王子様は食欲旺盛!


 授業が終わり、高野(たかの)と二人で昇降口に向かうと、そこにはセミロングの可愛い女の子が待ち構えていた。


「もー、ユウってば遅ーい! 待ちくたびれて帰ろうかと思ったんだからね!?」


 大きな目を釣り上げて高野を睨んで怒るのは、俺達の一つ下の学年のマナちゃんだ。

 二人は今年の夏休み、同じ海の家でのバイト仲間として出会ったらしい。それから意気投合して、バイト仲間同士だけでなく二人きりでも遊ぶようになり、夏休みの終わりにマナちゃんの方から告白して付き合い始めたんだって。

 マナちゃんは健気で一途な反面、とても気が強い子だということは俺も既によく知っている。おかげで高野が、すっかり尻に敷かれていることも、だ。


「ご、ごめんごめん。そのほら、(みなみ)がモタモタしててさー?」


 なので、遅れたことに言い訳するのは仕方ないとして、俺のせいにするのはいかがなものか。マナちゃんのお弁当箱を忘れて取りに戻ったり、明日までの課題を忘れてまた取りに戻ったりと、モタモタしてたのは高野の方だというのに。


「南くんのせいにしないの! どうせユウが忘れ物でもして遅くなっただけでしょ? いつもどこか抜けてるんだもん」


 さすがマナちゃん、彼氏のことならもう何でもお見通しらしい。


「そんな抜けてるところが俺の魅力だろー? なぁ、南ー?」


 しかし高野はこの通りマイペースだ。俺にまで同意を求めてくるなっつーの。


「んもー、調子良いことばっかり言うんだから。ほら行こ。いつものミルクティー、奢ってね?」


 そう言いつつマナちゃんは笑顔になり、高野の手を取った。


「オッケー! 今日はお詫びにスイーツも奢っちゃうよ!」

「キャー! ユウ大好きっ! じゃあ南くん、またねー!」


 腕を組んでイチャイチャしながら去っていく二人をにこやかに見送りながら、心の中でバカップルめ……と毒づいたのは言うまでもない。

 ああいうのを見ると、やっぱり羨ましくなるんだよなー! クソ、高野のくせにあんな可愛い子と付き合えるなんて生意気だ!



 今月はお小遣いにまだ余裕があったから、あのお惣菜屋に行こうと考えて、俺は来名(ぐるめ)町方面に向かって歩いた。

 唐揚げは外せないとして他に何を買おう? 定番のコロッケかな、たまにはアジフライもいいなぁ……と脳内が激しく美味しく盛り上がっていたせいだろう。自分に忍び寄る影に、全く気が付いていなかった。


「……南くん」


 急に隣から声をかけられ、俺は飛び上がるほど驚いた。


「ヒェッ! ななな何!? って、北大路(きたおおじ)かよぉ……ビビらすなよなぁ、もぉぉぉ……」

「ご、ごめん……どう声をかけていいか、わからなくて」


 胸を撫で下ろす俺に、北大路は申し訳無さそうに眉をひそめて詫びた。


「あー、えっと……今日は自転車じゃないんだ?」

「う、うん……自転車はバイトの日だけだから」


 北大路から話しかけてくれたのは、今が初めてだ。しかも、今までと違ってまともに会話できている。でもこれって、やっぱり『アレ』のせいだよな……?


 お昼に衝撃的現場を目撃してすぐ、予鈴が鳴ったため、俺達はとにかくゴミを片付けて、慌てて体育館へと走った。体育にはちゃんと間に合い、高野にも感謝されたけれど、結局北大路に事情を聞くことはできなかった。

 しかしおバカな俺にだって、あの状況を見れば北大路が相当な大食いであること、そして隠れて食べているくらいなんだからそれを誰にも知られたくないんだってことはわかる。もちろん俺だって、誰かに言うつもりはない。


「あのー、北大路? もしかして、お昼のこと、気にしてる……?」


 遠慮がちに尋ねると、北大路はきれいな二重を描く瞼をやや伏せた。

 うっわ、睫毛なっが! 爪楊枝どころか、小さい焼きししゃもくらいなら余裕で乗りそう! いやいや、スティックチーズ揚げもいけるかも!

 食べ物のことを考えたからだろう、ぐぅぐぅぐぅ〜と我がぽよよん腹が悲鳴を上げた。空腹のサインだ。


「ちょっと何か食べ物を補給しない? この近くにいい店があるんだ。今ちょい余裕あるし、北大路にも奢るよ」

「えっ……でも」

「いいからいいから。ほら、行こうぜ!」


 何か言いたげな表情をしていたけれど、北大路は大人しく俺の後についてきた。

 食べ物に釣られたのかな?

 自分から奢るなんて言っちゃったものの、不安になってきたぞ……できたらちょっと控えめにしてくれるといいな。多少余裕があるといっても、奴の胃袋を満たすだけ奢らされたら、間違いなく破産一直線だし。