王子様は食欲旺盛!


 いつものように『お惣菜アヤカ』には、おじいちゃんズが集っていた。


「あれぇ(みなみ)くん、お友達かいな」
「ほう、これまたハンサムな男の子だねぇ」
「イマドキは、イケメンっちゅうらしいぞ!」


 おじいちゃんズに群がられ、北大路(きたおおじ)が立ち竦む。俺はぼよんぼよんと出っ張った腹で優しくおじいちゃんズを弾き、ついでに北大路を陳列棚の方へと押し込んだ。腹肉にはこんな便利な使い方もあるのだ。


「皆して、やめてやってくださいよ。友達が困ってるじゃないすか。初めて来たんだから、質問攻めにするよりオススメとか教えてやってくださいよね」


 おじいちゃんズにやんわり注意してから北大路を見ると、奴の視線はこんもり盛られた唐揚げ一点に注がれていた。

 お、北大路も唐揚げ好きなのか! と喜んだのも束の間、このバカ、売り物のそれを一つつまんで口に放り込みやがった!!


「北大路ーー! お前、何やってんだあ!? これは買ってから食べるものなの! そういうところなの! バイキングじゃねえんだよぉぉぉ!?」


 もぐもぐしている北大路の襟首を掴み、怒鳴っていると。


「南くん、どうしたの?」


 三角巾にエプロンといったいつもの格好で、アヤカさんが厨房から現れた。こんなにも三角巾の似合う女性を、俺は知らない……って見惚れてる場合じゃない!


「アヤカさん、ごめんなさい! こいつ、俺が連れてきた友達なんすけど、勝手に唐揚げを……っておいおいおいぃぃ!? また食べた!? 食べたな!? ナチュラルに掴んで食べてたなぁぁぁ!?」


 俺が謝っている横でも、北大路は平然ともう一つ取ってもぐもぐしてくれた。

 こいつ、バカなの!? 常識も知らないの!? イケメンだったら何でも許されるってわけじゃ……!


「ああ、南くんが気にすることないわ」


 アヤカさんが平然と笑う。

 ウソだろ、許された……? イケメンなら売り物のお惣菜も食べ放題なのか!? それなら俺もイケメンに生まれたかったよ、チクショーー!!


「トワ、何やってるの。お店に出ているものは商品なのよ? 私が作ったからって、何でも食べていいと思わないの! 本当にバカなんだから!」

「ごめんごめん。ついクセで。お腹空いてたのもあって、うっかりしてた」


 アヤカさんに叱られると、北大路はバツが悪そうに肩を竦めた。

 こんな砕けた表情の北大路、初めて見たぞ? それにこんなに素で怒るアヤカさんも、初めて見たんだけど?

 トワって、確か北大路の名前、だったよな? も、もしやこの二人……!


「アヤカさん、このハンサムくん……あんたの?」


 おじいちゃんズの一人が尋ねる。するとアヤカさんは困ったように目を細めて答えた。


「ええ、息子なの」


 あ……息子ね! そっちかい!

 アヤカさんは年齢こそ離れてるけど若々しいし親切だし美人だし、北大路は見た目は良くても中身がいろいろと変わってるし、てっきり優しくて包容力のある年上女性と影のあるイケメン年下男子でラブがフォーリンしちゃったスウィートな関係かと……。


「実は木曜日だけ、アルバイトしてもらってるのよ。南くんにはバレちゃってたみたいけどね?」


 はああああ!?


 しかし、続いてアヤカさんが告げた衝撃の真実には我慢できず、俺は眼球が転がり落ちるかってほど目を見開いた。


「と、ということは、あの唐揚げ……」


 何とか発した言葉に、アヤカさんは笑顔で頷いた。


「そうよ、トワが作ったの。トワ、南くん、あなたの唐揚げを気に入って、たくさん買ってくれているのよ。改めて、お礼を言いなさい」

「…………ドーモアリガトウゴザイマス」


 アヤカさんに促された北大路は、俺から目を逸らし、腹が立つほど抑揚のない声で感謝の言葉を述べた。

 ええっと……この感じの悪い態度は母親への反抗なのか? それとも秘密を知った俺への嫌がらせなのか?

 ああもうっ! ほとんど話せてないから北大路って奴が何考えてんだか、全然わかんねえ!!