勝手に覗いて幻滅すんなよ

 「染井さんは何も変じゃないわ」

 教育実習の大学生に言われた。

 相談しようと思った理由は、同性だったということと、週明けには教育実習が終わって、その人が学校からいなくなるから。もう会うことがないのなら、変な奴だと思われても別にいいやと思った。

 「私も恋愛は好きじゃないの。多分、染井さんとは別の理由だけどね」

 「気持ち悪くならないの?」

 「そうね。どちらかと言うと、私が気持ち悪がられてそれがトラウマになっちゃったからかしら。人を好きになるって、とっても難しいことなのよ。そして、好きになってもらうのはもっと難しいことなの」

 この人の言うことが本当なら、両親が愛してくれなかったのは織音のせいということになる。だって、織音は両親のことが好きじゃない。だから、好きになるよりも難しいらしい〝好かれる〟ということが叶わなくて当然だ。

 「とにかく、染井さんは何も特別ということはないのよ。今のご時世、多様性って言葉が守ってくれるわけだしね。それに、染井さんはたまたま恋愛という面において人と違う価値観を持っているけれど、誰しも一つくらいは他人と違う価値観を持っているものよ。
それが恋愛に表れない人だっている。染井さんのように恋愛に表れる人もいる。でもね、この世界には染井さんと同じ想いを抱えている人も沢山いるはずなの。だから、きっと染井さんにも愛せる人、愛されることが許せる人がその内現れると思うわ。大丈夫、あなたも恋が出来る日が来るわよ」

 「……そうですか。相談に乗ってくれてありがとうございました」

 すると、その人はほっと安堵の息を吐いて相好を崩した。

 「お役に立ててよかったわ。ちょっとは先生っぽく見えたんじゃない?」

 「はい。そう思います」

 そんなわけないだろ。

 言っていることの一割だって理解できなかった。上っ面でそれっぽい言葉を並べて、結局、織音のことなんか微塵も考えようとしていない。

 愛が芽生える人なんていらない。織音は恋愛がしたいなんて相談はしていないのだ。両親のことも、今までのことも、全部打ち明けたのに。何を聞いていたら、織音が恋愛を出来るようになりたがっている、この拒絶を克服したがっていると解釈するのだろうか。

 それから、色んな人に相談してみたけれど、誰も織音のことをちゃんと分かってくれなかった。みんな、織音を肯定したかと思えば、結局多数派の枠に戻そうとしてくる。

 でも、素直に気持ちを言えない自分も悪いのだ。――そのままでいいよ。そう言ってほしかっただけなのに。