恋の命名権

 私、北村(きたむら) (なぎさ)、学生です。


「最近はいろいろな施設などが命名されているね。古いものだと野球場とか」と
友達の(あい)が話しかけてきた。

「確かに多いね」と相槌を打っていると、別の友達の依里(より)が割って入ってきた。

「うんうん。そうそう、うちは命名権代理団体に入っているんよ。自分自身に命名をされれば、儲かるよ」

 そして、続けて依里はこう言った。
「例えば、あんたの名前をルビーにしてみよう。そして、みんなにルビーと呼ばれれば、ルビー普及協会から、お金が入る」

「いや。それはちょっと……」と苦笑いしていると、それを聞いた周りの人達が我も我もと寄ってきた。

「私はダイヤ」
「あたいはパフェ」
「私はいちごジャム」
 みんな命名名簿を見ながら決めていた。

 私はそんなものは反対だった。


 ある日。

 貴君(私の好きな人)が野球雑誌を読んでいた。そのページを横から見てみると、『ミスノの野球グローブ』の広告だった。

 ひょっとしてこれが欲しいんじゃ。

 そして、もし私が『ミスノの野球グローブ』と命名されれば、貴君によく見てもらえるんじゃ。


 私は友達の依里に野球のグローブは命名名簿に入ってないかと聞きに行った。

調べてもらった結果、それは入っていた。嬉しい。早速、登録してもらった。名前は『ミスノグローブ』だ。


 翌日から私は『ミスノグローブ』と呼ばれるようになった。

「おはよう。ミスノグローブ」
「よう!ミスノグローブ」
「ミスノグローブ!」

 みんなにそう話しかけられる。名前を呼ばれるたびに、貴君が振り返る。

 私の事、覚えてもらったかな。本当の名前は覚えてないかもしれないけど。


 そんなこんなでそういう生活が一か月ぐらい経った。

「よっ!」

 依里が後ろから肩を叩いて、話しかけてきた。

「命名権は今日で契約切れ。ミスノは当分誰にも命名しないみたいだよ」

 私は焦った。命名がないなら野球のルールとかを覚えて、貴君に注目されるしかない。

 そう思って勉強したが、これがなかなかルールが複雑で難しい。

 そして、挫折しそうになった時…

「渚さん……」

 後ろから貴君に話しかけられた。

 話を聞けば、もともと私の事を知っていて、名前も覚えていたらしい。


 なんてことはない。人間に命名権など要らなかったのよ。