午前零時、籠にいられない私は裸足で舞う

 茶会の準備が整い、彼女達を招く。


「久しぶりね、和心。」


 どうやらこの人たちは頑なに私を皇后だと認めたくないみたいだ。


「お久しぶりです。お義母様、お義姉様。」

「元気そうね。しかも、こんな高級な調度品に囲まれて…。」


 感情の起伏が激しい一番上の義姉が恨みがましい声で言う。

 女ってばやっぱり怖いな…なんて思って他人事のように思っていたら突然、暴力特化型の下の義姉が調度品を壊し始めた。


「おやめください。」


 すかさず侍女が止めに入るも、下の義姉の暴走は止まらない。


「黙ってよ。なんであんただけが幸せになってんのよ。」


 破壊衝動は収まったのか、今度は私に殺意の籠った眼差しを向けた。

 ほんとうに、この人たちは清々しいぐらいに救いようがない。

 掴みかかろうとする義姉を視線で制する。


「っ、何よ…。」


 やっぱり本能で動く人には冷たい視線で返すのが効くみたいだ。

 それを私に教えたのが承曜である。

 私は視線を和らげニッコリとした笑みを浮かべる。


「とりあえず席に着きましょうか。」


 四人でお菓子を囲むように座る。

 お茶を飲んだ義母は、


「まぁまぁね。後宮で暮らしているのにまともなお茶すら出せないの?」


 と、想定内の嫌味を言う。


「それで、用件はなんですか?ただ嫌味を言いに来たり調度品を破壊しに来たわけじゃないでしょう?」


 さっさと帰って欲しくて本題を促す。


「ふん、随分頭が高くなったものね。まぁいいわ。私達の目的はあんたを引きずり下ろすことよ。」


 その言葉に茶碗を握る手が強くなる。

 義母は続けて、


「あんたがのうのうと後宮で暮らしている隙にあんたの情報を元老たちに売ったわ。あぁ、そう言えば会議が伸びているのもそのせいじゃない?」

「あと、あの宗教に熱心な使者ね。あのまま連れて行かれたらよかったのに。」


 義母と義姉達の笑い声が部屋に響く。


「皆こう言っているわよ。“現人神である陛下の隣に神を否定した卑しい国の出の女が立つなど論外”って。」

「そうですか。」


 お茶を一口飲む。


「今のうちに陛下に泣きついてここから出て行けば?」

「あんたと陛下じゃ不釣りあいよ。」

「陛下が可哀そうだわ。私が慰めたいぐらい。」


 口々に聞こえる私を貶めるような言葉に耐え抜く。

 彼女たちは満足したのか、


「じゃあね、和心。私達は帰るわ。貴女と違ってこっちは忙しいのよ。」

「お義母様。」


 扉を出ようとする義母を引き留める。

 私はもう彼女達に会うことはないだろう。


「何よ。用があるなら早く言ってくれる?」


 義母は苛立ったように振り返る。


「お義母様。私を今まで育ててくれてありがとうございました。それだけです。」


 彼女達がどんな表情をしていたのか私は知らない。

 扉が閉まる。

 どんなに酷いことをされたり言われたりしても、私は彼女達を憎めない。

 なぜなら、人生の半分以上を彼女達と一緒に過ごしてきたのだから。

 そして、私をここまで育ててくれたのだから。

 だけど、今ここで私はその関係に終止符を打った。