午前零時、籠にいられない私は裸足で舞う

 暫く経ったある日の昼下がり。

 私は書物庫でニティヤ国について情報を調べていた。

 宴で彼らの地雷を踏んじゃうわけにはいかないからね。

 ニティヤ国と常帝国は友好的な関係みたいで、毎年ニティヤ国からは塩や石油が手に入り、常帝国は絹製の服や織物などを送っている。


「友好的なんだ…。」


 ということは、これからも関わる機会が今後もあるということだよね…。

 次のページを捲ると、ある一行に目が止まった。


『例の国、生き残りを調査中。残り一名。名はサーマラシャ。』

「っ…。」


 私のことだ…。

 その一文をなぞる指が震える。

 サーマラシャは私が国を滅ぼされた日に捨てた名前だった。

 これ以上は見ていられなくて、書物を棚に直した。

 そんなとき、


「皇后?」

「っ、陛下…。」


 書物庫に彼がやって来た。

 どうしよう、あのニティヤ国の記録を見たせいで今は彼に対してどんな表情をすればいいか分からない。

 それに、彼の前でうっかり正体を見破られたら…夏ではないのになんだか見えない汗が流れる。


「私、面白い物語がないか探しておりまして…。」

「なるほど、物語か。」


 どう?

 誤魔化せたかな?


「……和心は、牛郎織女という噺を知っているか?」

「……いえ、全く。申し訳ありません。」

「いい、謝ることはない。確か、ここに本があったはずだ。」


 彼は棚から書物を取り出し、私に手渡す。


「読んでみるといい。我はこの噺が子供の時は好きだった。」

「そうなのですね…。」


 俯けばパサリと髪が一束肩に落ちる。


「あぁ。どんなに離れていても、我は気持ちさえあれば伝わると思っている。」


 彼はそう言いながら、肩に落ちた一束の髪を耳にかけてくれた。

 私は、その一言に違和感を感じた。


「……では、離れている場合何を信じればいいのでしょうか?人は想っているだけでは伝わりませんし、口にしなければ分かりません…。」


 はっ、つい最近なんだか親しくなったような気がしたから、口が滑った。


「し、失礼しましたっ…。」


 私は彼の方を見ずに怒られる前に一目散に逃げ出す。


「……和心。」


 彼の複雑そうな表情とその呟きを私は知らない。