両片想いは両成敗




絶対越えてはいけない一線。
越えさせてはいけないと思っていた透明のラインを、自ら飛び越えてしまった。
時が止まる。うるさいBGMすら外で鳴ってると錯覚した。

光義の唇はやっぱり柔らかくて、あたる吐息は熱かった。
ここまでは想像通り。離れて、視界に入った光義は。
「……っ!!」
こっちが困惑してしまうほど、赤面のまま狼狽えていた。
とんでもない大罪を犯した気がする。
幼馴染だと思ってたのに。自分に片想いしてる少年の唇を奪ってしまった。
凄まじい後悔と罪悪感でくらくらする。遠浅の海のように、波が打っては引いていく。
光義が喜ぶなら、キスも意味があると思った。でも、実際の反応は全然違った。
彼は苦しそうに俺を見つめている。これじゃ本当に、もてあそんでるのと一緒だ。

( いや…… )

違う。そうじゃない。光義をからかうつもりも、空気に流されたわけでもない。
俺が彼にキスしたいと思ったんだ。動機をすり替えるな。
したくてしたわけじゃないとか、それは自分の心を守るための卑怯な言い訳だ。そんな醜い嘘で彼を傷つけるなら、俺はマジで死んだ方がいい。
だから────“これから起きること”は、すべて俺が望んだこと。
「光義。先に謝る。……ごめん」
震えそうな声を振り絞り、息も絶え絶えに続ける。今にも崩れそうな、青臭い告白だ。

「俺、お前に片想いしてるかもしれない」
「え」

彼らしかぬ甲高い声だった。薄紅色の頬を隠すように、腕で汗を拭っている。
俺も同じぐらい汗をかいてる。不安と恐怖、気まずさと羞恥心が綯い交ぜになって、でも光義を安心させなきゃという使命感に追われてる。
しっかりしろ俺。ちゃんと言うんだ。
「お前とキスしたい、って思ったんだ。これは、その。好き……ってことだよな」
「望……」
最後は不時着同然かもしれない。でも、これが今の自分にできる精一杯の表明だ。
両手を座面につき、視線を落とす。うだりそうな空間で、観念したように俯いた。
「お前がまだ俺のこと好きでいてくれるなら。今はもう、両片想いだよ」
友人とも兄弟とも違う大切な存在。光義の目を見て、正直に打ち明ける。
彼が笑うと嬉しい。彼が辛そうにしてると悲しい。
感情はいつも彼と連動していて、彼が全ての指標となってる。

この告白で、光義の心に光が差すのか。不安でおかしくなりそうだったけど、勢いよく抱き寄せられた。
「わっ……み、光義」
「望は、俺の願いを叶え過ぎだ」
背中に回る手に力が込められる。光義の声はまだ上擦っていた。
「このままじゃ、幸せ過ぎて死んじゃう……」
「そ、それは困るな」
彼の頬に手を伸ばし、優しく撫でる。
「これから楽しいこといっぱい待ってるんだから。……な?」
「うん……っ」
光義の硝子玉のような瞳は、波紋のように揺らいでいた。多分俺も同じなんだろうから、気づかないふりをして彼のほっぺをつまんだ。
「これからは両想いってことで良いか?」
「良い」
光義は俺をさらに強く抱き締めた。どこにも行かないのに、まるで誰かに盗られるのを拒むように。
ちなみに普通に痛い。あばら折れそうだから、座面を叩いて解放してもらう。

「改めて。恋人として、よろしくね」
「……ん。よろしく」

見つめ合い、何だか可笑しくて二人で吹き出した。
さっきまでの痛みが嘘みたいだ。今は嬉しすぎて苦しい。カラオケの終了時間を知らせる電話が鳴るまで、俺達は強く手を繋いでいた。