両片想いは両成敗




『……』

苦しそうに呟く佑昴に、頭の中が真っ白になった。
誰かの為に怒れる優しさも、大切なひとを想う愛情も。その全てに心を突き動かされることも、初めて知った。
本当に嫌なことや辛いことは、受け入れなくてもいいんだ。おかしいと言われて、そうだね、と頷く必要はない。
でも、嬉しいことには全力で応えたいと思った。ずっと傍にいて、本当の自分を見てくれていた子。……佑昴の為なら何だってする。
『ありがと。……俺も、佑昴が一番大事』
宥めながら綻ぶと、彼はようやく怒りを解いた。今度は眉を下げ、悲しそうに頬を掻く。
俺達は正反対だ。でも、誰にも理解されなくてもいい。それでも傍にいよう。
一緒に過ごすことがこの世界に対する反抗だ。俺は佑昴と手を繋ぎ、彼を家の方へ引っ張った。

佑昴は強い。優しくて真っ直ぐで、でも意外と涙脆い。
成長するにつれ、今度は自分が彼を守りたいと思った。それは彼が違う土地に引っ越すまで……いや、未だに胸の中で燻ってる。
『絢斗、ごめん。俺転校することになった』
胸の奥を突き刺す痛みも、緩やかな川の流れも、燃えるような夕陽も。あの日のことは鮮明に覚えてる。
でも絶対また会えるから、死んでも泣かない。代わりに、次会えたときはたくさん笑おう。

そのときには俺も今より成長して、彼を笑顔にしてみせる。


「お。やっぱここにいた!」
「佑昴」


街中から少し離れた、長閑な自然公園に沿う川。その堤防に立ち、風にあたっていた。
頭上から降りかかった声に気付き、振り返る。そこには幼い頃の面影を残す恋人の姿があった。
「ベンチの方にいるのかと思ったけど、いないからさ」
「あ……ごめんね。メッセージ送ればよかった」
夏休みに入り、今日は会う約束をしていた。せっかくだから昔よく遊んだ公園で会おうということになり、佑昴を待っていたのだ。
彼は途中コンビニに寄ったようで、階段から降り大慌てで棒アイスを差し出した。
「とけそう。てかとけてる! 早く食べてくれ」
「あはは、ありがとう!」
袋から取り出し、同じタイミングでアイスを齧る。頭がキンとしたけど、すごく爽快だった。
汗が光り、心地よい風をつくる。隣で屈む佑昴を見て、密かに微笑んだ。
「懐かしいな。昔、いつもここに降りて遊んでた」
「ねー。ザリガニとかいたんだけど、さすがにもういないか」
光に反射する川面を覗きこむ。自分と佑昴がゆらゆらと映っていた。
「何年も経ったもんね」
「ほんとなー。時間が経つの速すぎるよ」
うだりながら呟く佑昴に苦笑し、また前を向く。
「でも、時間が経たなきゃお前と再会できなかったから。……やっぱ良かった!」
「佑昴……」
最後にここに訪れたときは、酷く苦しかった。彼に引っ越しを告げられた日のことを思い出し、目を眇める。
でも今は、同じ場所に立ってると思えないほど幸福だ。幼かった自分も驚くぐらい、今の俺は嬉しそうに見える。
全て片想いが爆発した結果だから、ちょっと申し訳ないけど……絶対守る。幸せにする。
「佑昴」
「うん」
「大好き」
太陽も水面もアイスも、きらきら光ってる。でも一番輝いてるのは、やっぱりこの愛おしい子。
今なら胸を張って言える。
俺の世界を照らす陽だまりだ。
彼は俺を見返すと、照れくさそうに瞼を伏せ、アイスを齧った。

「……あんがと!」