黒幕。
白字で、
五月一日 午後十一時三分
映像は、固定カメラではなく、手持ちのカメラで始まる。
画角が低い。机の上に置かれたまま、少し傾いている。
武蔵が、画面の中央に座っている。
黒い服。
背後は、あの廃墟の二階。
祭壇の前。
蝋燭が灯っている。
「……これを見ているのが誰かは知らない」
低い声。
「でも、順番は進んでいる」
武蔵の目は、まっすぐカメラを見ている。
「夢乃。哲平。トモノリ」
名前を一つずつ、はっきりと発音する。
「三つ、足りない」
祭壇に視線を向ける。
偶像が三つ並んでいる。
夢乃の顔。
哲平の顔。
トモノリの顔。
どれも、笑っている。
武蔵が続ける。
「マモは、家に入る」
蝋燭の火が揺れる。
「入ったら、出す」
声が、微かに重なる。
夢乃の声が重なり、哲平の声が混ざる。
「出すためには、形がいる」
武蔵が、祭壇の中央に置かれた紙を持ち上げる。
逆さ鳥居。
「天」。
黒い点。
「形を描き、言葉を呼ぶ」
カメラに近づける。
「そして、見る」
武蔵の口元が歪む。
「見る者も、順番に入る」
その言葉と同時に、画面の端に赤い線が走る。
ノイズ。
武蔵がカメラを持ち上げる。
「今から、最後の確認をする」
立ち上がる。
廃墟の二階を歩く。
床板が軋む。
祭壇の横の襖を開ける。
奥の小部屋。
床に、古い写真が散らばっている。
白黒写真。
幼い武蔵。
祖母。
祭壇。
「祖母が言ってた」
写真を拾う。
「家系が途絶えると、マモは外に出る」
写真をカメラに見せる。
幼い武蔵の背後に、黒い影。
逆さ鳥居の形。
「だから、守る」
武蔵の声が低くなる。
「順番を守る」
裏手拍子。
コツ、コツ。
廃墟の外から。
武蔵が振り向く。
カメラが揺れる。
階段を降りる。
一階の座敷。
神棚は空。
だが、壁に赤い線が広がっている。
逆さ鳥居。
「天」。
中央に黒い点。
武蔵が呟く。
「……まだ足りない」
外へ出る。
夜。
廃墟の前に、誰もいない。
静かだ。
だが、地面に、三つの黒い影が立っている。
夢乃。
哲平。
トモノリ。
実体はない。
影だけ。
武蔵が近づく。
「もうすぐだ」
影が揺れる。
裏手拍子。
コツ。
武蔵の手が、自分の手を打つ。
コツ。
「順番は、終わる」
その瞬間、影が消える。
静寂。
武蔵がカメラを自分に向ける。
「これで、家系は守られる」
目が黒い。
「足りない分は、画面の向こうが補う」
その言葉で、画面が赤く染まる。
ノイズ。
裏手拍子が速くなる。
コツコツコツ。
武蔵の声が重なる。
「見るな」
だが、カメラは回り続ける。
武蔵の顔が歪む。
夢乃の声が混ざる。
「ハイレタ」
哲平の声。
「順番」
トモノリの声。
「足りない」
三つの声が一つになる。
「入れ」
画面が真っ赤になる。
逆さ鳥居が浮かぶ。
「天」
黒い点。
突然、画面が暗転する。
――
次の映像。
黒幕。
白字で、
五月二日 午前零時
定点カメラ。
武蔵の実家。
居間。
武蔵が床に座っている。
目は閉じている。
呼吸はある。
静かだ。
スマホが震える。
非通知。
武蔵は目を開けない。
だが、口が動く。
「……順番」
声が、夢乃の声。
哲平の声。
トモノリの声。
三つが重なる。
「足りない」
スマホが震え続ける。
カメラのレンズに、赤い線が浮かぶ。
逆さ鳥居。
中央に黒い点。
武蔵の目が開く。
黒い。
画面が歪む。
砂嵐。
――
私は再生を止めた。
再訪。
廃墟。
武蔵の告白。
だが、これは告白ではない。
確認だ。
順番。
選別。
憑代。
足りない。
三人は消えた。
武蔵は残っている。
なら、次は。
私は、画面に映る逆さ鳥居を見つめる。
目を逸らせない。
耳元で、はっきりと裏手拍子が鳴る。
コツ。
順番は、終わっていない。
足りない分。
画面の向こう。
私は、画面を閉じようとする。
だが、カーソルが動かない。
黒い点が、中央で揺れている。
コツ。
音が、すぐ後ろで鳴った。
私は、振り向かない。
次のファイル名は、
「0503_final」
最終映像。
私は、再生を押す。
白字で、
五月一日 午後十一時三分
映像は、固定カメラではなく、手持ちのカメラで始まる。
画角が低い。机の上に置かれたまま、少し傾いている。
武蔵が、画面の中央に座っている。
黒い服。
背後は、あの廃墟の二階。
祭壇の前。
蝋燭が灯っている。
「……これを見ているのが誰かは知らない」
低い声。
「でも、順番は進んでいる」
武蔵の目は、まっすぐカメラを見ている。
「夢乃。哲平。トモノリ」
名前を一つずつ、はっきりと発音する。
「三つ、足りない」
祭壇に視線を向ける。
偶像が三つ並んでいる。
夢乃の顔。
哲平の顔。
トモノリの顔。
どれも、笑っている。
武蔵が続ける。
「マモは、家に入る」
蝋燭の火が揺れる。
「入ったら、出す」
声が、微かに重なる。
夢乃の声が重なり、哲平の声が混ざる。
「出すためには、形がいる」
武蔵が、祭壇の中央に置かれた紙を持ち上げる。
逆さ鳥居。
「天」。
黒い点。
「形を描き、言葉を呼ぶ」
カメラに近づける。
「そして、見る」
武蔵の口元が歪む。
「見る者も、順番に入る」
その言葉と同時に、画面の端に赤い線が走る。
ノイズ。
武蔵がカメラを持ち上げる。
「今から、最後の確認をする」
立ち上がる。
廃墟の二階を歩く。
床板が軋む。
祭壇の横の襖を開ける。
奥の小部屋。
床に、古い写真が散らばっている。
白黒写真。
幼い武蔵。
祖母。
祭壇。
「祖母が言ってた」
写真を拾う。
「家系が途絶えると、マモは外に出る」
写真をカメラに見せる。
幼い武蔵の背後に、黒い影。
逆さ鳥居の形。
「だから、守る」
武蔵の声が低くなる。
「順番を守る」
裏手拍子。
コツ、コツ。
廃墟の外から。
武蔵が振り向く。
カメラが揺れる。
階段を降りる。
一階の座敷。
神棚は空。
だが、壁に赤い線が広がっている。
逆さ鳥居。
「天」。
中央に黒い点。
武蔵が呟く。
「……まだ足りない」
外へ出る。
夜。
廃墟の前に、誰もいない。
静かだ。
だが、地面に、三つの黒い影が立っている。
夢乃。
哲平。
トモノリ。
実体はない。
影だけ。
武蔵が近づく。
「もうすぐだ」
影が揺れる。
裏手拍子。
コツ。
武蔵の手が、自分の手を打つ。
コツ。
「順番は、終わる」
その瞬間、影が消える。
静寂。
武蔵がカメラを自分に向ける。
「これで、家系は守られる」
目が黒い。
「足りない分は、画面の向こうが補う」
その言葉で、画面が赤く染まる。
ノイズ。
裏手拍子が速くなる。
コツコツコツ。
武蔵の声が重なる。
「見るな」
だが、カメラは回り続ける。
武蔵の顔が歪む。
夢乃の声が混ざる。
「ハイレタ」
哲平の声。
「順番」
トモノリの声。
「足りない」
三つの声が一つになる。
「入れ」
画面が真っ赤になる。
逆さ鳥居が浮かぶ。
「天」
黒い点。
突然、画面が暗転する。
――
次の映像。
黒幕。
白字で、
五月二日 午前零時
定点カメラ。
武蔵の実家。
居間。
武蔵が床に座っている。
目は閉じている。
呼吸はある。
静かだ。
スマホが震える。
非通知。
武蔵は目を開けない。
だが、口が動く。
「……順番」
声が、夢乃の声。
哲平の声。
トモノリの声。
三つが重なる。
「足りない」
スマホが震え続ける。
カメラのレンズに、赤い線が浮かぶ。
逆さ鳥居。
中央に黒い点。
武蔵の目が開く。
黒い。
画面が歪む。
砂嵐。
――
私は再生を止めた。
再訪。
廃墟。
武蔵の告白。
だが、これは告白ではない。
確認だ。
順番。
選別。
憑代。
足りない。
三人は消えた。
武蔵は残っている。
なら、次は。
私は、画面に映る逆さ鳥居を見つめる。
目を逸らせない。
耳元で、はっきりと裏手拍子が鳴る。
コツ。
順番は、終わっていない。
足りない分。
画面の向こう。
私は、画面を閉じようとする。
だが、カーソルが動かない。
黒い点が、中央で揺れている。
コツ。
音が、すぐ後ろで鳴った。
私は、振り向かない。
次のファイル名は、
「0503_final」
最終映像。
私は、再生を押す。



