「マナト。2本目の動画さ、昨日は予定の半分しか撮れなかったでしょ。でも「イタル地図」のお陰で島の全貌を把握できたから、今日中に撮り終われそうだよ。安心して」
キャップをかぶりカメラを抱えた僕に、ミツバくんが微笑む。
「よかった」
睡眠も水分も食事も、しっかり摂ったし、なにより今日は島に程よい風が吹いている。
「夕方までに撮り終わって、明日、明後日はいよいよBL動画だ。頑張ろうな!」
「う、うん。で、今日はどこから撮る?」
「マナトが熱中症で倒れた瞬間の映像が、撮れてた。俺を撮影していた絵が、急に揺れて空を写すんだ。あれを使わせてもらいたい。で、そのすぐ次のシーンとして、またこのホテルからスタート」
「うん。もちろんだよ。あの映像使って」
「じゃ、歩き出しながら、やっぱり睡眠、水分、食事は大事だなって話すシーンをまず撮る」
「OK。さっき教えてもらった白い砂浜や、窪地にも行くの?」
「いや、あれはBLのほうで使いたい」
「わかった」
「今日撮る2本目の映像の中にいる俺もマナトも、地蔵は膝丈くらいの小さきものだって、思い込んでる。だから、下ばっかり探すんだ。で、なかなか見つからない」
「なるほどね。だとしたら、小さい白い花が咲いてる場所は使えるかもね」
「そうそう。わかってんな」
—
撮影しながら、森を進む。
僕が持つカメラはミツバくんを映し、彼はカメラ越しに話しかけてくる。
『全然見つからないな、地蔵』
『うん。そもそも財宝を埋めたっていうのは、100年くらい前の話なんでしょ?もう無いのかも』
『でも、地蔵だぞ。簡単には壊したり、撤去したりできないだろ。罰が当たりそうで』
『確かにね』
僕とミツバくんは、アドリブでフランクに会話を交わす。
それは、彼と僕が親しい友人だという設定だから。
「高校からの友達で、大学生になっても、ことある事につるんでいる2人」
そう説明を受けた。
実際の僕には、そんな友達はいない。
男の子を「好きだ」と思ってしまいそうな自分を隠すため、常に人と距離を置いて過ごしてきたから。
ゼミの仲間とも、挨拶や雑談は交わすけれど、旅行に行ったり、腹を割って語り合うような付き合いは避けている。
だから「フェイク」でも、友情関係というものを、味わえるのは楽しかった。
この「友情」は、明日から撮影するBLみたいな「恋愛感情へ発展するかもしれない関係」とは大きく異なる。
グッと踏み込んで発言したり、じゃれ合うように触れ合っても、それは絶対に恋愛には発展しない安全なもの。
男同士の友情としての、それ以上でもそれ以下でもない親密さ。
いずれにしろ、僕には初めての経験で新鮮だった。
—
昼飯は、ホテルのコックさんにおにぎりを握ってもらい、持参している。
小さな白い花の咲く場所で、それを実際に食べながら、休憩シーンを撮影していた。
『地蔵なんて、どこにもないのかもしれないな……』
『そもそも、この赤樹島じゃない可能性もあるんじゃない?』
『いや。そこを疑うなよ。あれだけ調べたんだから』
カメラの液晶モニター越しに、ミツバくんの顔に怒りが滲む。
こんなとき、友達だったら何ていうんだろ?
彼の機嫌を取る?いや、対等な関係なのだから、そんな必要もない。
『おにぎり、残り2個だけど、タラコと梅どっちがいい?』
さらっと話題を変えた。
話をそらしたというより、ミツバくんの怒った顔に慣れている友達を演じ、スルーしたのだ。
『タラコ』
『えっ、僕もタラコがいい』
本当はどっちのおにぎりでもよかったけれど、僕はふざけてタラコのおにぎりにかぶりつく。
『おい!俺もタラコ!』
カメラに向かって、彼の手が近づいてきた。
液晶モニターには、アップになったミツバくんの顔が映る。
そうして、僕の手の中にあったおにぎりに、彼がガブリと嚙みついた。
それをモグモグと咀嚼するミツバくんは、してやったりの満面の笑顔だ。
僕の友達としての演技が間違っていなかったことを、証明する。
ただ、僕の顔をカメラが捉えていなくて、助かった。
だって、たったそれだけのことに、僕の顔は赤く染まっていたから。
完全に、友達に対する反応ではなかったから……。
—
動画の中の僕らは、申の刻、16時より少し前にどうにかこうにか、地蔵岩を見つけた。
ミツバくんはリュックサックから、ホテルで借りた小さなスコップを取り出し、地蔵の影の頭の辺りを掘り起こす。
『おぉ、なんか埋まってるぞ』
そこでカメラを一旦止め、掘り起こしたカバンを石で叩いたりして、ダメージ加工と細工を加える。
そうして、もう一度土に埋め、掘り起こすシーンを撮影した。
カバンからは財宝が出てきて、ミツバくんは『すごい、すごい!』と喜んだ。
念のため、地蔵の影の尻にあたる部分も掘ってみるが、空の宝箱だけが出てくる。
『「尻隠さず」なるほどねー』
でも、カバンから出てきた財宝が、1本目で埋めた数に比べ、明らかに半減していると、視聴者だけが気づくはず。
動画の中のミツバくんは、それに気付くことができず、ただ喜んで「完」となった。
—
無事に2本目の撮影を終えた僕らは、ホテルに戻り乾杯をした。
達成感で満たされている。
「マナト、これ課題図書」
そんな僕に、ミツバくんはタブレットを渡してきた。
「何これ?漫画?」
「BL漫画。何冊かピックアップして、マナトって本棚フォルダに入れておいたから。明日の朝までに読んでおいて」
どの本の表紙も、直視するだけで恥ずかしい気持ちになるものばかりだった。
キャップをかぶりカメラを抱えた僕に、ミツバくんが微笑む。
「よかった」
睡眠も水分も食事も、しっかり摂ったし、なにより今日は島に程よい風が吹いている。
「夕方までに撮り終わって、明日、明後日はいよいよBL動画だ。頑張ろうな!」
「う、うん。で、今日はどこから撮る?」
「マナトが熱中症で倒れた瞬間の映像が、撮れてた。俺を撮影していた絵が、急に揺れて空を写すんだ。あれを使わせてもらいたい。で、そのすぐ次のシーンとして、またこのホテルからスタート」
「うん。もちろんだよ。あの映像使って」
「じゃ、歩き出しながら、やっぱり睡眠、水分、食事は大事だなって話すシーンをまず撮る」
「OK。さっき教えてもらった白い砂浜や、窪地にも行くの?」
「いや、あれはBLのほうで使いたい」
「わかった」
「今日撮る2本目の映像の中にいる俺もマナトも、地蔵は膝丈くらいの小さきものだって、思い込んでる。だから、下ばっかり探すんだ。で、なかなか見つからない」
「なるほどね。だとしたら、小さい白い花が咲いてる場所は使えるかもね」
「そうそう。わかってんな」
—
撮影しながら、森を進む。
僕が持つカメラはミツバくんを映し、彼はカメラ越しに話しかけてくる。
『全然見つからないな、地蔵』
『うん。そもそも財宝を埋めたっていうのは、100年くらい前の話なんでしょ?もう無いのかも』
『でも、地蔵だぞ。簡単には壊したり、撤去したりできないだろ。罰が当たりそうで』
『確かにね』
僕とミツバくんは、アドリブでフランクに会話を交わす。
それは、彼と僕が親しい友人だという設定だから。
「高校からの友達で、大学生になっても、ことある事につるんでいる2人」
そう説明を受けた。
実際の僕には、そんな友達はいない。
男の子を「好きだ」と思ってしまいそうな自分を隠すため、常に人と距離を置いて過ごしてきたから。
ゼミの仲間とも、挨拶や雑談は交わすけれど、旅行に行ったり、腹を割って語り合うような付き合いは避けている。
だから「フェイク」でも、友情関係というものを、味わえるのは楽しかった。
この「友情」は、明日から撮影するBLみたいな「恋愛感情へ発展するかもしれない関係」とは大きく異なる。
グッと踏み込んで発言したり、じゃれ合うように触れ合っても、それは絶対に恋愛には発展しない安全なもの。
男同士の友情としての、それ以上でもそれ以下でもない親密さ。
いずれにしろ、僕には初めての経験で新鮮だった。
—
昼飯は、ホテルのコックさんにおにぎりを握ってもらい、持参している。
小さな白い花の咲く場所で、それを実際に食べながら、休憩シーンを撮影していた。
『地蔵なんて、どこにもないのかもしれないな……』
『そもそも、この赤樹島じゃない可能性もあるんじゃない?』
『いや。そこを疑うなよ。あれだけ調べたんだから』
カメラの液晶モニター越しに、ミツバくんの顔に怒りが滲む。
こんなとき、友達だったら何ていうんだろ?
彼の機嫌を取る?いや、対等な関係なのだから、そんな必要もない。
『おにぎり、残り2個だけど、タラコと梅どっちがいい?』
さらっと話題を変えた。
話をそらしたというより、ミツバくんの怒った顔に慣れている友達を演じ、スルーしたのだ。
『タラコ』
『えっ、僕もタラコがいい』
本当はどっちのおにぎりでもよかったけれど、僕はふざけてタラコのおにぎりにかぶりつく。
『おい!俺もタラコ!』
カメラに向かって、彼の手が近づいてきた。
液晶モニターには、アップになったミツバくんの顔が映る。
そうして、僕の手の中にあったおにぎりに、彼がガブリと嚙みついた。
それをモグモグと咀嚼するミツバくんは、してやったりの満面の笑顔だ。
僕の友達としての演技が間違っていなかったことを、証明する。
ただ、僕の顔をカメラが捉えていなくて、助かった。
だって、たったそれだけのことに、僕の顔は赤く染まっていたから。
完全に、友達に対する反応ではなかったから……。
—
動画の中の僕らは、申の刻、16時より少し前にどうにかこうにか、地蔵岩を見つけた。
ミツバくんはリュックサックから、ホテルで借りた小さなスコップを取り出し、地蔵の影の頭の辺りを掘り起こす。
『おぉ、なんか埋まってるぞ』
そこでカメラを一旦止め、掘り起こしたカバンを石で叩いたりして、ダメージ加工と細工を加える。
そうして、もう一度土に埋め、掘り起こすシーンを撮影した。
カバンからは財宝が出てきて、ミツバくんは『すごい、すごい!』と喜んだ。
念のため、地蔵の影の尻にあたる部分も掘ってみるが、空の宝箱だけが出てくる。
『「尻隠さず」なるほどねー』
でも、カバンから出てきた財宝が、1本目で埋めた数に比べ、明らかに半減していると、視聴者だけが気づくはず。
動画の中のミツバくんは、それに気付くことができず、ただ喜んで「完」となった。
—
無事に2本目の撮影を終えた僕らは、ホテルに戻り乾杯をした。
達成感で満たされている。
「マナト、これ課題図書」
そんな僕に、ミツバくんはタブレットを渡してきた。
「何これ?漫画?」
「BL漫画。何冊かピックアップして、マナトって本棚フォルダに入れておいたから。明日の朝までに読んでおいて」
どの本の表紙も、直視するだけで恥ずかしい気持ちになるものばかりだった。



