誰かが君に恋している

 卓也の屈託ない笑みは何度も見てきたけど、その日のそれはこれ迄見てきた中でも極上の笑みだ。相手の喜んでいる顔を見ると、反射的に自分も嬉しくなるものだが、どうしたものか、この時は全くの正反対だ。どうしようもない後ろめたさに囚われる。

「実はさ、SNSでメッセージが届いてさ」

 やっぱりだ、極上の笑みの理由は僕が送ったメッセージにあるらしい。

「女の子からなんだ。YURIっていうだけで、知らない子なんだけど……」

 なんで“子”なんだ。YURIのプロフは性別も生年月日も不詳だ。ハンドルネームから女性だと判断したのならわかるが、“子”は? たしかにこちらが送ったメッセージには“学生です”って書いたけど、大学生かもしれないし、大学には僕達高校生が“子”と呼ぶには失礼にあたる高年齢の成人女性だっているだろうし……

「本当、こんなの初めてだよ。女の子からメッセージをもらうなんて……」

 卓也は学校が終わるまでずっとニヤニヤしていた。

 学校から帰って、PCでYURIのアカウントでSNSにログインした。受信箱にTAKUYAから来たメッセージが来ていた。
 
“受験勉強中ということで、そちらの事情がわかりました。俺も高三で、クラスの大半が受験生です。俺は卒業したら、家の仕事を手伝うつもりなので、受験はしません。でも、YURIちゃんのことが気になってなりません。どんな人なのか知りたい。画像を見せてもらえませんか? TAKUYA”
 
“無理です。SNSで自分の顔画像を公開するつもりはありません。ネットでは基本的にROMるだけです。自分を晒したくありません。YURI”
 
“では、メールに添付して送ってもらえませんか? 俺のメアドを送ります”
 
“私、人に見てもらえるようなルックスじゃないんです。私を見たらがっかりします。SNSを拝見していて、あなたが成子坂46の里奈さんが好きだということも知っています。あんな可愛らしい子ではありません。あなたをがっかりさせたくないんです”
 
“そんなの気にしません。どんな容姿だろうと、自分を気に入ってもらえたのなら、俺はその人のことを好きになれる自信があります”
 
“本当ですか? その人がどんな人であってもですか?”
 
“本当です”
 
“その人の容姿がどんなに醜くてもですか?”
 
“どんな人であっても好きになります”
 
 男でもですか……?

 そう書こうとして、手を止めた。

 ずいぶん調子に乗って長々とメッセージのやりとりをしてしまったようだ。自分はネカマじゃない。YURIのアカウントでメッセージを送るのは一回きりにしようと思っていたのに。
  
“どんな人であっても好きになります”
 
 その最後に受け取ったメッセージには、僕は返信しなかった。