勝手に覗いて幻滅すんなよ

 例えば、手元に友達のスマホがあるとする。恋人のスマホでもいい。とにかく、自分と仲のいい人間のスマホだ。

 周りには誰もいない一人きりの状況で、そのスマホにロックがかかっていないことが分かったら、みんなはどうするのだろう。

 人によってはすぐに中身を見てしまうだろうし、覗くことを躊躇(ためら)う人もいると思う。ただ、誰しもが、そのスマホの中身が気になることは確かだ。

 現代人にとって必需品とも言えるスマホには、たくさんの情報が詰まっている。普段、どんなアプリを使っているのか、誰と連絡を取り合っているのか、何を検索しているのか。

 スマホの中身を見てしまえば、その人の趣味嗜()(こう)、性格が(つか)める。きっと、いつもは人前に見せないで隠していることだって知ることが出来る。分かってしまうに違いない。

 覗いたって誰にもバレやしない。だけど、仮に友達想いの人がいたとして、スマホを部屋の隅に遠ざけても、頻繁にそのスマホから通知が鳴り響いたら、どうだろうか。

 人のスマホを勝手に覗き見る罪悪感と、知りたいという好奇心の両方に、(やなぎ)胡桃(くるみ)は今まさに(さいな)まれていた。

 テーブルに置かれた自らのスマホを見下ろし、葛藤する。通知が鳴る(たび)に画面がぱっと明るくなり、胡桃が設定した覚えのない背景画像が浮かび上がった。

 今、ここにあるのは確かに胡桃のスマホだ。ただし、その中身は自分のものではない。同じ部活の友人のスマホの中身が、胡桃の端末に入っている。

 普通ならあり得ない状況だからこそ、胡桃は余計に悩んだ。見るべきか、否か。

 これが見知らぬ他人のスマホの中身であれば、何の躊躇(ためら)いもなく覗くのだけど。

 「うーん……」

 一人の部屋で(うな)る。

 そして、悩んだ挙句、きっとこんな状況ならみんな見るに決まっている。そんな言い訳を心の中で(つぶや)き、胡桃はスマホを手に取った。