スレチガイレッドスレッド

家に帰って、靴を脱いだ瞬間、
張りつめていたものが、音を立ててほどけた。
「……つかれた」
誰もいない玄関で、そう呟く。
制服のまま、床に座り込んだ。
頭の中に浮かぶのは、
ゆうごの声。
距離を取っていた立ち姿。
責めなかった目。
——ずるい。
そんなふうに思ってしまう自分が、嫌だった。
ベッドに倒れ込む。
天井を見つめながら、
6月20日のことが、
何度も何度も、再生される。
スマホを奪われた感触。
ざわつく女子たちの声。
「付き合ってたんだ」
「意外」
「ゆうご、いじめられたらどうするの?」
——守らなきゃ。
その一心だった。
別れを選んだあの日、
自分が壊れることは、
ちゃんと分かっていた。
それでも。
「……好きだった」
声に出すと、
胸が、痛んだ。
今も、たぶん。
完全には、終わっていない。
スマホが震える。
あゆむからのメッセージだった。
《大丈夫? 最近、元気ない》
画面を見つめて、
ゆきのは、何も返せなかった。
優しさが、
今は、少し重い。
——私は、どこに向かえばいいんだろう。
答えは出ない。
でも一つだけ、
はっきりしていることがあった。
明日、
あの場所に行かなかったら。
きっと、一生後悔する。
布団を引き寄せて、
顔を埋める。
泣いているのか、
ただ息を整えているのか、
自分でも分からないまま。
ゆきのは、
初めて「逃げない」夜を迎えた。