後宮妃のシャープな日常

 その日から一週間後に、手紙が届いた。手紙といっても、皇帝陛下からの『勅命』の手紙だった。

 伯爵家の全ての者がゲストルームに集まり、父親が震える手で手紙の封を開けると中身を読み始めた。

「マリアンヌ・バレンティアに命じる。現皇帝陛下の35番目の妃として入内せよ」

「え?」

 自分の事が書かれているとは思わなかった。これからの人生は、家督は弟に継いでもらって、先生と実験に明け暮れて家で悠々自適な日々を送るつもりだった――それが、まさかの結婚?!

「……」

 私は怒りで我を忘れそうになった。

「なにも聞いてないから焦ったよ」

「アンドレ様、陛下はマリアンヌに掛けられた呪いのことは、ご存じないのかしら?」

「まさか。この間、陛下に聞かれたから正直に答えたけど?」

(お父様。陛下に娘のことを聞かれたのであれば、その話は家でするべきではないでしょうか?)

「お父様。その、陛下とはどのような話をされたのでしょうか?」

「何も。ただ『息災にしているか』とか、『優秀と聞いている』とか言われて、嬉しくなっちゃって――天才シモンも太鼓判を押すほどですって、答えておいたけど……。マリアンヌ、どうしたんだい?」

(何てことだ。そんなに学問が出来るわけじゃないのに、変なところで興味を持たれてしまったな)

 私はお父様に曖昧な微笑みを返すと、何も言わずに部屋を出て自分の部屋へ戻ったのだった。


*****


 一週間後。私は馬車に揺られて、城へ来ていた。家からは馬車で2時間半。遠いのか近いのか、良く分からない距離に城はあった。

 馬車2台分に荷物を詰めて、合計3台で城の正門前に馬車を停めると、警備担当の騎士が警備室から駆けてくる。帽子を被ってはいるが、雨が降っていてずぶ濡れだ。私は窓を半分だけ開けると、騎士の言葉を待った。

「マリアンヌ様。この度はおめでとうございます。本日は生憎の雨ですので、このまま城の中へ入っていただき、荷物の運び出しは明朝でも構わないでしょうか?」

「構いませんわ。よろしくお願いいたします」

 私と同い年くらいの背格好をした騎士は、御者に合図を送ると門の中に誘導した。お辞儀をしながら見送る彼を見て、めでたくなんてないのになと思っていた。