「あら瑠奈(るな)、おはよう。」
「おはよう。」
朝7時のアラームで目覚め、身支度をしようと1階に行くとトイレから出てきた母親と出くわした。
「今日バイト?何時から?」
「うん。9時から。」
「早いねぇ〜何時まで?」
「17時。」
「外が明るい内に行って暗い時に帰るのね。気をつけるんだよ。」
「うん。ありがと。」
適当に相槌をうち、角が立たないようにトイレに逃げた。
私は朝はあまり機嫌が良くない。だから朝に話しかけられるのはすごく辛い。家族と一緒に住んでいるのだから話しかけられるのは仕方のない事だが、こんなに素っ気なく返事をしているのだから察してくれてもいいのではないかと思ってしまう私は察してちゃんでキモイ。
「そういえば瑠奈、今日誕生日だったっけ?」
身支度を済ませ冷蔵庫から昨日作ったお弁当を取り出していると、母親が聞いてきた。自分が生んだのだからだったっけではなく覚えておいてほしい。...無理か。私なんかより出来のいい弟の方を大事に思ってるもんね。
「そうだよ。18になりました〜」
その皮肉が表に出ないように。努めて明るくそう言った。ここで私の反応を間違えてしまえば母親の機嫌が悪くなり、最悪の誕生日になってしまう。誕生日に期待などしていないが、気持ち的に最悪な誕生日で終わるのは嫌だ。
「あら、もうそんなになるのね。全然18歳に見えないけどほんとに18歳かしら〜?12歳ぐらいじゃない?」
母親はからかいながらそう言ってきた。ぐうの音も出ない。その通りだから。
私は18でありながら身長が150もないというくそちびなのだ。そして男性であれば誰でも好きであろう部位もぺったんこだ。
「こんな身なりですけどちゃんと18です〜成人です〜」
おちゃらけながら言い返した。と言ってもこれに関しては本当の事なので本気で怒ってはいない。
「成人って言っても信じもらえなさそう。」
「それは私も思うけど!事実上成人なんでね。」
「成人、18に引き下がったけどタバコもお酒も買えないのに意味あったのかしらね。」
「それは私も思う。まあでも家借りれたり出来るようになったからね。」
「あー、学生で一人暮らししたい子にはいいのかもね。でも学生だったら親がお金払うだろうから親の名義でもいいのに。」
「どうだろう。人によっては自分でやりたい子もいるだろうからいいんじゃない?あ、私時間だから行くね。」
「あら、9時からなのに随分早く行くのね?」
「9時からだと思ってたら8時半からでさ。今日納品多いからその都合で。それじゃ、行ってきます!」
母親の返事など聞かず家を出た。危ない、一人暮らししたいと思っているのがバレる所だった。
「さー、どこで時間潰そう。」
最寄り駅に来たはいいものの、8時半からというのは嘘でバイトが始まる9時まで1時間半時間を持て余してしまった。
このままバイト先がある駅まで行ってもいいが、やる事がない。この時間はどのお店も閉まってるし。
「ま、行って事務所で時間潰しとけばいっか。」
ちょうど来た電車に乗り込み、バイト先に向かった。
私が働いているのは駅ビル内の少しお高めのレストランだ。なのに来る客層は頭がいかれている。高いからと言って客層も良いと思ったら大間違いだ。
ビルの1階で会員証を借り、エレベーターで更衣室がある5階まで上がる。
更衣室はそんなに広くなく、駅ビル内で働く人達との共同でしかも1人1個のロッカーではなく同じ店舗の人と一緒に使わなければならない。幸い私は一緒に使ってた人が違う店舗に移動したから1人で使えているけれど。
ファミレスの制服は白のブラウスと黒のズボンに黒チョッキ、黒サロン、黒の蝶ネクタイというお高めのお店でよく見かける制服だ。私はある事情で高校を中退しているので、ああいう全女子が好きそうなチェックのスカートとか履いて働きたいなと思う。
多分、スカートで働ける場所が少ないのは犯罪を予防しているからだろう。それと飲食店だと火を扱うから火傷とかを防ぐ為もある。
そんなくだらない事をぼんやり考えながらバ先に行くと、明かりがついていた。
「あれ、誰かいますか。」
声を掛けても返事はない。店内も1周して事務所の扉も開けたが誰も居ない。昨日のラストの人が明かりを消し忘れたのだろう。
店長、モール内の防災の人に怒られちゃうなぁという心配と昨日のラストが私じゃなくて良かったと人間として終わってる事も同時に考えてしまった。
すぐ自分に危機を回避出来た事を安堵する癖をやめたい。だから私はモテないのだ。
「はぁ、もう18かぁ...」
事務所の狭い所に置いてある椅子に座りながら独り言を呟いた。
この18年間、ほんとに色んな事があった。その中でも1番辛かったのは去年だ。もうあんな思いも生活もしたくない。
「家探そ。」
18になってやりたかった事。それは実家を出て1人で暮らす事だ。成人が18に引き下がったと知った時はほんとに嬉しかった。自分で家を借りれるから。親の手を煩わせず借りれて、尚且つ1人で暮らす理由も親に誤魔化しやすい。
まあそれでうちの両親(おもに母親)が納得するとは思えないがずっと夢見てきた自立。誰にも邪魔させない。
「やっぱ駅近ってなると家賃がなぁ...」
このレストランのバイトを辞めるつもりはまだない。だからこのバ先の近くに住みたいのだがそうすると家賃がそこそこする。家賃も程々で駅近ないかなぁ。
「あ、ここ良さそう。」
ほぼ機械的にスマホをスクロールしていると、目を引く物件があった。
このバ先から2駅先の物件だが、敷金礼金なしで家賃が5万と程よいし、家も築4年だ。白を基調としていてとても可愛い。
「よし、物件見に行く予約入れよ。」
ぼちぼち家は探していたが、こんなに好条件なのは出てこなかった。18になった日に見つかるなんて何かの縁だ。早く見に行って良かったらそこで契約しよう。
自分の休みが最短で4日後だったからそこに予約を入れ、再び先程の物件の画像を見る。この家賃で駅近なのにトイレとお風呂が別だし、クローゼットも私の荷物を考えると広い。全部の荷物を入れたとしてもスペースが余る。
絶対ここで契約したい。まだ中を見てもいないのにそう思った。その為にはもっとお金を稼がないと...。
「おはよう〜、ばやし来るの早くない?」
そう言って来たのはこのバ先の店長だ。ばやしというのは私のあだ名。名字が小林(こばやし)だからばやしと呼ばれている。
「おはようございます!いやー、散歩しようと思って家を出たら早く着いちゃいました!あ、そうだ来たら明かりつけっぱなしでしたよ。」
「まじ!?やばい、昨日のラスト俺もいたから絶対怒られるわ。」
「わー、それは怒られますね。」
「適当に謝っとこ。すいませーんって。」
「あはは!!」
ヘコヘコ頭を下げる仕草が面白すぎて声を出して笑った。店長らしからぬ事を言う人で本当に面白い。付き合うなら店長みたいな人がいい。(本人にも言っている。)
「てかばやし今日誕生日じゃない??おめでとう!」
出勤を打ち掃除機をかけようと動き始めた時に店長に言われて手が止まった。
「えぇー、覚えてくれてたんですか!!母親ですら忘れてたのに!!」
「俺と同じ月だし日にちも近いから覚えてる。」
「嬉しすぎます!プレゼントも待ってますね。」
両手を出すと店長は苦笑いした。
「それは彼氏に頼んでくれ。」
「彼氏いないの知ってるくせに!!酷い!!帰ります!!」
「帰られるの困るからやめて。今度おにぎり1個買ってあげるから。」
「許します帰りません働きます。」
「おにぎり1つで言うこと聞くのね。」
笑っている店長を置いて今度こそ店内の掃除機をかけた。
このバイトはお客さん単価は高いが、従業員の時給は最低賃金だ。同じ飲食店ならもっと時給が高い所もあるし現に前はここより高い所で働いていた。
ではなぜお金が欲しいのに最低賃金で働いているのか。それは至ってシンプルな理由だ。ここの従業員が好きだから。
それに前のバ先はバイトを平気で残業2時間とかさせるししかも勤怠は切らされる。ブラック企業もいい所だ。
「ダブルワークしなきゃなぁ...」
ここのバイトは辞めたくない。でもここの給料だけでは一人暮らしは厳しい所がある。そうなるとダブルワークをするしかない。
生きるのってほんとに大変で面倒臭い。どうしてこんなに面倒臭いのにみんな必死で生きようとするのだろう。
...だめだめ、今はこの思考をしている場合じゃない。これを思考し始めたら私は何も出来なくなるって経験済みじゃない。
小さく頭を振って今は目の前の仕事に集中する事にした。
「はぁー、疲れたぁ。」
バイトが終わり外に出て一息つく。まだ寒いには寒いが先月よりかは暖かい気がする。心なしかもうすぐ春になるのを感じ取れる。
「うわ、めっちゃLINEきてんじゃん。」
スマホを見ると母親から鬼LINEが入っていた。既読をつけずに読むと父親の愚痴やら弟の愚痴やらが沢山綴ってあった。そしてこんな生活が続くならもう死にたいとも書かれていた。
「だっっる。」
それが私の素直な感情だった。
いや、自分の親にこんな感情を向けるのはいけないと思うが、こんなLINEが毎日バイト終わりにきてる身にもなってほしいし、同じような内容を家に帰ってからも長々と愚痴を聞かされるのだ。それで何も思わず接しろは無理がある。
「おはよう。」
朝7時のアラームで目覚め、身支度をしようと1階に行くとトイレから出てきた母親と出くわした。
「今日バイト?何時から?」
「うん。9時から。」
「早いねぇ〜何時まで?」
「17時。」
「外が明るい内に行って暗い時に帰るのね。気をつけるんだよ。」
「うん。ありがと。」
適当に相槌をうち、角が立たないようにトイレに逃げた。
私は朝はあまり機嫌が良くない。だから朝に話しかけられるのはすごく辛い。家族と一緒に住んでいるのだから話しかけられるのは仕方のない事だが、こんなに素っ気なく返事をしているのだから察してくれてもいいのではないかと思ってしまう私は察してちゃんでキモイ。
「そういえば瑠奈、今日誕生日だったっけ?」
身支度を済ませ冷蔵庫から昨日作ったお弁当を取り出していると、母親が聞いてきた。自分が生んだのだからだったっけではなく覚えておいてほしい。...無理か。私なんかより出来のいい弟の方を大事に思ってるもんね。
「そうだよ。18になりました〜」
その皮肉が表に出ないように。努めて明るくそう言った。ここで私の反応を間違えてしまえば母親の機嫌が悪くなり、最悪の誕生日になってしまう。誕生日に期待などしていないが、気持ち的に最悪な誕生日で終わるのは嫌だ。
「あら、もうそんなになるのね。全然18歳に見えないけどほんとに18歳かしら〜?12歳ぐらいじゃない?」
母親はからかいながらそう言ってきた。ぐうの音も出ない。その通りだから。
私は18でありながら身長が150もないというくそちびなのだ。そして男性であれば誰でも好きであろう部位もぺったんこだ。
「こんな身なりですけどちゃんと18です〜成人です〜」
おちゃらけながら言い返した。と言ってもこれに関しては本当の事なので本気で怒ってはいない。
「成人って言っても信じもらえなさそう。」
「それは私も思うけど!事実上成人なんでね。」
「成人、18に引き下がったけどタバコもお酒も買えないのに意味あったのかしらね。」
「それは私も思う。まあでも家借りれたり出来るようになったからね。」
「あー、学生で一人暮らししたい子にはいいのかもね。でも学生だったら親がお金払うだろうから親の名義でもいいのに。」
「どうだろう。人によっては自分でやりたい子もいるだろうからいいんじゃない?あ、私時間だから行くね。」
「あら、9時からなのに随分早く行くのね?」
「9時からだと思ってたら8時半からでさ。今日納品多いからその都合で。それじゃ、行ってきます!」
母親の返事など聞かず家を出た。危ない、一人暮らししたいと思っているのがバレる所だった。
「さー、どこで時間潰そう。」
最寄り駅に来たはいいものの、8時半からというのは嘘でバイトが始まる9時まで1時間半時間を持て余してしまった。
このままバイト先がある駅まで行ってもいいが、やる事がない。この時間はどのお店も閉まってるし。
「ま、行って事務所で時間潰しとけばいっか。」
ちょうど来た電車に乗り込み、バイト先に向かった。
私が働いているのは駅ビル内の少しお高めのレストランだ。なのに来る客層は頭がいかれている。高いからと言って客層も良いと思ったら大間違いだ。
ビルの1階で会員証を借り、エレベーターで更衣室がある5階まで上がる。
更衣室はそんなに広くなく、駅ビル内で働く人達との共同でしかも1人1個のロッカーではなく同じ店舗の人と一緒に使わなければならない。幸い私は一緒に使ってた人が違う店舗に移動したから1人で使えているけれど。
ファミレスの制服は白のブラウスと黒のズボンに黒チョッキ、黒サロン、黒の蝶ネクタイというお高めのお店でよく見かける制服だ。私はある事情で高校を中退しているので、ああいう全女子が好きそうなチェックのスカートとか履いて働きたいなと思う。
多分、スカートで働ける場所が少ないのは犯罪を予防しているからだろう。それと飲食店だと火を扱うから火傷とかを防ぐ為もある。
そんなくだらない事をぼんやり考えながらバ先に行くと、明かりがついていた。
「あれ、誰かいますか。」
声を掛けても返事はない。店内も1周して事務所の扉も開けたが誰も居ない。昨日のラストの人が明かりを消し忘れたのだろう。
店長、モール内の防災の人に怒られちゃうなぁという心配と昨日のラストが私じゃなくて良かったと人間として終わってる事も同時に考えてしまった。
すぐ自分に危機を回避出来た事を安堵する癖をやめたい。だから私はモテないのだ。
「はぁ、もう18かぁ...」
事務所の狭い所に置いてある椅子に座りながら独り言を呟いた。
この18年間、ほんとに色んな事があった。その中でも1番辛かったのは去年だ。もうあんな思いも生活もしたくない。
「家探そ。」
18になってやりたかった事。それは実家を出て1人で暮らす事だ。成人が18に引き下がったと知った時はほんとに嬉しかった。自分で家を借りれるから。親の手を煩わせず借りれて、尚且つ1人で暮らす理由も親に誤魔化しやすい。
まあそれでうちの両親(おもに母親)が納得するとは思えないがずっと夢見てきた自立。誰にも邪魔させない。
「やっぱ駅近ってなると家賃がなぁ...」
このレストランのバイトを辞めるつもりはまだない。だからこのバ先の近くに住みたいのだがそうすると家賃がそこそこする。家賃も程々で駅近ないかなぁ。
「あ、ここ良さそう。」
ほぼ機械的にスマホをスクロールしていると、目を引く物件があった。
このバ先から2駅先の物件だが、敷金礼金なしで家賃が5万と程よいし、家も築4年だ。白を基調としていてとても可愛い。
「よし、物件見に行く予約入れよ。」
ぼちぼち家は探していたが、こんなに好条件なのは出てこなかった。18になった日に見つかるなんて何かの縁だ。早く見に行って良かったらそこで契約しよう。
自分の休みが最短で4日後だったからそこに予約を入れ、再び先程の物件の画像を見る。この家賃で駅近なのにトイレとお風呂が別だし、クローゼットも私の荷物を考えると広い。全部の荷物を入れたとしてもスペースが余る。
絶対ここで契約したい。まだ中を見てもいないのにそう思った。その為にはもっとお金を稼がないと...。
「おはよう〜、ばやし来るの早くない?」
そう言って来たのはこのバ先の店長だ。ばやしというのは私のあだ名。名字が小林(こばやし)だからばやしと呼ばれている。
「おはようございます!いやー、散歩しようと思って家を出たら早く着いちゃいました!あ、そうだ来たら明かりつけっぱなしでしたよ。」
「まじ!?やばい、昨日のラスト俺もいたから絶対怒られるわ。」
「わー、それは怒られますね。」
「適当に謝っとこ。すいませーんって。」
「あはは!!」
ヘコヘコ頭を下げる仕草が面白すぎて声を出して笑った。店長らしからぬ事を言う人で本当に面白い。付き合うなら店長みたいな人がいい。(本人にも言っている。)
「てかばやし今日誕生日じゃない??おめでとう!」
出勤を打ち掃除機をかけようと動き始めた時に店長に言われて手が止まった。
「えぇー、覚えてくれてたんですか!!母親ですら忘れてたのに!!」
「俺と同じ月だし日にちも近いから覚えてる。」
「嬉しすぎます!プレゼントも待ってますね。」
両手を出すと店長は苦笑いした。
「それは彼氏に頼んでくれ。」
「彼氏いないの知ってるくせに!!酷い!!帰ります!!」
「帰られるの困るからやめて。今度おにぎり1個買ってあげるから。」
「許します帰りません働きます。」
「おにぎり1つで言うこと聞くのね。」
笑っている店長を置いて今度こそ店内の掃除機をかけた。
このバイトはお客さん単価は高いが、従業員の時給は最低賃金だ。同じ飲食店ならもっと時給が高い所もあるし現に前はここより高い所で働いていた。
ではなぜお金が欲しいのに最低賃金で働いているのか。それは至ってシンプルな理由だ。ここの従業員が好きだから。
それに前のバ先はバイトを平気で残業2時間とかさせるししかも勤怠は切らされる。ブラック企業もいい所だ。
「ダブルワークしなきゃなぁ...」
ここのバイトは辞めたくない。でもここの給料だけでは一人暮らしは厳しい所がある。そうなるとダブルワークをするしかない。
生きるのってほんとに大変で面倒臭い。どうしてこんなに面倒臭いのにみんな必死で生きようとするのだろう。
...だめだめ、今はこの思考をしている場合じゃない。これを思考し始めたら私は何も出来なくなるって経験済みじゃない。
小さく頭を振って今は目の前の仕事に集中する事にした。
「はぁー、疲れたぁ。」
バイトが終わり外に出て一息つく。まだ寒いには寒いが先月よりかは暖かい気がする。心なしかもうすぐ春になるのを感じ取れる。
「うわ、めっちゃLINEきてんじゃん。」
スマホを見ると母親から鬼LINEが入っていた。既読をつけずに読むと父親の愚痴やら弟の愚痴やらが沢山綴ってあった。そしてこんな生活が続くならもう死にたいとも書かれていた。
「だっっる。」
それが私の素直な感情だった。
いや、自分の親にこんな感情を向けるのはいけないと思うが、こんなLINEが毎日バイト終わりにきてる身にもなってほしいし、同じような内容を家に帰ってからも長々と愚痴を聞かされるのだ。それで何も思わず接しろは無理がある。



