両片想いは両成敗



楯山の誤解も解け、光義と帰路につく。
一時はどうなることかと思ったけど、今は安堵のあまり感涙しそうだった。
「あーっ、ほんとよかった! 俺この学校で伝説になるかと思ったよ。もちろん悪い方の!」
「ごめんね、望。俺がもっと周りを警戒してれば楯山に気付かれずに済んだのに」
「いやいや、いきなり脱いだ俺が悪い。もう見られる可能性がある場所では絶対しない! ごめんな」
言葉にすると一層、最初からそうしろと自分自身に毒づきたくなる。
でもこれ以上落ち込んでいても仕方ない。鞄を掛け直し、光義の歩幅に合わせた。
「光義が来てくれて助かった。し、……嬉しかった」
「はは。俺は最低だけどね。二人の話を盗み聞きしに行ったんだから」
でも気になって駄目だった、と光義は零した。
「俺は望に過保護だ。頭ではわかってるけど、自分で自分をコントロールできない」
光義は足を止め、隣にいる俺を見据えた。
「望が好きなもの、嫌いなものを全部把握したいし、周りの人間関係も網羅したいとか思っちゃうんだよ。自分でも引く」
彼は基本クールだ。取り乱すことなんてまずないし、クラスの中じゃ一等大人びてる。だから俺のことで暴走してるとギャップがすごい。
ただ、そこまで俺を好いてくれてるのだと思うと……彼には申し訳ないが、舞い上がりそうになる。
「……大丈夫だろ。俺だって似たようなもんだし」
それでも、跳び跳ねて喜ぶわけにはいかない。咳払いし、わざと落ち着き払ってるふりをした。
「お前が知らない娘と話してるの見ると、ハラハラする。お前はかっこいいからさ……隣に可愛い女子がいる方が似合うんだよ。それに気付いて、時々現実に帰る」
ずっと胸の中で燻っていた、黒い感情。吐き出したら楽になるかと思ったけど、むしろ息苦しくなった。
言葉は強い力を持つ。相手に伝えた瞬間、具現化してしまうんじゃないかと言うほどの存在感を帯びる。
「あ。ちなみに俺は隣に女子がいても似合わな」
「望」
重たい空気を変えようと笑いかける。しかしそれはやんわり止められた。
光義が俺を引き寄せ、息が当たりそうな距離で見つめてきたから。
いくら周りに誰もいないとは言え、この近さで向かい合ってんのはやばい。
やばいのに……光義から目が離せない。それどころか、指一本動かすことができなかった。
「大丈夫。俺は望しか見てない。……というより、望しか見えないんだ。望以外のことは頭に入らないし、日常生活に支障が出るレベル」
「それは困らないか?」
「うん。困るけど、今が一番幸せだよ。こうやって望に触れられるから」
手をぎゅっと握られる。俺よりひと回り大きなその手は包容力があって、俺をどこまでも引っ張っていきそうだった。
「望の喜びはもちろん、不安も全部共有したい。だからこれからは隠さないで、全部吐き出して。絶対受け止めるから」
「光義……」
力強く宣言する彼は、俺の心をかっ攫うのに充分過ぎた。
美形で華奢なくせに、男前過ぎる。目を合わせてるのも恥ずかしくなって、顔下半分を手で隠した。
俺だけに執着して、俺だけを甘やかして。ぶっちゃけ何でそこまで、と不思議で仕方ない。
でも困ったことに、嬉しいんだ。ここまで壮大な感情をぶつけられたのは生まれて初めてだから。
「それから、望はもっと自分に自信を持った方がいいよ。楯山も言ってたけど、ピュア過ぎてかわ……危ないんだ」
「それもよくわかんないんだけどな。俺は全然ピュアじゃない」
「ピュアだよ。今だって恥ずかしがって、俺と目を合わさないじゃん」
光義は俺の手の甲にキスし、微笑んだ。少し得意げにしてるから、思わず後ずさる。
「それはお前が恥ずかしいことばっか言うから……! ふ、普通照れるっつうの!」
素直に受け入れたらバカップルが誕生するだけだ。そう思ってそっぽを向いたけど、腰を引き寄せられてバランスを崩す。今度は光義の胸の中におさまってしまった。
「照れてるのも可愛い」
「こらこら、外だから!」
てか、何で俺ばっか周りを気にしなきゃいけないんだ。不満が爆発しそうだが、光義は離れる様子がない。
俺だって本当は周りを気にせず抱き締め返したい。
甘えたい。でもそれは、びっくりするほどハードルが高い。
( 乗り越えられる気がしない…… )
いや。
⋯⋯乗り越えなくてもいいのか?
何度かまばたきし、彼の温もりに意識を向ける。
いっそ、一度倒れてしまおう。そんでハードルの下をくぐり抜けよう。
抜け道は単純なものだった。全身の力を抜き、彼にもたれかかる。
「……なあ、誰かに見られたらどうする?」
「その時はその時!」
「ははっ」
あれほど冷静な光義がはっちゃけてるのに、俺が冷静ぶるのも変な話だった。吹き出し、笑いをこらえながら彼の背に手を回す。
すごい背徳感。と、かつてない高揚感。俺を取り巻く最後のベールは、光義の甘い囁き。
「やっと甘えてくれた。……俺の可愛いお姫様」
「だからそういう……」
恥ずかしい台詞を言わないでほしいんだけど。俺もだいぶ疲れてるらしく、喉がつっかえてしまった。
もう、照れてる方が恥ずかしいのかもしれん。いい加減観念して、光義のペースに取り込まれよう。
「俺がお姫様なら、お前は王子様ってこと?」
「そうだね。結婚するときは俺が旦那で、望が奥さん」
「う〜……まだお姫様でいい!」
結婚生活がどんなものか、まだ想像できない。でも顔が火照り始めたから、慌てて話をスライドした。
「転校初日から、空回りしかしてない。アホ過ぎる姫ってことにしてくれ」
「良いんだよ! 俺からすれば、可愛い以外感想ないから!」
光義は俺をあやすように背中をポンポン叩いた。
彼はほんっと甘い。甘くて胸焼けしそう。

でもその甘さに泣きそうになってる……俺は弱くて。どうしようもなく、光義のことが好きなんだ。