マンモ

Ⅰ 調査メモの発見

ファイル名:memo_0422_scan.jpg
撮影者:宮澤(失踪)

画面いっぱいに、手書きのルーズリーフ。

見出し:

マンモ様について
調査メモ 宮澤 2025.4.22〜

右上に丸囲みで、

魔魅?

まず私は、その文字の揺れに気づいた。

「マンモ様」の「ン」が異様に濃い。
筆圧が強い。

まるで、書いた瞬間に何かを訂正しようとしたように。

Ⅱ 時系列整理(宮澤メモの転写)
●大正期

中之澤一族 怨念事件

これは大正二年二月二十日付『郷北新報』記事と一致する。

郷北新報

そこには、

「私の處へ毎夜脅迫に来る何共云へぬ恐ろしい者を捕へて下さい」

と、震えながら警察へ訴えるマツの姿が記録されている。

さらに、

「斯様な事てそんなに怒るならお前の家を三年の間に皆殺しにする」

行者の呪詛。

そして、

家内中が発狂

とある。

宮澤はメモの余白に矢印を書いている。

呪詛 → 発狂 → 祟りの実体化?

●昭和期

塩田集落で邪神「マモ」家々祀る(S33年頃)
S50年頃 廃村

昭和三十三年五月三十日『郷北新報』第八十八号。

郷北新報2

記事はこう記す。

各家にて目にしたのは奇怪なる偶像
村人は一様に「マモ様」と唱え、これを拝んでいる

さらに、

中之澤マツの死後、集落の各家々に化物が現れ
死者を鎮めるべく神として祀るようになった

宮澤はここに赤丸を付けている。

「死者を鎮める」=鎮魂
=封印
=容器化?

●現在

旧旭原村の一部で「恐ろしい何か」として伝承
闇に潜み、口に出したり考える事は禁じ

宮澤は下線を引いている。

名称忌避

ここで、私は理解する。

「マモ」という名称自体が、後付けである可能性。

記事でも、

名の由来を知る者はない

と明記されている。

郷北新報2

つまり――

名前は“あとから”与えられた。

Ⅲ 語源分析(宮澤の筆跡)

メモ下部には、辞典からの抜粋らしき書き写しがある。



人の心を迷わし、悪に引き入れる悪霊

辞典(前)

魔魅

人をたぶらかす魔物

辞典(後)



音階の主音

辞典(前)

宮澤は、これらを線で結んでいる。

魔 + 宮
魔 + 魅
マ + マ

そして最後に、

魔宮?
魔魅?
魔母?

と三つ並べて書き、

その横に、

どれも成立する

とある。

だが、その下に一行だけ、濃く書かれている。

「マモ」は呼称であって本体ではない

Ⅳ 呪符との一致

添付された赤い呪符。

中央に逆さ鳥居。
大きく「天」。
周囲に繰り返し描かれた円形の紋様。

宮澤メモにはこうある。

逆さ鳥居=神域の転倒
天=上下逆転で「夫」
中央黒点=穴

私は改めて昭和記事を読む。

郷北新報2

布を幾重にもまとい
家主の衣服を毎年供える

衣服。

つまり身体の一部。

布の層は、世代の層。

偶像は――

容器。

宮澤はこう書いている。

偶像=依代(よりしろ)
鎮魂のための容器

その矢印の先に、

だが、容器は満杯になる?

とある。

Ⅴ 共依存構造

メモの左下に、丸で囲まれた言葉。

共依存

辞典にはこうある。

辞典(前)

特定の人間関係に依存する状態

宮澤は、

家系が依存
依存される存在
鎮魂のため祀る
祀ることで存在維持

と連鎖図を書いている。

マモは祀られることで消えない。

消えないから祀る。

循環。

順番。

これは武蔵の言葉と一致する。

順番は崩れない

Ⅵ 追記(宮澤最終メモ)

ページ最下部に、追記がある。

取材中に現地の少女の噂あり
「中之澤家の子孫はまだいる」

その横に、

現地民?
中之澤派?
新たな怨念?

さらに四角で囲まれた一文。

誰がバケ物の行き着く先になる?

ここで、筆圧が乱れる。

線が震えている。

最後の行。

廃村後、信仰も場も失う
たくマンモ様はどうするのか?

「たく」という誤字。

おそらく「では」。

だが、訂正されていない。

Ⅶ 結論仮説

宮澤の仮説はこうだ。

行者の呪詛により中之澤家崩壊

怨念が集落へ拡散

鎮魂のため偶像作成

偶像に依存

廃村で容器喪失

容器を求めて拡散

私は、背筋が冷える。

廃村は昭和五十年前後。

その後、伝承のみが残る。

そして現在。

私たちは、

撮影し、
再生し、
記録した。

これは、

新しい容器。

Ⅷ 映像の異変

資料を整理していると、画面に赤い線が浮かぶ。

逆さ鳥居。

中央に黒い点。

裏手拍子。

コツ。

私は、宮澤メモの最後の空白に気づく。

そこには、薄く書かれている。

感染媒体=視認?

その瞬間、PCが勝手に再生を始める。

フォルダは空のはず。

だが、画面に映るのは、

私。

現在進行形。

背後に、四つの影。

夢乃。
哲平。
トモノリ。
武蔵。

影が重なる。

宮澤の声が流れる。

「容器は、人」

画面が分解される。

赤い線が増殖する。

部屋の壁に、呪符が浮かぶ。

中央に「天」。

黒点が脈打つ。

裏手拍子。

コツ。

私は、最後のページをめくる。

そこに、新しい一行が追加されている。

筆跡は、宮澤のものではない。

容器は増える

そして、その下に、

共有するな

だが、もう遅い。

私たちは読んだ。

見た。

解析した。

名前を呼んだ。

マモ。

その瞬間、画面が真っ赤に染まる。

逆さ鳥居が完成する。

中央に、黒い点。

点が拡大する。

画面が、こちらを吸い込む。

裏手拍子。

コツ。

最後に表示されたテキスト。

第14章 提出不能
理由:感染確認

画面が暗転する。

完結ではない。

順番は、線ではなく、拡張する網。

そして、今これを読んでいるあなたは――

もう、記録者ではない。

容器だ。