現代の夢文化と伝説についての民俗学的考察

写真①

〈夏の夜、河原に集う人々〉

夜の河原に、無数の人影が集まっている。
子供と大人の区別は遠目にはつかない。
それぞれが手に提灯や松明を持ち、川のせせらぎと虫の声だけが周囲を満たしている。

河原の一角、田んぼへ続くあぜ道の手前に、
**木で組まれた小さな社(やしろ)**が据えられている。

社は即席のものだが、
竹を曲げ、草を束ね、注連のように巡らせて荘厳されている。
屋根とも壁ともつかぬ板には、
無数の半紙が貼り付けられている。

そこには墨書で、

「悪虫送り」

「虫送り」

とだけ記されている。

書き手の癖はまちまちで、
子供の筆跡らしきものも混じっている。

写真②

〈虫の社〉

社の内部には、
藁、枯れ草、竹切れ、紙片が詰め込まれている。

特定の神像や御神体はない。
あるのは、
「虫を集めるための入れ物」
としての構造だけである。

周囲に集まる人々は、
誰も社の中を覗き込もうとはしない。
役目を終えたものとして、
すでに扱われているように見える。


写真③

〈火入れ〉

やがて、
社の下部に火が入れられる。

炎は一気に上がらない。
乾いた草と紙が、
音もなく、じわじわと赤くなる。

半紙に書かれた「虫送り」の文字が、
火に縁取られるように黒く縮み、
やがて読めなくなる。

燃え落ちた灰は、
そのまま田のあぜ道へ落とされる。

誰も、それを避けない。

写真④

〈田んぼのあぜ道〉

火を終えた社の残骸は、
田んぼの脇、あぜ道に崩される。

踏み均され、
草と土と混ざり合う。

この行為が終わると、
人々は自然に散っていく。
掛け声も、締めの言葉もない。


聞き書き
(語り手:集落の古老・男性)

「あれはな、
田の虫さ、
山さ返すためのもんだべ」

「昔ぁ、
虫は山から下りて来るもんだって、
そう言われてたんだ」

「だから、
こうやって社こさ作って、
紙貼って、
火ぃ入れて、
川ぁ渡して、
山さ帰す」

「神さま呼ぶんでねぇ。
虫ぁ、
人の言うごと聞かねぇから、
形だけ整えて、
行く道ぁ示すんだ」

「やり方ぁ、
どこで習ったってもんでねぇ。
皆、
見て覚えんだ」

「やめっと、
何か起きるって話でもねぇが、
やらねぇと、
落ち着かねぇ」