翌日、[MMモバイル]を起動した。
(ちょろぎさん、いるのかな? ほんとに誘ってくれるのかな?ちょっと、怖いな……)
やめることを撤回し、ちょろぎの言葉に押されて続けることにしたが、『ちょろぎさんから声をかけられなかったら……』と思うと、また心が折れそうになる。
杏瑞は、恐る恐る画面を見つめる。
ロビー画面が映し出された。フレンド欄には[ちょろぎ 待機中]となっていた。
(あ、いた……)
どうすればよいか分からず、画面をじっとみていると
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『ちょろぎ』が、あなたを招待しています。
受けますか? はい いいえ
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招待メッセージが届いた。
(誘ってくれた……)
ほっとした瞬間に胸の奥が一気にほどけた。固く握っていたスマホを持ち直し、震えそうな指で『はい』をタップする。
画面が切り替わり、
ちょろぎのロビーに、エフェクトを纏いながらアプリコットが現れた。
それを見て、胸が少し熱くなった。
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[ルーム内チャット]
こんばんは。来てくれたんですね。
もしかしたら、来ないかもと心配してました。
こんばんは。昨日は取り乱してごめんなさい。
ほんとに誘ってもらえるのか不安でした。
だから、辞めるって選択肢も考えました 笑
信じてくれてなかった? ショックです 涙目
そう言う訳じゃ……マイナス思考なんで 苦笑
(あ、そうだ。ちょろぎさんなら分かるかも)
教えて貰いたいことがあるのですが。
なんですか? 答えられるかな? 笑
あの、昨日から赤いドットがついたままで、
それを消すには、どうすれば良いですか?
何かのお知らせなのかな?
一緒に辿ってみましょう。どこについていますか?
杏瑞は指示に従って、辿っていった。
あっ、ありました。言われた通り、業績でした。
良かった。何の業績ですか?
[SR 100キル達成 ]って、書いてあります。
凄いですね!
始めてから3ヶ月位って、言ってましたよね。
相当凄いと思います。おめでとうございます!
ちなみに、プレイ期間が長いけど、それは未だに持ってません。 笑
ありがとうございます。
褒められるほど、上手くないですけど。 苦笑
(突然、褒めるなんて反則だよ……)
杏瑞はドキドキした。
あと、ちょろぎさんの名前の下に
『電脳旅団 隊長』って、書いてあるけど何ですか?
それは、『クラン』と呼ばれるチームのことです。
隊長さんなんですね。すごい!
すごくはないですよ 笑
押し付けられただけです。
これからは『隊長さん』って呼ぼうかな?
やめてください 笑
ちょろぎでいいです。
では、隊長さん。 戦いに行きましょう。
………人の話、聞いてます?
杏瑞は今までにない、楽しい気持ちで、戦いに挑んだ。
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[ルーム内チャット]
まさか、配信者と接敵するとは思わなかったな。
あの強かった人、配信者だったんですか?
界隈では有名ですね。何度か動画を観ました。
今のは、動画で配信されるんですか?
多分……そうかも。
ちょろぎさん、見事な敵役になりましたね。 笑
敵役って…… 笑
助演男優賞ものでした 笑
お褒めのお言葉……光栄です 苦笑
昨日の一件があり、『気まずくなるかも』と不安だった杏瑞だったが、何事もなかったように接してくれたちょろぎに感謝した。
ちょっと待って下さい。
どうしました?
フレンド呼んでいいですか?
あ、はい。
自分勝手に二人でプレイすると思い込んでいたので、『フレンド』の言葉に戸惑いを覚えた。『独り占め』とまではいかないまでも、二人でプレイするものだと勝手に思っていた。
(そうだよね、ちょろぎさん。フレンドが大勢いても、おかしくないよね……)
寂しさと、知らない人が『入ってくる』ことに不安を感じていた所に、招待者が淡い光のエフェクトをまとって現れた。
空から光が差し込んだ。
上空からゆっくりと、真っ白な衣装で羽衣を纏った、美しい女性が降りてきた。
そして、優雅な仕草でお辞儀をした。
(女神様? 私とは正反対だ…………)
お邪魔しまーす!
(ペンペンって言うんだ。ペンペン……かわいい名前)
(ん……えっ! ペンペンさんって、副隊長さんなの!)
(隊長と副隊長……きっ、緊張してきた……)
初めての人に加え、二人の肩書に萎縮して緊張が高まってきた。
初めまして、アプリコットさん。
話は、ちょろぎから聞いてました。
会うのがすっごく楽しみだったんですよ。
初めまして よろしくお願いします。
(私の話?………悪口じゃ……ないよね)
アプリコットさんは〈スナイパーライフル〉が上手いと聞いてたから。
ぜひ、今度教えて下さい。
ちょろぎさんの買いかぶりすぎです 苦笑
いやいや、ご謙遜を 笑
まー、とにかく殺伐とした世界にいきましょうか! 笑
(気さくな感じのいい人だな。よかった……)
杏瑞の緊張が解けてきた。この人もきっと、『私を理解してくれる』人と感じ、不安はなくなった。
この日から、三人の戦いが始まった。
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[ルーム内チャット]
なんなのよ! なんでコンテナの中にかくれてんのよ!
警戒心なさ過ぎだろ 笑
もう少し周囲を見て行動してくれ 笑
えー!そんなことないでしょ?そんなに酷かった?
アプリコットさん、ちょろぎに言い返してよ!
私もそう思います……………
えっ、アプリコットさんまで………
………気を取り直して、もう一戦いくわよー!
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[ルーム内チャット]
なんなのよ!なんで、あの状況でスタングレネード(閃光手榴弾)投げてくんのよ!
視界は悪くなるし、耳がキーンとしたわ!
普通、あんな武器使わないじゃない。なんなのよ、あいつ!
警戒心がないからだろ。少しは学べよ 笑
私もそう思います…………
えっ、なにこのデジャヴ感……
この試合はなかったことにして、もう一戦……
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こんな感じで、ゲーム終了後は毎回、反省会のような時間があった。ほとんどは、ペンペンの愚痴から始まるのが恒例だ。
杏瑞は、テキストチャットでの会話が、こんなに楽しいものだとは思っていなかった。
二人とも都合があり、会話はテキストオンリーだったが、それも杏瑞にとっては大変助かっていた。
(――二人とも優しいし、何より楽しい……)
(ここなら、『普通の人』として私を扱ってくれる……)
二人の希望で『電脳旅団』に入ることになり、プレイする時間はますます増えていった。
杏瑞の生活は[MMモバイル]一色になり、充実していた。
ちょっとしたきっかけで[MMモバイル]を始め、嫌な経験もした。
それでも、二人に出会えたことを、心の底から「本当に良かった」と感じていた。
そして――――
二人と出会ってから数週間が経った頃、現実世界で事件が起きた。
