後宮妃のシャープな日常

 その後も陛下にお会いする機会はなかった。会うことがないまま三週間が経ち、実家に帰っていいのではと思い始めたころ、陛下との晩餐会に招待された。

 案内された部屋へ入ると、部屋の奥へ案内された。普段は応接室として使われているのか、衝立の向こう側にあるテーブルに案内さると、子供用の椅子に座った。

「皇帝陛下は、もう間もなくいらっしゃいますが、何かお飲みになられますか?」

「いいえ。待ちます」

 私は椅子から立ちあがると、皇帝陛下を出迎えるために、中央にある扉の前に他の人達に混じって整列した。

「陛下がいらっしゃいました」

 侍女の声に他の人達に見習って、頭を下げならがら待っていると、歩いてくる複数の足音が聞こえた。

「待たせたな」

陛下は部屋へ入ると、頭を下げている私の前まで来て声を掛けた。

「いえ、いま来たところでございます」

「面を上げよ」

私が顔を上げると、思ったよりも爽やかなイケメンが、そこに立っていた。けっしてカッコイイ部類には入らないが、わたしの少ないボキャブラリーで説明すると、とにかく爽やかな青年としか言いようがない。

「……」

「私に見とれているのかな?」

「……申し訳ありません。聡明そうな方だなと……すみません。それもある意味、失礼ですね。申し訳ありません」

「よい。今夜は、私が招待したのだ。肩の力を抜いて楽にしてよい。そなたは、私と同い年と聞いたが、酒は飲めるのか?」

「いえ、その……実は、両親に止められておりまして。中身は大人ですが、身体は子供ですので何かあっても対処できなかったらどうするのかと、飲もうとしたことがあった時に叱られました」

「ああ……あの、子煩悩な伯爵だろう?彼の部下が、娘自慢をいつも聞かされていて、大変そうだなと思って、前に声を掛けたことがある」

「あの、陛下はどうして私をお召しになったのです? 私は父と母と暮らしているだけで幸せでした。魔術があれば、他に望むことなど……」

 そう言いながら、私は涙をこぼしていた。泣こうと思っていないのに、後から後から涙が溢れてくる。

「すみません、急に悲しくなって……」

 メイドが咳払いをすると、陛下は我に返ったように、懐からハンカチを出して私の涙を拭いていた。

「すまなかった。君の気持ちは、追いついてないんだね。大人だと思って見くびっていた」

「いえ、何も悲しくないのに涙が出てきて止まらないのです」

 身体がまだ子供だからなのか、私の涙は一向に止まる気配がなかった。