マンモ

第12章 告白映像(約5000字)

黒幕。
白字で、

ファイル名:0501_confession(未公開版)

画面は真っ暗なまま、しばらく音だけが流れる。

風の音。
木々の擦れる音。
そして、ゆっくりとした裏手拍子。

コツ。

間。

コツ。

やがて、像が浮かび上がる。

武蔵の顔。

近い。

レンズに触れそうな距離。

目は黒い。

だが、完全な黒ではない。
奥で何かが動いている。

「これは、順番の記録だ」

低い声。

「俺は黒幕じゃない」

微笑む。

「媒介だ」

画面が少し引く。

武蔵は廃墟の二階、祭壇の前に座っている。

蝋燭が三本。

夢乃、哲平、トモノリの偶像が並ぶ。

「祖母は言った」

武蔵が目を閉じる。

「マモは、祓えない」

「消せない」

声が重なる。

祖母の声らしき低い女声が混じる。

「祓えば外に出る」

「外に出れば、無差別になる」

武蔵が目を開く。

「だから、家に入れる」

祭壇を撫でる。

「入ったら、出す」

偶像の一つに触れる。

夢乃の顔が、わずかに笑う。

「憑代に出す」

裏手拍子。

コツ。

「順番は決まってる」

武蔵の声が揺れる。

「血縁からは出せない」

「外から呼ぶ」

画面に、逆さ鳥居の紙が映る。

「形を描き」

「言葉を呼び」

「火を消す」

蝋燭を吹き消す。

闇。

裏手拍子。

コツ、コツ。

暗闇の中で、武蔵の声だけが響く。

「見る者が、最初の憑代になる」

像が戻る。

武蔵の目が、こちらを見ている。

「だから、最初は軽くする」

笑い。

「ドッキリ」

三月三十一日の記憶が、インサートされる。

赤い水。

笑い声。

武蔵の「実はドッキリでした」。

映像が戻る。

「笑いで緩める」

「緩んだところに、形を入れる」

裏手拍子。

コツ。

武蔵の口元が裂ける。

「森は、通路」

「廃墟は、記憶」

「家は、完成」

祭壇の背後に、赤い線が広がる。

逆さ鳥居。

「天」。

黒い点。

「三人では足りない」

武蔵の声が重なる。

夢乃の声。

哲平の声。

トモノリの声。

「四つ」

「四つで、閉じる」

武蔵がカメラに近づく。

「最後は、記録者」

私は、息が止まる。

武蔵の目が、私を見る。

「お前だ」

画面が歪む。

ノイズ。

裏手拍子。

コツ、コツ、コツ。

武蔵の声が低くなる。

「俺は、ここで終わる」

突然、武蔵の身体が震える。

口から、黒い液体が垂れる。

「家系は守られた」

笑う。

「だが、形は外に出た」

画面に、複数の逆さ鳥居が浮かぶ。

分解された線が、画面いっぱいに広がる。

「分解」

武蔵の声が四つに分かれる。

「再構成」

黒い点が増える。

一つ、二つ、三つ、四つ。

五つ目が、画面中央に浮かぶ。

「足りない分は、見る者が補う」

画面に、私の部屋が映る。

リアルタイム。

私は映っていない。

だが、机の上のSDカードが映る。

武蔵の声。

「順番は、移る」

映像が高速で切り替わる。

夢乃の笑顔。
哲平の震える顔。
トモノリの叫び。
武蔵の黒い目。

そして、空白。

空白に、赤い線が描かれる。

逆さ鳥居。

「天」。

黒い点。

裏手拍子。

コツ。

武蔵の声が最後に囁く。

「入るな」

だが、同時に、四つの声が叫ぶ。

「入れ」

画面が真っ赤に染まる。

砂嵐。

――

映像が終わる。

私は、しばらく動けない。

告白。

だが、懺悔ではない。

説明だ。

仕組みの。

武蔵は黒幕ではなかった。

媒介。

家系。

順番。

四つで閉じる。

夢乃。
哲平。
トモノリ。
武蔵。

四つ。

だが、武蔵は消えた。

なら、四つ目は。

私は、自分の胸の鼓動を感じる。

裏手拍子と、同じリズム。

コツ。

コツ。

部屋の壁に、赤い線が浮かぶ。

逆さ鳥居。

「天」。

中央に黒い点。

私は、理解する。

分解は終わった。

再構成が始まる。

私は、最後のフォルダを開く。

「next」

中には、一つのファイル。

名前は、

あなた

カーソルが震える。

裏手拍子が、耳元で鳴る。

コツ。

私は、再生を押す。