幼馴染が「お願い」って言うから


 翌朝起きたら、スマホに清良からの着信が死ぬほど入っていた。いい加減にしろと震えていると、ピンポーンとインターホンが鳴る。

 母に言われて渋々階下に降りていく。するとそこには、しおしおになった幼馴染がドアの外に立っていた。

「……なにしに来たんだよ」
「謝りに。あおちゃん、全然返事くれないし」
「寝てたからだろ!」
「ごめん。ちゃんと消すから」

(……消すから、ってことはまだ消してないんだな)
 
 ふつふつと昨日の怒りが再燃する。

「大体、あんな写真持ってたってしょうがねえだろ! 緋鶴だってりんりんの方がずっと可愛いって言ってたんだから!」
「そんなことないっ!」

 清良が俺を睨み付けて、大声で叫ぶ。

「あおちゃんの方が可愛いよ! 田野倉なんか比べものにならない。絶対、あおちゃんの方が可愛い!」
「!」

 清々しい日曜の朝になにを言ってんだ。ワンコの散歩してるご近所さんがちらちらとこっちを見ていく。

「でも、あおちゃんが嫌なら、やっぱり消すよ。目の前で消すの見てもらおうと思ってきたんだ」

 しょんぼりと項垂れながらスマホを取り出す清良に心がチクチクと痛む。

(……(ほだ)されるな、俺。頑張れ、俺)

 清良の目の下にはくっきりと隈があった。ふわふわの髪も今朝はぐしゃぐしゃ。きっと、昨夜は俺から返事が来るかもと思って、ろくに寝てないんだろう。

「……ごめんね」

 しょげかえった姿のまま、ぽつりと呟いてスマホに触れる。その手を思わず、がつっと掴んだ。

「あおちゃん?」
「ブ、ブランカのケーキ、一年分だからな!」
「え?」
「絶対絶対、他の誰にも見せるな! 約束破ったら、二度と口きかねえ!」
「……あおちゃん」

 清良はさっとスマホを上着のポケットにしまうと、両手で俺の手を包んだ。

「約束する。あの写真は俺の宝物だから、絶対誰にも見せない」

 俺はその場で清良を蹴り飛ばし、家に入って玄関の鍵を締めた。俺の名を呼ぶ清良の声が聞こえたが、無視だ。
 だが、めげない清良は午後三時に再び現れた。手にはしっかり、ブランカのケーキの箱を持って。

 昨日から様子を(うかが)っていた緋鶴が、すぐに清良を家に入れてしまったので仕方がない。俺は清良を自分の部屋に通した。

 ケーキの箱を開けると、中にはスイーツが4個。ケーキが二つとプリンにシュークリームが入っていた。ケーキは真っ赤な苺が乗ったショートケーキと、下地にフランボワーズムースの入ったチョコケーキだ。どれも俺の好物だった。

「……ほんとに買ってきたんだな」
「一年分ってよくわからないから、あおちゃんの欲しい時に好きなの買ってくるよ。どれでも、好きなの言って」
「もうこれでいいよ。一緒に食おう」

 下から皿を持ってこようとしたら、ノックがあった。ドアを開けると、緋鶴がお盆にアイスティーと食器を持って立っている。

「な、仲直りした?」
「お前も今度、ラッテリアでおごれ」
「……はい」

 お盆を受け取って振り向くと、清良がほっとした顔を向けてくる。緋鶴は清良に手を振って、階下に降りていった。

 清良がショートケーキとチョコケーキをそれぞれ皿に乗せた。

「俺、ショートケーキがいい。あとプリンも欲しい」
「全部あおちゃんが食べていいのに」
「いいよ。お前と一緒に食べた方がうまいもん」
「あおちゃん……」

 潤んだ瞳でじっと見てくるから、釘を刺しておく。

「いいか。怒ってないわけじゃないからな!」
「…………はい。すみませんでした」

 それから二人で向かい合って食べたブランカのケーキは、これまでの怒りを忘れそうになるほど甘くてうまかった。
  

 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 あおちゃんがメイド服を着た話はP24にあります。ずっと書きたかった番外編、お読みいただきありがとうございました。