拝啓。日向で寝ている君へ

 「君,こんな薄っぺらい鞄で何しに学校行ってるの?」

 「うるせえ」

 朝特有の澄んだような空気が消え,蒸し暑さを感じる時間帯。
 隣に座った山岡は,俺の鞄を持ち上げ顔をしかめた。

 「私,生きてた頃から不思議に思ってたんだよねー。こんな薄っぺらい鞄持ってきて何してんだかって。最早持ってこないほうが楽では?」

 「ズバズバ本当にうるせえんだけど」

 「えー。だって本当に不思議だったんだもん」

 俺は生きてた頃のお前と,今のお前の性格の違いが不思議だ。
 そんな言葉は言わずに俺はため息をつく。
 復讐に付き合ってもらう。そう,こいつは言った。
 だから直ぐにでも始めるのかと思ったが,こいつが始めたのは俺の鞄の観察。
 そもそも何故幽霊が物に触れるのかと驚いて聞いてみると「知らないけど,なんかやってみたい!って思ったら出来た」と何とも言えない回答が返ってきた。

 「あ!おい。勝手にあけんな」

 「いいじゃん」

 鞄の観察に飽きたのか山岡は鞄のチャックを開け始める。
 一応止めたが,大したものは入ってないので無理に止めることはしない。それに「エロ本でも入ってんの?」なんてことを言われれば,無実を証明するためにも見せるしかない。

 「わー。プリントぐっしゃぐしゃ」

 何がそんなに楽しいのか,山岡はケラケラと笑いながら俺の鞄の中身を漁る。
 教室を出ていく時に,机に溜まっていたプリントを適当に入れてきたため,山岡の言う通りしわくちゃになったプリントしか入ってないだろう。
 少しして手を動かし鞄を見ていた山岡が手を止めた。
 紙だらけの鞄の中で手でも切ったかと思ったが,幽霊が怪我なんてしないだろう。

 「どうかしたか?」

 「……ん?何でもないよ」

 声をかけると山岡は,何もなかったように動き始めるそしてヤレヤレといったジェスチャーをした。

 「なんか変な虫が入ってたんだよ」

 「いや,見つけたなら取れよ」

 「君は女子に虫を取らせようとするの」

 山岡はそう言うと立ち上がり,鞄を俺に投げつけた。

 「いってぇ!?」

 突然投げられたため,顔面に思いっきり当たる。

 「何すんだよ!」

 「君がぼーっと生きてるからだよ」

 「はぁ?」

 意味のわからない事を言いながら,山岡はスタスタ歩き出す。

 「ほら行くよー。傍観者君」

 「人を置いてくな!」

 「はいはーい」

 日差しがどんどん強くなっていく中,涼し気な顔で山岡鈴音は楽しそうに笑った。