態で、じっと僕のことを見ていた。
突然のことで驚いたのか、その顔は赤く色付き、瞳はうっすらと潤んでいる。
乙女ティック永良。これはこれで可愛いかも。
よし。『ポカーン永良』はホーム画面にして、『乙女ティック永良』を待ち受けにしよう。
「おい! 消せよ」
「あ~あ、残念。な~んも写ってないや」
「は? まっ、マジ?」
僕は素早く偽造工作をした。
ブレブレの写真を十枚ほど複製。
永良が写っている写真は、ゴミ箱に入れたものも含めて全部消した。
バックアップはもう取ってあるから問題はない。
ふふっ、完璧完璧♪
「ちょっ、貸せ!!」
「いいよ。好きなだけチェックして」
永良はう~と唸りながら、僕のスマホを操作していく。
何だか擽ったいな。別に見られて困るようなものなんてないけど。
「……マジでブレブレな写真しかねえ」
「秘密フォルダも見た?」
「当たり前だろ。ったく、男であそこカラにしてるヤツなんざ初めて見たぜ」
「ふふっ、やっぱ知ってるんだ? 僕の誕生日」
「っ!!!! たっ、たまたまだ!! たまたま!! とっ、とにかくスマホは話終わるまで預かっておくからな」
「はーい」
良かった。バックアップまでは頭が回らなかったみたいだ。
まぁ、気付いたところでそっちのパスは絶対に教えないけど。
「じゃ、ほらさっさと話せよ」
もう少し場をあたためたいところではあるけど、仕方がない。
永良の気が変わらないうちにきちんと話しておこう。
僕は小さく咳払いをして、彼に向き直る。
春先の金木犀の葉は黄緑色で、所々に赤茶色の新芽が芽吹いている。
あの日、永良と出会った時もこんな感じだった。
もう一年も経つのかと、しみじみと思う。
「なぁ、おい。これ見ろよ」
永良は僕と合流するなりスマホを見せてきた。
ニュースの切り抜きみたいだ。
プールサイドで、僕と永良が楽し気に話をしている。
……永良は後ろ姿だけど(憤怒)。
『厳巳選手は御覧の通り、とてもリラックスした状態で大会にのぞまれていたようです』
『オリンピック出場がかかったあの大一番で! いや~、頼もしいですね~』
画面の中の僕が、永良の顔を覗き込んでケラケラと笑っている。
我ながらとても楽しそうだ。
「お前のこの姿、万バズしてんぞ。やっぱイケメンは得だな」
「不本意」
「あ? 何でだよ?」
「あれは君と僕の笑顔だよ。他の誰のものでもない」
「っ、……かっ、かてーこと言ってんじゃねえよ! アスリートだって、好かれるに越したことねえんだからさ――っ!」
一瞬の隙をついて、永良のスマホのスタートボタンを連打した。
そうして表示させたのは待ち受けだ。
僕が設定されている――かと思えば、にゃんこだった。
真っ黒でもふもふな猫が、生活感溢れる青い毛布に包まって寝ている。
「ばっ! 何してんだよ」
「待ち受けチェック」
「~~っ、この変態!!」
「ねえ、ホーム画面は? 見せて」
「誰が見せるか!!!」
「お願い。僕の待ち受けも見せてあげるから」
「はっ、……はぁ? ンなもん1ミリも興味な――っ!!!???」
永良は僕のスマホの画面を見るなり驚愕した。
それもそのはず。僕の待ち受けは永良だ。
制服姿の彼が、目を真ん丸にして口をぽかーんと開けている。
言わずもがな、これは凸った日に撮った写真だ。
今も変わらずとても気に入っている。
「いつの間に!? じゃなくて、何で俺だ!!?」
「可愛かったから」
「~~っ、バカ!!! ごっ、誤解されたらどうすんだよ!!」
「誤解?」
「っ! ……何でもねえ」
「で、君のは?」
永良は大きく舌打ちをしつつ、渋々といった具合にホーム画面を見せてきた。
どうやらお友達と撮った写真みたいだ。
写っているのは……五人以上。中には我喜屋君の姿もあった。
全員寝巻き姿で、永良を中心にもみくちゃになって写ってる。
大方、修学旅行の時にでも撮った写真なんだろう。
少し……いや、大分むっとした。
永良、やっぱ人気者なんだな。
「何、怒ってんだよ」
「……別に」
永良がふっと笑う。
何だか小バカにされてるみたいで、ますます腹が立った。
「……僕とも撮ってよ」
「何度も言わせんな。俺はお前をざまあさせる男だ。お前とはぜってー馴れ合わね――っ! おい!!」
永良の肩を抱いて、無理矢理に画角に押し込む。
よし。これでいいや。
パシャシャシャシャッ……と、連射モードで撮りまくっていく。
「~~っ、離せこの――あがっ!!?」
逃げようとする永良の手を掴んで、力任せに引っ張った。
彼はなすすべもなく引き戻されて――座面にドシンっと尻餅をつく。
「~~痛っ、テメエ!!!」
ぎゃうぎゃう吠える彼を他所に、戦利品を確認する。
ふふっ、これじゃ君……なろー系主人公じゃなくて、なろー系ヒロインだね。
永良はハグされた状態で、じっと僕のことを見ていた。
突然のことで驚いたのか、その顔は赤く色付き、瞳はうっすらと潤んでいる。
乙女ティック永良。これはこれで可愛いかも。
よし。『ポカーン永良』はホーム画面にして、『乙女ティック永良』を待ち受けにしよう。
「おい! 消せよ」
「あ~あ、残念。な~んも写ってないや」
「は? まっ、マジ?」
僕は素早く偽造工作をした。
ブレブレの写真を十枚ほど複製。
永良が写っている写真は、ゴミ箱に入れたものも含めて全部消した。
バックアップはもう取ってあるから問題はない。
ふふっ、完璧完璧♪
「ちょっ、貸せ!!」
「いいよ。好きなだけチェックして」
永良はう~と唸りながら、僕のスマホを操作していく。
何だか擽ったいな。別に見られて困るようなものなんてないけど。
「……マジでブレブレな写真しかねえ」
「秘密フォルダも見た?」
「当たり前だろ。ったく、男であそこカラにしてるヤツなんざ初めて見たぜ」
「ふふっ、やっぱ知ってるんだ? 僕の誕生日」
「っ!!!! たっ、たまたまだ!! たまたま!! とっ、とにかくスマホは話終わるまで預かっておくからな」
「はーい」
良かった。バックアップまでは頭が回らなかったみたいだ。
まぁ、気付いたところでそっちのパスは絶対に教えないけど。
「じゃ、ほらさっさと話せよ」
もう少し場をあたためたいところではあるけど、仕方がない。
永良の気が変わらないうちにきちんと話しておこう。
僕は小さく咳払いをして、彼に向き直る。
