きっかけが最悪過ぎる。でもこれで謎が解けた。
自らズボンを脱ぎ、下着を見せたこと。それが幼い光義の心にクリーンヒットしてしまったんだ。
「ちなみに、そのとき望が履いてた下着は」
「あー! 言うな! よくわかったから!」
手を掲げて制止すると、光義は嬉しそうに頷いた。今の「わかった」は話を理解したという意味なんだけど、何か勘違いしてそうだ。
どうしてやろうか。この問題児。
ひとり唸ってると、光義は前で指を組み、俯いた。
「でも、最終的には……頼られたのが嬉しかった。望が俺に頼ってくれたの、多分初めてだったから」
「そうか? お前は大人しいだけで、頭良いししっかりしてただろ」
「そんなことないよ。望がいないと上手く喋れなかった。望は俺の大切な友達で、家族で、……初恋の子なんだ」
んぐぐ。
ほんとは過去の痴態に暴れ狂いたいところなんだけど。恋人の告白が可愛すぎるから、忘れて彼をベッドに押し倒した。
「ま、望?」
驚く彼の隣に寝転び、頭まで布団をかける。真っ暗な空間をつくり、ホッとひと息ついた。
「名前」
「え?」
「名前で呼ぼうぜ。……昔みたいに」
互いの姿を視認できない。そんな状態で彼の手のひらを探し、ぎゅっと握った。
姿が見えないぶんちょっとの動きや息遣いが感じ取れ、どきどきした。俺は多分、今めちゃくちゃニヤけてるから…………この状態が解除されるまでは、暗闇の中にいたい。
「転校初日に一回だけ呼んでくれたの……すごいびっくりしたけど、嬉しかったんだ」
独りって、やっぱ寂しいから。できればもう経験したくない。
そして、大切な恋人にも。絶対寂しい想いはさせない。
再会したときは何か照れくさかったのと、自分が知ってる彼はもういないような気がしてしまって。多分、自分の心を守る為に苗字で呼んだ。
彼も同じ心境だったんだろうか。そう思うと、めちゃくちゃ申し訳ない。
布団からひょこっと顔を出すと、光義も乱れた髪のまま這い出て笑った。
「やっぱり、佑昴は佑昴だね」
「お前もな。……絢斗」
俺と彼は、他のひとには理解できない組み合わせだと思う。
何で一緒にいるのか訊かれたら、幼馴染だからと答えるしかない。でも幼馴染だから仲がいいわけじゃない。彼……絢斗が心の内を明かしてくれるから、俺も自分が気付いてなかった想いを取り出せるんだ。
俺が素直なんじゃない。素直にならざるを得ない相手が彼だ。
せっかく布団を敷いたけど、その夜は同じベッドで眠った。
お泊まり保育でも寝たことがあったとか、ドキドキとは程遠い昔話をして。時々抱き寄って。
気付いたら朝を迎えていた。
「……」
楽しい楽しい土曜日。けどそれ以上に、恋人が傍にいることが幸せ。瞼をこすると、不意に頬をつつかれた。
「おはよう、佑昴」
「おはよ。み……絢斗」
慌てて言い直し、体を起こす。大あくびをしてベッドから降りようとしたけど、何だか寂しそうだからやめた。
超名残惜しそう。まだまだ一緒に眠っていたい感じだ。
絢斗は無表情だけど、何となくわかる。中々ベッドから起きようとしないところとか、指を折ったり伸ばしたりしてるところとか。
俺も学習したなぁ。瞼を伏せて、彼の胸に倒れた。
「佑昴……」
「へへ。寝起きの甘えたは、恋人の特権だよな」
人目を気にせず、思う存分イチャイチャできるのは今だけだ。
「特権だね。……やっぱりもうちょっとだけ、ごろごろしない?」
「賛成!」
本音を言うと、俺もまだ離れたくない。アホかって言われるほど彼に甘えて、愛されたい。
( 愛…… )
まだ口にするのは勇気がいる言葉だけど、少しずつ変わってきている。恋人にもらった大きな想いに、一つずつ名前をつけ、忘れないように仕舞っている。
もっと好きになってもらえるように、俺も自分が持てる全ての愛を彼に注ぐんだ。
「絢斗。俺も、初恋はお前だ。これまでもこれからも、お前しか好きにならない」
鼻先があたりそうな距離で見つめ合う。ちょっと拗らせてるけど、可愛くて優しくて、自慢の恋人に微笑む。
「だから、そのっ……今、やばい幸せ」
「……うん。俺もおかしくなりそう⋯⋯というか、おかしくなってる」
頭に優しく手が添えられ、引き寄せられる。今までで一番甘酸っぱいキスだった。
もう何度目かわからないほどじゃれ合って、とりとめもなくゲームや進路の話をして、昼前に大急ぎで部屋を片した。互いに襟元を隠し、髪を直したところで両親が帰ってきた。間一髪だ。
「絢斗くん、久しぶり〜! まぁまぁ、大きくなったわねえ!」
「本当、びっくりしたよ。こんなかっこいいお兄さんになって……佑昴と全然違う!」
…………。
百歩譲って他人が言うならともかく、息子を擁護しないのはどうかと思う。
誠に遺憾だけど、まあ絢斗がかっこいいのは変えようのない事実だから、ぐっと飲み込んだ。
「お久しぶりです。急に泊まりに来てすみませんでした」
「いいのよ、せっかくだしお昼も食べていって。……あら、昨日なにか作ったの?」
母はキッチンを見て振り返った。食器は片付けたけど、さすがちょっとの違いにも気付くみたいだ。
「うん。絢斗が料理上手くて……それで飯作ってもらった。むっちゃ美味かったよ」
「そうなんです。キッチンも勝手に使ってしまってすみません」
絢斗は申し訳なさそうに頭を下げる。でも、母と父は笑顔でかぶりを振った。
「大丈夫だよ。佑昴なんて野菜炒めが限界だから、教えてやってほしいぐらいだ」
「そうねぇ。それかもうお嫁に迎えてあげてほしいわ」
なんてことを言うんだ。付き合ってるからいいけど、今日日その手の冗談はセクハラだぞ。
身内に言われてるからどうしようもないけど……ひとりむくれてると、絢斗は俺の方に向き、微笑んだ。
「……だって、佑昴。もういっそ結婚しちゃう?」
「なっ!」
彼は笑ってるけど、俺にはわかる。これはガチだ。
しかし絢斗のガチトーンがわからない母達は、楽しそうに頷いた。
「良かったな、佑昴」
「ははは……」
何とか笑い返したものの、引き攣ってしまった。俺は未来のことを大真面目に考えてる。だからこそ気が気じゃない。
でも絢斗は違う。自信たっぷり、余裕たっぷりに俺の手を取り、宣言する。
「大丈夫だよ、佑昴。俺が守るし、一生面倒見る」
その根拠のない自信はどこから来るのか。心底不思議だけど、やっぱりこの恋人は最強だ。
久しぶりに賑やかな家で、浮かれそうな心を押さえるのが大変だった。

