午前零時、籠にいられない私は裸足で舞う

 散歩の途中で見つけた、帝都に通じる城壁の穴の方へ向かう。

 そこを通れば、あとは何とかして生きるだけ。

 穴を潜ろうとすれば、誰かに腕を掴まれた。


「何をしている。」

「へっ?……陛下…。」


 どうして…。

 なんでここに彼がいるの…。

 言いたいことはたくさんあるのに、零れるのは白い息だけ。


「そんな恰好じゃ冷えるだろう。」


 とかいう陛下も外套を羽織っていない。


「………すみません。」


 そう言えば、彼は腕を離してくれた。


「………昼間の話だが、我は初めから和心以外の妃を迎え入れる気は無い。それから飽きてもいない。あの宴とあの宣言も気まぐれではない。」

 私以外を迎え入れ気は無い、飽きてもいない、あの日の宣言は気まぐれじゃない。

 なら、どうして彼は…。


「.......あの日の舞。皆が媚びた笑みを浮かべながら舞っていた。だが、和心は違った。心から舞を楽しんで舞っていた。そのときの笑みが一目見てから今でも心から離れなかった。だから、皇帝という立場を使って傍に置こうとした。」


 彼は続けて、


「悪かった。」


 それは本当なの?

 信じてもいいの?

 そんな言葉.......まるで、彼が私を…。


「行くなとも戻れとも言わない。ただ、和心の好きにしてもいい。」


 彼の言葉に驚く。

 私は誰かに流されるまま生きてきた。

 だけど、彼は私に選ばせてくれるの?

 私は、“生きちゃダメ”なのに、こんな贅沢していいの?


「だが、ここに戻っても和心は一人じゃない、ということを忘れるな。」


 吹き抜ける壁の穴を見る。

 私は一人じゃない。

 彼がいるんだ。

 そうしたら、自然と足は壁の穴じゃなくて彼の方を向く。


「もう少しだけ…。ここにいさせてください。」


 勝手に出て行こうとして勝手にやっぱり行かない選択をして、自分勝手な私を彼は許すしてくれるだろうか。


「あぁ。好きなだけいろ。」

「ありがとうございます。」


 思わず笑みが零れてしまう。

 すると、彼は不思議そうな顔をしてから微笑んで、


「やっぱり、和心は笑っている方が似合う。」


 と言った。

 私は思わず口を開きかけ、ずっと言いたかったことを喉元まで出しかけたその瞬間、


「陛下~~!!」


 彼の外套を持った人が遠くからやって来た。


「ちっ…。邪魔が来たか。」

「ちょ、陛下。外套を持たずに慌てて外に出て行っちゃうんですもん。探しましたよ。」

「我はいらぬ。それより皇后にかけてやれ。」

「皇后?」


 外套を持った人は私を見て、その次に隣にいる彼を見て、


「まさか、陛下。ついに…ブフォッ!」

「余計なことは言うな。」

「いや、だってお二人の雰囲気が…。」

「余計なことは言うなと言ったであろう!」

「痛っ!親父にもブたれたことないのに!皇后様っ!陛下がブッてきましたっ!これ、パワハラですよねっ!?」


 この一連の流れになんだか笑みが零れる。

 くだらないのに面白くて、なんだか温かくてどこか懐かしい。


「フフッ、見なかったことにしておきます。」

「そんな!皇后様まで酷いっ!」

「皇后は我の味方だからな。」

「え…何この敗北感…。俺も嫁作ろうかな.......。」


 ねぇ、いつかちゃんと言いますから。

 ちゃんと全部。

 それがいつになるのか分かりませんけど、だけど今だけは束の間の平穏を楽しませてください。