午前零時、籠にいられない私は裸足で舞う

 彼に引き留められて結局後宮を出て行くことを辞めた翌朝。


「ねぇ、また陛下は皇后様の元にいらっしゃらなかったわね。」

「えぇ。はぁ、いつか捨てられる主に仕えることになるなんてね…。やるせないわ。」

「ほんとよね。それより、李家の娘の輿入れを陛下が断ったらしいわ。」


 相変わらずお喋りな後宮なのは昨日と変わらない。

 私の評価も。

 だけど、昨日と違うのは私は一人じゃないってとこ。

 彼という味方がいる。

 そう思えば、私の評価なんてどうでも良くなった。

 大事なのは前を見て信じたものを正解にして突き進むこと。

 どんなに険しくてもね。

 父さんと母さんが教えてくれた言葉を久々に思い出した。


「皇后か。」


 昨日と同じように散歩をして休憩がてらに桃の木に咲いている花を見れば、私を呼ぶ声がした。

 振り向けば、彼がいた。


「陛下。」

「昨日もここにいたが、桃の花が好きなのか?」

「はい。好きです。」

「そうか、我も好きだ。」

「そうなのですね。」

「あぁ。」

「………。」

「………。」


 会話終了。

 だけど、昨日より居心地が悪くないし気まずくない。


「ちょっといいか、皇后。」

「え、はい…。」


 どうしたんだろう、と首を傾げれば彼の手が髪に触れた。

 思わず、反射的に一歩後ずさる。


「髪に桃の花びらが付いていたからな。」

「へっ、あ…。そうだったんですね…。ありがとうございます。」


 やだ、私ったら…何を勘違いしちゃっているんだろう。

 彼は善意なのに。

 顔に熱が集中する。


「そういえば、後少しで異国の使者がやってくるのだが…。」

「はい、存じています。サンスクリット大陸からの使者ですよね?」


 サンスクリット大陸は砂漠と石油などの資源が豊富にある大陸だ。

 しかし、日中は気温が高く夜は低いと、一日の寒暖差が激しい。

 ちなみに私の故郷だ。


「あぁ、そうだ。ニティヤ国からの使者だが…。」


 ニティヤ国.......それを聞いて心臓が嫌な音を立てて、今でも脳に焼き付いている“あの日”の出来事が蘇る。


「皇后にとっては初めての公式行事になるだろう。結婚式の国民への披露目はまだだからな。我が誓いだけでもと急いだせいだ、申し訳ない。」

「………。」

「皇后?どうかしたか?」

「へっ…!?いえ、何でもないです。お気になされないでくださいっ。」

「そうか?ならいいが。」


 しばらく彼とお喋りをしていたけど、内容は頭に入っていない。

 どうやって、自分の部屋に帰ったのかも覚えていない。