スレチガイレッドスレッド

声が、思ったより小さい。
ゆうごは、少し離れたところに立っていた。
近づかない。
追い詰めない。
でも、目は逸らさない。
「少しだけでいい」
ゆきのは、首を振った。
「今、無理」
即答。
それでも、足は動かなかった。
——逃げたい。
——でも。
「6月20日」
その数字を聞いた瞬間、
世界が一度、静かになった。
「……やめて」
初めて、感情が声に滲んだ。
ゆうごは、頷いた。
「ごめん。責めるつもりはない」
一歩、距離を保ったまま。
「ただ、知りたい」
ゆきのの視界が、滲む。
守ったつもりだった。
忘れさせるつもりだった。
なのに、
一番大事な人に、
一番近づかれている。
「……私」
言葉が、喉で止まる。
逃げ切れない。
そう気づいた瞬間、
肩の力が、少しだけ抜けた。
「今日は……話せない」
それでも、正直に言った。
ゆうごは、うなずく。
「分かった」
すぐに引いた。
でも、最後に一つだけ。
「明日も、ここにいる」
約束じゃない。
脅しでもない。
ただの、宣言。
ゆきのは、何も言えなかった。
背中を向けて歩き出す。
逃げているのに、
どこかで分かっていた。
——もう、逃げ切れない。
胸の奥で、
ずっと閉じていた扉が、
きしむ音を立てていた。