蝶々結び


しばらくしてナースステーションに戻ると、
 柚希が腕を組んで待っていた。

「結衣~、どこ行ってたの?全然戻ってこないから心配したんだけど!」

「あっ、ご、ごめん。ちょっと先生に呼ばれて……。」

「先生?……って、陽向先生?」

 柚希の目が鋭く光る。
 結衣は慌てて目を逸らした。

「えっ……ちょっと、まさか!」

「ち、違うよ?」

「顔、真っ赤じゃん!? もしかして……付き合ったの?」

「なっ、な、なに言ってんの柚希!」

 結衣は顔を覆って、思わず背を向けた。

「やっぱり~!当たりだ!」

 柚希は嬉しそうに笑って、結衣の背中を軽く叩いた。

「結衣、よかったね。やっと、素直になれたじゃん。てか、早く報告しなさいよね!」

 その言葉に、結衣は少しだけ恥ずかしそうに微笑んだ。

「……うん。ごめん、そのうちきちんと報告するつもりだったんだけど…。」

「なーんだ~そっかそっか!結衣、本当におめでとう!!」

「うん。ありがとう、柚希!」

二人は笑いあった。

 ナースステーションの窓の外には、
気づけば、空が少しずつ白み始めている。
 夜明け前の淡い光が、ナースステーションの机の上に差し込む。
 長い夜が終わり、静けさの中に新しい朝の気配が満ちていく。

 柚希がふとつぶやく。

「ねぇ結衣。……なんか、今日の朝、すごく綺麗だね。」

「うん……ほんと。」

 結衣は窓の外を見つめながら、小さく笑った。
 その瞳には、確かな光が宿っていた。
 もう、過去の痛みに縛られることはない。
 新しい朝を、誰かと迎えられる――
 それだけで、世界が少し違って見えた。

 夜の静寂を破るように、病棟の廊下で看護師たちの足音が響き始める。
 新しい一日の始まり。
 そして、結衣と陽向碧の、これからの物語がゆっくりと動き出していく。