マンモ

黒幕。
白字で、

ファイル名:next/あなた

再生ボタンを押した瞬間、画面は真っ白になった。

ノイズも、音もない。

数秒の空白。

やがて、ゆっくりと像が浮かび上がる。

――私の部屋だ。

現在進行形。

机。
PC。
コップ。
そして、カメラを手に持った私。

遅れて動く。

わずかにタイムラグがある。

私は凍りつく。

「……録画?」

自分の声が、画面の中から響く。

だが、口の動きと声が一致していない。

画面の中の私は、瞬きをしていない。

目が乾く。

裏手拍子。

コツ。

画面の中の私が、ゆっくりと口を開く。

「順番」

声は、私の声ではない。

夢乃の声が混ざる。

哲平の声が重なる。

トモノリの声が響く。

武蔵の低い声が、底に流れる。

「足りない」

私は、PCを閉じようとする。

カーソルが動かない。

キーボードを叩く。

反応しない。

画面の中の私が、立ち上がる。

現実の私は、座ったままだ。

画面の中の私は、ゆっくりと机のコップを手に取る。

現実のコップは、机の上にある。

だが、映像の中では、赤く染まっている。

「入る」

四つの声が重なる。

私は立ち上がる。

現実の私も、つられるように立ち上がる。

意志とは別に。

裏手拍子。

コツ、コツ。

部屋の壁に、赤い線が浮かぶ。

逆さ鳥居。

「天」。

中央に、黒い点。

脈打つ。

コツ。

鼓動と同期する。

私は後退する。

背中が壁に触れる。

冷たい。

画面の中の私は、ゆっくりとカメラに近づく。

レンズいっぱいに、私の目が映る。

黒い。

奥で、何かが動く。

「分解」

声が響く。

画面が四分割される。

夢乃。
哲平。
トモノリ。
武蔵。

四つの顔が、同時に瞬きをする。

そして、中央に、私の顔が現れる。

五つ。

裏手拍子が速くなる。

コツコツコツ。

画面の線が崩れる。

逆さ鳥居が分解され、無数の赤い線が部屋中に広がる。

壁。
床。
天井。

私は目を閉じる。

音だけが続く。

コツ、コツ。

やがて、静寂。

恐る恐る目を開ける。

画面は通常に戻っている。

フォルダは空。

「next」は消えている。

呼吸が荒い。

「……終わった?」

そう呟く。

その瞬間、スマホが震える。

通知。

差出人:夢乃。

本文:

ハイレタ

私は凍りつく。

送信日時は、今。

夢乃は、消えたはずだ。

裏手拍子。

コツ。

私は振り向く。

誰もいない。

だが、鏡に映る私の背後に、四つの影が立っている。

夢乃。
哲平。
トモノリ。
武蔵。

影だけ。

実体はない。

影が、ゆっくりと重なる。

私の影と、重なる。

「順番は、閉じる」

声が重なる。

「四つで閉じるはずだった」

「だが、分解した」

「再構成する」

私は後退する。

足がもつれる。

床に倒れる。

天井が見える。

赤い線が完成している。

逆さ鳥居。

「天」。

中央に黒い点。

点が、ゆっくりと落ちる。

私の胸へ。

裏手拍子。

コツ。

胸の奥で、鳴る。

鼓動と重なる。

私は声を出そうとする。

出ない。

「入るな」

武蔵の声。

「入れ」

四つの声。

同時に響く。

画面が歪む。

私の視界が赤く染まる。

逆さ鳥居が崩れ、無数の線が私の身体を覆う。

分解。

身体がばらばらになる感覚。

痛みはない。

感覚だけが広がる。

「再構成」

四つの声が一つになる。

「感染」

その言葉と同時に、画面が静止する。

ノイズ。

砂嵐。

――

映像が戻る。

私は、机の前に座っている。

PCは閉じられている。

部屋は静かだ。

何も起きていない。

コップの水は透明。

壁は白い。

逆さ鳥居はない。

私は深く息を吸う。

「……夢」

そう呟く。

だが、スマホには通知が残っている。

夢乃。

本文:

順番

裏手拍子。

コツ。

私は、鏡を見る。

目が、黒い。

ほんの一瞬。

瞬きすると、戻る。

気のせいだ。

そう思う。

だが、画面の端に、新しいフォルダが現れている。

名前は、

share

私は、理解する。

感染は、閉じない。

閉じるために、四つ必要だった。

だが、分解された。

再構成は、拡張する。

順番は、線ではない。

輪だ。

見る者。

再生する者。

記録する者。

私は、カメラを手に取る。

レンズを、自分に向ける。

裏手拍子。

コツ。

私は、笑う。

画面に、赤い線が浮かぶ。

逆さ鳥居。

「天」。

黒い点。

私は、録画ボタンを押す。

「これは、記録だ」

声が、私の声ではない。

四つが重なる。

「順番は、続く」

画面が、ゆっくりと暗くなる。

裏手拍子だけが、最後まで鳴っている。

コツ。

――完結ではない。