自宅のPCのメールソフトに、普段使っているのとは別の新しいアカウントを登録した。この二つめのアカウントはIDを“YURI”とした。僕の書きかけのネット小説のヒロイン、ユリナの名前から取ったのだ。自分がこのアカウントのIDでログインした時、僕は“YURI”になり代わる。そして、“YURI”として、卓也にメッセージを送る。卓也にずっと片思いを抱き続けている少女として……
“こんにちは。いきなりのメッセージで驚かせてしまってごめんなさい。SNSの画像を一目見て、私はTAKUYAさんのことが好きになりました。たぶん自分では意識していないでしょうが、あなたには他の人にはない魅力があります。TAKUYAさんはあったかそうで、ほんわかしていて、クリスマスプレゼントでもらったクマのぬいぐるみのようにぎゅーっと抱きしめてあげたくなるような方です。どうか世の中にはこんな私みたいなTAKUYAフアンもいるんだということを忘れないで下さい。陰ながら応援しています。YURI”
SNSの“メッセージ”の画面で文章を入力し、“送る”ボタンを押す。“送信しました”のダイアログが表示された後、僕は聊か罪悪感に苛まれた。
こんなことしてよいのだろうか、これって“ネカマ”っていうやつじゃないか……
YURIのSNSのプロフは、性別も生年月日も居住地も出身地も、諸々の情報はすべて未設定にしたうえ非公開にした。送ったメールには自分は女性だとは書いていないから騙してはいないつもりだけど…… でも、そんなの理由にならない。向こうはメールの送り主を女性だと思い込むだろう。
ネカマ……ネットワークオカマの略称。交際相手募集の掲示板でゲイが女性のフリしてストレートの男性にメールを送る。そうやって相手の男性と近づきになる。偽りのロマンスを楽しみながらあなたの画像を送ってとメールでせがみ、あわよくばエッチな画像を手に入れるのだとか……
そんなのは犯罪だ、なりすましだ。そりゃあ卓也のエッチな画像を欲しくないと言えば嘘になるけど、断じてそんなものが目的ではない。誓って言う。ただ知ってもらいたいだけだ。人の価値観は様々なんだ、広い世界にはおまえのことが好きだという奴もいるんだということを……
メッセージを送って一時間と経っていなかった。作ったばかりのYURIのアカウントの受信箱に、一通メッセージが放り込まれていた。
“YURIちゃん、メッセージありがとう。びっくりしました。俺のこと、そんな風に思ってくれている人がいたなんて。すごい嬉しいです。でも、陰ながら応援してくれているって、なんでですか? なんで陰ながらなんですか? 俺、もっとYURIちゃんのことが知りたいです、もしもYURIちゃんがよけれれば、YURIちゃんに会いたいと思っています。陰じゃない陽の当たる所で会って話がしたいです。TAKUYA”
TAKUYAからのメッセージを読み返した。何度も読み返した。けど、それだけだ。返信してやるつもりはない。初めからメッセージを一度送ってそれきりにするつもりだった。ただ先方に自分のことを想っている人間がいるということを知ってもらえればそれで十分。目的は果たせた。いつまでも騙すつもりなんかない。ネカマでいるつもりなんか……
SNSの画面を閉じて、小説の投稿サイトにアクセスした。毎日の日課にしている書きかけの原稿に取り掛かった。現在高校三年で、本当は受験勉強をしなければならないのだけど、就寝前の30分ぐらいは好きなことをするようにしている。
30分のつもりがつい一時間になった。もう夜の11時を過ぎている。やばっ。今夜は日本史も勉強したかったのに、結局その時間がとれなかった……
PCの電源を落とす前に、YURIのアカウントでSNSにログインしてみた。すると、受信箱にはさっきよりも三通、受信メッセージが増えていた。
“YURIちゃんのことをよく知りたい。YURIちゃんはどんな子ですか? 芸能人なら誰に似ていますか?”
“YURIちゃんはどこに住んでいるんですか?”
“YURIちゃんは何歳ですか?”
“YURIちゃんは学生ですか? 俺と同じ高校生ですか?”
返信してやりたい思いにかられたけど、抑制した。いろいろ質問されているけど、その一つも答えられそうにない。こちらの素性を明かすようなものには答えられないから……
いや、この質問だったらいいかも……
机の端に積み重ねられた、やる予定だった日本史の問題集を横目で見て、僕はPCのキーボートを叩いた。
“学生です。今は受験勉強の真っ最中です。暫くは勉強のことしか考えたくありません。だから、TAKUYAさんにももうメッセージは送れません。でも、前のメッセージに書いたことは本当です。私はあなたのような方が好みです。YURI”
僕は、SNSの画面をブラウザーごと閉じ、すぐさまPCもシャットダウンした。
“こんにちは。いきなりのメッセージで驚かせてしまってごめんなさい。SNSの画像を一目見て、私はTAKUYAさんのことが好きになりました。たぶん自分では意識していないでしょうが、あなたには他の人にはない魅力があります。TAKUYAさんはあったかそうで、ほんわかしていて、クリスマスプレゼントでもらったクマのぬいぐるみのようにぎゅーっと抱きしめてあげたくなるような方です。どうか世の中にはこんな私みたいなTAKUYAフアンもいるんだということを忘れないで下さい。陰ながら応援しています。YURI”
SNSの“メッセージ”の画面で文章を入力し、“送る”ボタンを押す。“送信しました”のダイアログが表示された後、僕は聊か罪悪感に苛まれた。
こんなことしてよいのだろうか、これって“ネカマ”っていうやつじゃないか……
YURIのSNSのプロフは、性別も生年月日も居住地も出身地も、諸々の情報はすべて未設定にしたうえ非公開にした。送ったメールには自分は女性だとは書いていないから騙してはいないつもりだけど…… でも、そんなの理由にならない。向こうはメールの送り主を女性だと思い込むだろう。
ネカマ……ネットワークオカマの略称。交際相手募集の掲示板でゲイが女性のフリしてストレートの男性にメールを送る。そうやって相手の男性と近づきになる。偽りのロマンスを楽しみながらあなたの画像を送ってとメールでせがみ、あわよくばエッチな画像を手に入れるのだとか……
そんなのは犯罪だ、なりすましだ。そりゃあ卓也のエッチな画像を欲しくないと言えば嘘になるけど、断じてそんなものが目的ではない。誓って言う。ただ知ってもらいたいだけだ。人の価値観は様々なんだ、広い世界にはおまえのことが好きだという奴もいるんだということを……
メッセージを送って一時間と経っていなかった。作ったばかりのYURIのアカウントの受信箱に、一通メッセージが放り込まれていた。
“YURIちゃん、メッセージありがとう。びっくりしました。俺のこと、そんな風に思ってくれている人がいたなんて。すごい嬉しいです。でも、陰ながら応援してくれているって、なんでですか? なんで陰ながらなんですか? 俺、もっとYURIちゃんのことが知りたいです、もしもYURIちゃんがよけれれば、YURIちゃんに会いたいと思っています。陰じゃない陽の当たる所で会って話がしたいです。TAKUYA”
TAKUYAからのメッセージを読み返した。何度も読み返した。けど、それだけだ。返信してやるつもりはない。初めからメッセージを一度送ってそれきりにするつもりだった。ただ先方に自分のことを想っている人間がいるということを知ってもらえればそれで十分。目的は果たせた。いつまでも騙すつもりなんかない。ネカマでいるつもりなんか……
SNSの画面を閉じて、小説の投稿サイトにアクセスした。毎日の日課にしている書きかけの原稿に取り掛かった。現在高校三年で、本当は受験勉強をしなければならないのだけど、就寝前の30分ぐらいは好きなことをするようにしている。
30分のつもりがつい一時間になった。もう夜の11時を過ぎている。やばっ。今夜は日本史も勉強したかったのに、結局その時間がとれなかった……
PCの電源を落とす前に、YURIのアカウントでSNSにログインしてみた。すると、受信箱にはさっきよりも三通、受信メッセージが増えていた。
“YURIちゃんのことをよく知りたい。YURIちゃんはどんな子ですか? 芸能人なら誰に似ていますか?”
“YURIちゃんはどこに住んでいるんですか?”
“YURIちゃんは何歳ですか?”
“YURIちゃんは学生ですか? 俺と同じ高校生ですか?”
返信してやりたい思いにかられたけど、抑制した。いろいろ質問されているけど、その一つも答えられそうにない。こちらの素性を明かすようなものには答えられないから……
いや、この質問だったらいいかも……
机の端に積み重ねられた、やる予定だった日本史の問題集を横目で見て、僕はPCのキーボートを叩いた。
“学生です。今は受験勉強の真っ最中です。暫くは勉強のことしか考えたくありません。だから、TAKUYAさんにももうメッセージは送れません。でも、前のメッセージに書いたことは本当です。私はあなたのような方が好みです。YURI”
僕は、SNSの画面をブラウザーごと閉じ、すぐさまPCもシャットダウンした。
