『今年の全日本は五輪への切符がかかった大一番です!』
『ええ! そのため会場の熱気も例年以上! 選手ではない私自身もとても緊張しております!!』
お化粧バリバリの女子アナさんと、やたらと暑苦しい感じの男のスポーツキャスターさんが、きゃっきゃと楽しげに盛り上がっている。
場所はプールサイド。
ウォーミングアップをしている選手達を背景に、競技の説明や取材に対する意気込みを語っていた。
予選はネット配信。
本戦は地上波で放送するらしい。
ちょっと鬱陶しいけど、まぁ仕方がないね。
僕は白いジャージを羽織りながら、黒いスイミングキャップを外した。
下は……このままでいいや。
ジャージ+水着姿のままプールサイドを歩いていく。
結局悩んだ末に、永良にあの交渉を持ちかけてみることにした。
どっちみちこのまま黙っていたって、決裂したって結果は同じ。
『永良が主人公を続けて、僕と距離を置き続けるルート』で三年~二十年近く過ごすことになるんだ。
だったら一度ぐらい色気を出したっていいじゃないかと、そう思い至った次第だ。
勿論今すぐに話すわけじゃない。予定通り大会終わりに。
今は軽く……そう。ウォーミングアップトークをするために永良を探している。
前回はちょっと喧嘩別れ?みたいな感じになっちゃったから。
「いたいた」
永良だ。大学生や社会人も一緒の大会ということもあって、小柄で童顔な彼はとてもよく目立つ。
そんな彼もまたジャージ+水着姿で立っていた。
ショート丈(太腿にかかるぐらい)のものを選ぶあたりが、何とも彼らしいなと思う。
「……ん? あれ? 何見てんだろ?」
永良の目はダイビングプールの方に向いていた。
そっちではブーメラン型の水着姿の人達が軽やかに宙を舞っている。
確か一番高いところで10メートル。
電柱とかと同じぐらいの高さがあるんだよね。
そんなところから飛び降りるだけでも凄いのに、二回も三回も宙返りをした上で、水しぶきが立たないように入水するんでしょ?
とても人間技とは思えない。
あの競技を極めた人の背中には、マジモンの翼が宿るのかもしれない。
「よくやった! バッチリ刺さってたぜ!」
タブレットを手にしたジャージ姿の男の人が選手を褒めてる。
十中八九、コーチだろう。
糸目のゴリマッチョ。凄く爽やかで温かい感じの人だ。
いいな。僕もあんなコーチが良かった。
「っ!」
見過ぎたのかな。
ゴリさんがメッチャいい笑顔で手を振ってきた。
どうしよう。応えた方が良いのかな。
……なんて内心でみっともなく焦っていたら、永良がすっと頭を下げた。
それを受けてゴリさんが一層爽やかに笑う。
どうやら僕じゃなくて、永良に手を振っていたみたいだ。
「あのコーチと知り合いなの?」
「うぉおぉ!!? ビックリした!!! 声ぐらいかけろよ……っ」
「ごめん。で、どうなの?」
「……知らね。誰かと間違えたんじゃねえの?」
「なら無視すればいいじゃない」
「バカ。そんなん……ワリィだろうが」
まったく……。
君って妙なところで気を遣うよね。
まぁ、そういうところも嫌いじゃないんだけど。
……っていうか永良、普通に話してくれてる。
僕も何やかんやで普通に話せてるし……うん。
これなら問題なく僕の気持ちを伝えることが出来そうだ。
良かった。良かった。
「つかお前何しに来たんだよ」
「え? えっと……約束覚えてるかなって」
「ああ。今日はちゃんと最後まで付き合う」
「ならいいよ。それじゃ」
「は? それだけ?」
「うん。それだけ」
永良はかなり驚いたような表情を浮かべた後で、どこか不貞腐れたような声で「そうかよ」と言った。
僕にはその意図が分からなくて問いかけようとした。
けど、永良はそんな隙すら与えずに「じゃあな」と言ってすたすたと去って行ってしまう。
まぁ、最後は何か微妙な感じになっちゃったけどウォーミングアップトークとしてはまずまずだったよね。
僕はそう無理矢理区切りを付けてレースの準備を進めていった。
――その後、大会は滞りなく進行。
永良は惜しくも予選敗退、僕は優勝して五輪への切符を手にしたのだった。
『ええ! そのため会場の熱気も例年以上! 選手ではない私自身もとても緊張しております!!』
お化粧バリバリの女子アナさんと、やたらと暑苦しい感じの男のスポーツキャスターさんが、きゃっきゃと楽しげに盛り上がっている。
場所はプールサイド。
ウォーミングアップをしている選手達を背景に、競技の説明や取材に対する意気込みを語っていた。
予選はネット配信。
本戦は地上波で放送するらしい。
ちょっと鬱陶しいけど、まぁ仕方がないね。
僕は白いジャージを羽織りながら、黒いスイミングキャップを外した。
下は……このままでいいや。
ジャージ+水着姿のままプールサイドを歩いていく。
結局悩んだ末に、永良にあの交渉を持ちかけてみることにした。
どっちみちこのまま黙っていたって、決裂したって結果は同じ。
『永良が主人公を続けて、僕と距離を置き続けるルート』で三年~二十年近く過ごすことになるんだ。
だったら一度ぐらい色気を出したっていいじゃないかと、そう思い至った次第だ。
勿論今すぐに話すわけじゃない。予定通り大会終わりに。
今は軽く……そう。ウォーミングアップトークをするために永良を探している。
前回はちょっと喧嘩別れ?みたいな感じになっちゃったから。
「いたいた」
永良だ。大学生や社会人も一緒の大会ということもあって、小柄で童顔な彼はとてもよく目立つ。
そんな彼もまたジャージ+水着姿で立っていた。
ショート丈(太腿にかかるぐらい)のものを選ぶあたりが、何とも彼らしいなと思う。
「……ん? あれ? 何見てんだろ?」
永良の目はダイビングプールの方に向いていた。
そっちではブーメラン型の水着姿の人達が軽やかに宙を舞っている。
確か一番高いところで10メートル。
電柱とかと同じぐらいの高さがあるんだよね。
そんなところから飛び降りるだけでも凄いのに、二回も三回も宙返りをした上で、水しぶきが立たないように入水するんでしょ?
とても人間技とは思えない。
あの競技を極めた人の背中には、マジモンの翼が宿るのかもしれない。
「よくやった! バッチリ刺さってたぜ!」
タブレットを手にしたジャージ姿の男の人が選手を褒めてる。
十中八九、コーチだろう。
糸目のゴリマッチョ。凄く爽やかで温かい感じの人だ。
いいな。僕もあんなコーチが良かった。
「っ!」
見過ぎたのかな。
ゴリさんがメッチャいい笑顔で手を振ってきた。
どうしよう。応えた方が良いのかな。
……なんて内心でみっともなく焦っていたら、永良がすっと頭を下げた。
それを受けてゴリさんが一層爽やかに笑う。
どうやら僕じゃなくて、永良に手を振っていたみたいだ。
「あのコーチと知り合いなの?」
「うぉおぉ!!? ビックリした!!! 声ぐらいかけろよ……っ」
「ごめん。で、どうなの?」
「……知らね。誰かと間違えたんじゃねえの?」
「なら無視すればいいじゃない」
「バカ。そんなん……ワリィだろうが」
まったく……。
君って妙なところで気を遣うよね。
まぁ、そういうところも嫌いじゃないんだけど。
……っていうか永良、普通に話してくれてる。
僕も何やかんやで普通に話せてるし……うん。
これなら問題なく僕の気持ちを伝えることが出来そうだ。
良かった。良かった。
「つかお前何しに来たんだよ」
「え? えっと……約束覚えてるかなって」
「ああ。今日はちゃんと最後まで付き合う」
「ならいいよ。それじゃ」
「は? それだけ?」
「うん。それだけ」
永良はかなり驚いたような表情を浮かべた後で、どこか不貞腐れたような声で「そうかよ」と言った。
僕にはその意図が分からなくて問いかけようとした。
けど、永良はそんな隙すら与えずに「じゃあな」と言ってすたすたと去って行ってしまう。
まぁ、最後は何か微妙な感じになっちゃったけどウォーミングアップトークとしてはまずまずだったよね。
僕はそう無理矢理区切りを付けてレースの準備を進めていった。
――その後、大会は滞りなく進行。
永良は惜しくも予選敗退、僕は優勝して五輪への切符を手にしたのだった。
