黒幕。
白字で、
四月二十五日 午後十一時五十八分
映像は、暗い屋外から始まる。
トモノリの息が荒い。
どうやら廃墟を出たあと、車に戻らず、山の中を移動しているらしい。
「……武蔵、あいつ……」
声が震えている。
「やっぱ黒幕だろ……」
立ち止まり、カメラを自分に向ける。
背後は闇。
「でも、あの顔……」
言葉が詰まる。
「武蔵じゃなかった」
裏手拍子。
遠くで、コツ。
トモノリが振り向く。
何もない。
「……俺、あいつの家行く」
その言葉は、半ば衝動だ。
画面が切り替わる。
車内。
エンジン音。
トモノリが運転している。
「武蔵の実家、町外れ」
苦笑する。
「調べた。登記も見た」
スマホの画面が映る。
古い木造家屋の住所。
「代々、この山の近くに住んでる」
車が止まる。
古い家。
門は閉じられているが、鍵はかかっていない。
「……行く」
カメラを持ち、門を押す。
軋む音。
庭は荒れている。
雑草が伸び、石灯籠が傾いている。
裏手拍子。
コツ。
トモノリが息を止める。
玄関へ向かう。
扉は半開き。
「……誰かいる?」
返事はない。
中へ入る。
廊下は暗い。
空気が冷たい。
「武蔵?」
声が吸い込まれる。
居間に入る。
壁に、古い写真が飾られている。
白黒写真。
着物姿の男女。
その中央に、幼い武蔵らしき子供。
目が、黒く塗りつぶされている。
トモノリが近づく。
「……これ、誰が」
裏手拍子。
今度は家の中から。
コツ、コツ。
トモノリが振り向く。
襖の向こう。
ゆっくりと開く。
座敷。
中央に祭壇。
廃墟で見たのと同じ形。
偶像。
夢乃の顔。
その隣に、哲平の顔。
もう一つ、空いている。
トモノリの呼吸が止まる。
「……憑代」
背後から声。
武蔵。
振り向く。
廊下の奥に立っている。
黒い服。
目は黒い。
「順番だ」
低い声。
トモノリが叫ぶ。
「ふざけんな!お前がやったのか!」
武蔵は首を傾ける。
「やった?」
笑う。
「俺は、順番を守ってるだけだ」
トモノリが後退する。
「順番って何だよ!」
武蔵が一歩近づく。
「祖母が言ってた。マモは、家に入る。入ったら、出す」
裏手拍子。
コツ、コツ。
「出す?」
「憑代に」
武蔵の口元が裂ける。
「足りないと、家系が消える」
トモノリの目が見開く。
「だから、お前……」
「選んだ」
武蔵の声が重なる。
夢乃の声。
哲平の声。
「笑ってたやつ。信じたやつ。呼んだやつ」
トモノリが首を振る。
「俺は呼んでない!」
「撮った」
武蔵の目が光る。
「再生した」
トモノリの手が震える。
「それだけで……」
「十分だ」
裏手拍子が速くなる。
コツコツコツ。
祭壇の偶像が、ゆっくりと動く。
夢乃の顔が笑う。
哲平の顔が目を開く。
空いている場所が、赤く染まる。
逆さ鳥居。
中央に、「天」。
黒い点。
武蔵が囁く。
「次だ」
トモノリが後退し、廊下へ走る。
家を飛び出す。
庭へ。
夜風。
だが、風がない。
音がない。
静寂。
裏手拍子だけが鳴る。
コツ。
振り向く。
武蔵はいない。
だが、門の前に、祭壇が立っている。
偶像が三つ。
夢乃。
哲平。
空白。
トモノリの視界が揺れる。
「やめろ……」
足が動かない。
地面に、赤い線が浮かぶ。
逆さ鳥居。
トモノリの足元。
中央に黒い点。
「……入るな」
声が掠れる。
裏手拍子。
コツ、コツ。
トモノリの両手が勝手に動く。
自分の手を打つ。
コツ。
目が見開かれる。
「やめろ!」
だが、止まらない。
コツ、コツ。
武蔵の声が響く。
「選別は終わる」
夢乃の声。
「ハイレタ」
哲平の声。
「足りない」
三つの声が重なる。
「入れ」
トモノリの視界が赤く染まる。
画面が歪む。
祭壇の空白に、黒い影が立つ。
トモノリの顔。
笑っている。
映像が砂嵐になる。
――
次の映像。
黒幕。
白字で、
四月二十六日 午前七時十二分
ニュース映像。
「昨夜、山間部の池で男性の遺体が発見されました。身元は二十代男性とみられ――」
映像は遠景。
池のほとり。
ブルーシート。
足が、不自然な方向に曲がっている。
頭部は映らない。
裏手拍子は、鳴らない。
静かだ。
ニュースキャスターの声が続く。
「現場付近では最近、不審な廃屋への出入りが確認されており――」
映像が切れる。
――
私は再生を止める。
選別。
順番。
武蔵は、黒幕か。
それとも、順番を守る役目か。
三人。
夢乃。
哲平。
トモノリ。
足りない。
家系が消える。
武蔵はまだ生きている。
なら、次は。
私は、画面を見つめる。
反射に、自分の顔が映る。
その背後に、赤い線が浮かぶ。
逆さ鳥居。
「天」
黒い点。
私は、瞬きをする。
消える。
だが、耳元で、はっきりと音がする。
コツ。
順番は、まだ終わっていない。
次のファイル名は、
「0501_confession」
告白。
武蔵の単独映像。
私は、再生を押す。
コツ。
すぐ後ろで、音がした。
白字で、
四月二十五日 午後十一時五十八分
映像は、暗い屋外から始まる。
トモノリの息が荒い。
どうやら廃墟を出たあと、車に戻らず、山の中を移動しているらしい。
「……武蔵、あいつ……」
声が震えている。
「やっぱ黒幕だろ……」
立ち止まり、カメラを自分に向ける。
背後は闇。
「でも、あの顔……」
言葉が詰まる。
「武蔵じゃなかった」
裏手拍子。
遠くで、コツ。
トモノリが振り向く。
何もない。
「……俺、あいつの家行く」
その言葉は、半ば衝動だ。
画面が切り替わる。
車内。
エンジン音。
トモノリが運転している。
「武蔵の実家、町外れ」
苦笑する。
「調べた。登記も見た」
スマホの画面が映る。
古い木造家屋の住所。
「代々、この山の近くに住んでる」
車が止まる。
古い家。
門は閉じられているが、鍵はかかっていない。
「……行く」
カメラを持ち、門を押す。
軋む音。
庭は荒れている。
雑草が伸び、石灯籠が傾いている。
裏手拍子。
コツ。
トモノリが息を止める。
玄関へ向かう。
扉は半開き。
「……誰かいる?」
返事はない。
中へ入る。
廊下は暗い。
空気が冷たい。
「武蔵?」
声が吸い込まれる。
居間に入る。
壁に、古い写真が飾られている。
白黒写真。
着物姿の男女。
その中央に、幼い武蔵らしき子供。
目が、黒く塗りつぶされている。
トモノリが近づく。
「……これ、誰が」
裏手拍子。
今度は家の中から。
コツ、コツ。
トモノリが振り向く。
襖の向こう。
ゆっくりと開く。
座敷。
中央に祭壇。
廃墟で見たのと同じ形。
偶像。
夢乃の顔。
その隣に、哲平の顔。
もう一つ、空いている。
トモノリの呼吸が止まる。
「……憑代」
背後から声。
武蔵。
振り向く。
廊下の奥に立っている。
黒い服。
目は黒い。
「順番だ」
低い声。
トモノリが叫ぶ。
「ふざけんな!お前がやったのか!」
武蔵は首を傾ける。
「やった?」
笑う。
「俺は、順番を守ってるだけだ」
トモノリが後退する。
「順番って何だよ!」
武蔵が一歩近づく。
「祖母が言ってた。マモは、家に入る。入ったら、出す」
裏手拍子。
コツ、コツ。
「出す?」
「憑代に」
武蔵の口元が裂ける。
「足りないと、家系が消える」
トモノリの目が見開く。
「だから、お前……」
「選んだ」
武蔵の声が重なる。
夢乃の声。
哲平の声。
「笑ってたやつ。信じたやつ。呼んだやつ」
トモノリが首を振る。
「俺は呼んでない!」
「撮った」
武蔵の目が光る。
「再生した」
トモノリの手が震える。
「それだけで……」
「十分だ」
裏手拍子が速くなる。
コツコツコツ。
祭壇の偶像が、ゆっくりと動く。
夢乃の顔が笑う。
哲平の顔が目を開く。
空いている場所が、赤く染まる。
逆さ鳥居。
中央に、「天」。
黒い点。
武蔵が囁く。
「次だ」
トモノリが後退し、廊下へ走る。
家を飛び出す。
庭へ。
夜風。
だが、風がない。
音がない。
静寂。
裏手拍子だけが鳴る。
コツ。
振り向く。
武蔵はいない。
だが、門の前に、祭壇が立っている。
偶像が三つ。
夢乃。
哲平。
空白。
トモノリの視界が揺れる。
「やめろ……」
足が動かない。
地面に、赤い線が浮かぶ。
逆さ鳥居。
トモノリの足元。
中央に黒い点。
「……入るな」
声が掠れる。
裏手拍子。
コツ、コツ。
トモノリの両手が勝手に動く。
自分の手を打つ。
コツ。
目が見開かれる。
「やめろ!」
だが、止まらない。
コツ、コツ。
武蔵の声が響く。
「選別は終わる」
夢乃の声。
「ハイレタ」
哲平の声。
「足りない」
三つの声が重なる。
「入れ」
トモノリの視界が赤く染まる。
画面が歪む。
祭壇の空白に、黒い影が立つ。
トモノリの顔。
笑っている。
映像が砂嵐になる。
――
次の映像。
黒幕。
白字で、
四月二十六日 午前七時十二分
ニュース映像。
「昨夜、山間部の池で男性の遺体が発見されました。身元は二十代男性とみられ――」
映像は遠景。
池のほとり。
ブルーシート。
足が、不自然な方向に曲がっている。
頭部は映らない。
裏手拍子は、鳴らない。
静かだ。
ニュースキャスターの声が続く。
「現場付近では最近、不審な廃屋への出入りが確認されており――」
映像が切れる。
――
私は再生を止める。
選別。
順番。
武蔵は、黒幕か。
それとも、順番を守る役目か。
三人。
夢乃。
哲平。
トモノリ。
足りない。
家系が消える。
武蔵はまだ生きている。
なら、次は。
私は、画面を見つめる。
反射に、自分の顔が映る。
その背後に、赤い線が浮かぶ。
逆さ鳥居。
「天」
黒い点。
私は、瞬きをする。
消える。
だが、耳元で、はっきりと音がする。
コツ。
順番は、まだ終わっていない。
次のファイル名は、
「0501_confession」
告白。
武蔵の単独映像。
私は、再生を押す。
コツ。
すぐ後ろで、音がした。



