僕をわがままにした君

2月16日18時。暗い道を街灯の光を頼りに走った。僕の途切れ途切れの呼吸音が響く。僕は家を出ることを選んだ。けれど、あの人たちはそれを許さない。今、気づいたぐらいだろうか。急いでできるだけ遠くへいかなければならない。

「きゃっ」
「すみません!急いでて…」

女性とぶつかってしまった。冬の精霊のような人だ。雪のように白い肌、夜空のように輝く瞳。その瞳と目が合った瞬間、僕の心は君に奪われた。彼女は差し出した僕の手を無視して立ち上がった。

「探せ!まだ近くにいるはずだ!」

かすかに聞こえた。あの人たちだ。ここまできて、見つかるわけにはいかない。

「あの、もし誰かに僕の居場所を聞かれたら反対方向に行った、と伝えてください。お願いします」
「ちょっ 何かあったんですか?あれ?いない」

もう会えないだろうが、またいつか会えたら感謝を伝えたいな。

「ごほっごほっうっ」

少し走っただけなのにこれか…。けど、まだ近くにいる。山とか険しい場所に行けば大丈夫なはずだ。もう少ししたら山があるはず。


「はぁはぁはぁ」

山に明かりが見えたから、そこを目指してここまで来たけど、ここがどこか分からなくなってしまった…。あの人たちの声も聞こえないから結構歩いたはずなんだけど。

ガサガサ

「誰ですか!?」
「すみません!驚かせるつもりはなかったんです。迷ってしまって…人影が見えたので声をかけようと…」

この人はさっきの人!?なんでこんなところに?

「この声は…さっきの人ですか?」
「はい。先ほどはありがとうございました。本当に助かりました」
「いえ…ところで、あなたは誰ですか?ここでなにをしていたんですか?なぜ追われてたんですか?」
「えっと…まず、先ほどは変なことを頼んでしまいすみませんでした。僕は、けっ…牛牽琥珀(ぎゅうけんこはく)です。ここには逃げるために来ました。理由は言えませんが…。こんなことを聞くのは失礼だと思いますが、目が不自由なのですか?」
「私は織姫幸(おりひめゆき)。そう。昔は見えてたんだけど今は、もう何も見えない。私って人を不幸にするために生まれてきたのかな?生きてる意味なんてないのに、なんで生きてるんだろう?」

なんで僕にそんなこと…。笑っているのにどこか悲しげな表情だ。

「ごめんね、急に」
「ぼっ僕もです。あなたがなぜそう思っているのかはわからないですけど、僕も自分の生きている意味が分からない時があります。誰も僕を僕自身を必要としてくれません。他人が勝手なこと言いますが、僕は勇気がないせいで立ち向かったり、向き合ったりすることができませんでした。しかも、逃げるのも今までできなかった。誰かの指示に従って生きるだけの人生でした。けれど、あなたはどこの誰かもわからない人に言ってしまうぐらい、そのことについて考えて向き合ってるのだと僕は思います」
「ありがとう。でもね、私は隠れてるだけなんだよ。そのことを考えてしまわないように、思い出してしまわないように」

声が沈んでいった。何かをあきらめているかのような声だった。嫌なことを思い出させてしまったのだろうか。

「変なこと言ってごめんね。この道にそって山を下れば街につきます。クマの目撃情報が出てるから気をつけて帰ってください」
「すみません、最後に良いですか?近くに宿泊できる場所ってありますか?出来ればお安いところが良いんですけど…」
「ついてきてください」
「いえ!教えてくだされば十分です!」
「いいから静かについてきてください。クマが来ますよ」

この人、目が見えてないんだよね?どうやって周りの様子を?