後宮妃のシャープな日常

 皇帝陛下は3人の妃と31人の側室を持っていたが、実際に寝所へ通っているのは3人の妃――つまり、上級妃だけである。

 それなら、今回なぜ側室に選ばれたのかというと、噂に名高い『陛下の温情』である。問題があって、国の法だけではどうにもならず、どうしても城で保護をしなければならない『保護対象者限定』で、側室の命が下る。

 つまり、私は陛下から『保護対象』と認定されてしまったのだ。事前に打診があると聞いていたし、大丈夫だと高を括りすぎていたかもしれない。

 学問を頑張りすぎていたのかもしれない。けれど、どれもこれも思い返しては、はっきりとした理由が思いつかない。訳が分からなくなり、案内された部屋のベッドで、私は仰向けに寝転がりながら天井を見つめていた。

 私は出来る限りの書物を持ち込み、王宮でも学問をする気でいた。城の許可は取っていたし、シモン先生の講義も今までと同じように受けられるよう、皇帝陛下へ申請済みだ。

 何なら、王宮書庫だって見放題に違いないし、王宮の本を読み尽くすつもりだった。

 誰もいない部屋を見渡すと、窓からは正門に続く道と小さな広場が見えていた。部屋の装飾や雰囲気は実家の自分の部屋と、ほぼ変わらなかったため、その辺りは過ごしやすいように気を遣ってくれたのだろう。

「マリアンヌ様、お時間です」

 ドアをノックしてメイドのルミナが入って来た。伯爵家から一人だけメイドを連れて来てもよいと言われていたが、私は彼女が不憫でならなかった。女性しかいない後宮で、メイドの仕事なんかしていたら、彼女の婚期は遅れてしまうだろう。

「マリアンヌ様?」

「あっ、謁見の時間ね?」

「聞いた話によると、そんな堅苦しいものでもないみたいです。一緒に食事を摂るだけだとか?」

「まあ、いいわ。遠目に見たことくらいしかないんだもの。一度くらい、きちんとご挨拶しなくちゃ」

 私が服装と髪型を整えてもらっていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「マリアンヌ様、失礼いたします」

「私は侍女頭のホーレイと申します。この度は、おめでとうございます」

 私は立ち上がると、頭を下げていた侍女頭の前へ立った。

「ホーレイですね、お祝いの言葉をありがとうございます」

「大変申し訳ございませんが、本日の晩餐会は中止とさせていただきたいのです」

「え?」

「理由は後ほど、陛下から聞いていただけたらと思います」

「承知いたしました」

 ホーレイが去った後、私は思わずメイドのルミナと顔を見合わせたのだった。