翌日、草薙は3日連続で名星大学に向かった。
3日連続で登校など在学中よりも出席率が高いくらいだ、と草薙は苦笑いを浮かべる。ついでに昼食を学食で済ませようと考えていたものの、Bランチが売り切れていたため断念した。学食の壁に設置された時計を確認し、少し早いかと思いながら草薙はパソコン研究会に向かう事にした。
「こんにちはー」
草薙が挨拶をしながらドアをスライドさせると、昨日と同様に神鳥が一番端の席に座っていた。神鳥は草薙を一瞥すると興味が無さそうに、再び視線をパソコンの画面に移動させる。その態度に少しムッとするが、昨日の対戦結果を思い出して草薙は押し黙った。
時間帯の関係なのか、やはり室内には神鳥以外誰もいない。そして、神鳥が見詰めるスクリーンに映し出されているのは、デジャブの様なワールドソルジャーの戦闘シーンだ。これでは、ほとんど神鳥専用のパソコンゲームサークルでしかない。
神鳥が使用しているアカウントは、サブアカウントだと言っていたタマネギ。ランクは草薙と同じゴールドであるが、対戦する様子を思い浮かべてても勝てる道筋が全く見出せなかった。それでも―――
「俺の師匠である千神には勝てないだろうな」
自分の力でも何でもないが、草薙はゲーム内で師弟の契りを結んでいる上位プレイヤーの名前を出す。千神は最上位のプラチナランクでも、ベスト10位以内に入る神懸かり的なゲーマーである。ワールドソルジャーをしている者であれば、まず知らないという事はないはずだ。
「千神・・・オジサンのアカウント名って何だっけ?」
千神の名前を出した瞬間、神鳥の手が止まった。さすがに、千神の名前は知っていたようだ。
「昨日対戦しただろ。ナギだよ、ナギ」
神鳥は完全に手を止めて椅子を回して振り返ると、草薙の顔を見上げた。
「えっと・・・」
草薙は小首を傾げながらも、カバンから名刺入れを取り出すと名刺を手渡した。
「名乗ってなかったかな。情報誌先見のMAYで記者をしている草薙だ」
神鳥は名刺を確認しながら、名前を声にする。
「草薙さん、ね。ふうん・・・」
草薙は神鳥がすぐにでもゲームに戻るものだと思っていたが、予想に反して質問を口にした。
「それで、草薙さんは何のために生田君に会いたいの?non-noteの使用について教授と揉めたから?それとも、AIについて調べてるの?」
「AIについて?」と質問の内容を疑問に思いながらも、当初の目的通りの回答をする。
「non-noteについて調べてるんだけど、どういう意味かな?」
すると、神鳥は草薙の質問に答える事なく、全く関係ないと思える質問を返した。
「草薙さんさ、厳しくされるのと、優しくされるのはどっちが好き」
「それは当然、優しくされる方だな。厳しい方が好きなんて人がいるけど、それは本当に厳しくされた事が無いだけだと思う」
草薙の正直な回答に頷くと、神鳥は話しを続ける。
「AIはさ、誰にでも、平等に優しいんだよね」
「は?」
「後でエゴサしてみれば分かるよ」
神鳥の意図が分からず草薙が詳細を確認しようとした時、パソコン研究会のドアが開いた。
「こんにちは」
目の前で挨拶をする学生を目にし、草薙が「ああ」と頷いた。その人物が、何度も繰り返し視聴した動画に映っていた学生だと分かったからだ。事情を既に隊長から聞いていたのか、草薙に対して警戒する様子は全く無いかった。
神鳥から少し離れた位置に座ると、お互いに自己紹介をする。
彼の名前は生田 彰利。つい1ヶ月程前に入学したばかりの新入生だった。そして、やはり経済学部に在籍している。
「それで、動画サイトにも上げられていたけど、あれってどうだったの?」
「ああ、あれですか・・・」
生田は苦笑いしながら、当時の状況を話し始めた。
「実際は、あの動画の様に激しく口論をした訳ではないんですよ。実際、あの後で教授に謝罪して受講の許可も得ていますし。あの動画は、悪意のある切り抜きですよ」
「え、そうなの?」
「はい。まあ、確かに、non-noteの使用を許可しない事には疑問を覚えます。実際、板書しなくて良いのであれば講義に集中できますし、ぶっちゃけ、教授の講義内容だけでは不足している部分もAIが補完してくれますし。そもそも、人間と違って間違えませんから。体調によって波があるような事もなく常に安定していますし、微妙に講義内容が違うなどという事も起きませんから。でも、単位を落としてまで使用しようとは思いませんよ」
生田の冷静は発言を聞き、草薙は拍子抜けした気持ちになった。動画を見た限りでは教授に詰め寄り、激昂している様にしか見えなかったからだ。しかし、あれが切り抜きによって加工されていたという事であれば、目の前にいる生田の態度にも納得できた。
「次の講義があるので、僕はそろそろ行かせて貰いますね」
「あ、ああ、時間を作ってもらってありがとう。ちなみに、動画の講義って誰の?」
生田は立ち上がりながら答えた。
「名越教授の経済学論です」
パソコン研究会から退室する生田を見送った後、草薙も椅子から立ち上がった。もう用事は済んだため、いつまでもここにいる必要がないからだ。
「じゃあ、もう会う事もないかも知れないけど」
パソコンに向かう神鳥に歩み寄りながら、草薙が声を掛ける。ワールドソルジャーで対戦した仲なのである。しかも強者となれば、草薙にとっては無神できない存在だ。すると神鳥はパソコンの画面から視線を外し、隣に立つ草薙を見上げた。
「勘違いしているかも知れないから一応言っておくけど、パソコン研究会はゲームサークルじゃないよ。真面目にプログラミングやセキュリティ、AI等の研究をしているサークル。そうでなければ、この研究棟に部屋を与えてもらうなんて許可されないからね」
意外な説明に草薙は驚く。完全にパソコンゲームのサークルだと思っていたからだ。
「それと、私はアンバサダーであって、ここの学生じゃないんだ」
「え?」
「名刺があるから渡しておくね。後で役に立つかも知れないから」
そう言ってポケットから名刺入れを取り出すと、その中から1枚抜き取って草薙に手渡した。
「帝国大学研究員?」
帝国大学電子工学部研究員 神鳥 千草。
渡された名刺には、全国でもトップクラスの難関校である国立大学の名前が記載されていた。
「うん。研究員って言っても、正確には大学院生だけど。このパソコン研究会の隊長が高校の先輩だから、頼まれて相談役として来てるだけ。で、サークルメンバーがいない時はヒマだからゲームをしているって感じかな」
「いや、研究しろよ。っていうか、隊長は一体何年大学にいるんだ?」
神鳥は苦笑いすると、再びパソコンに向き直った。当然のように画面にはワールドソルジャーが表示されている。それを確認とすると、草薙はパソコン研究室を後にした。
3日連続で登校など在学中よりも出席率が高いくらいだ、と草薙は苦笑いを浮かべる。ついでに昼食を学食で済ませようと考えていたものの、Bランチが売り切れていたため断念した。学食の壁に設置された時計を確認し、少し早いかと思いながら草薙はパソコン研究会に向かう事にした。
「こんにちはー」
草薙が挨拶をしながらドアをスライドさせると、昨日と同様に神鳥が一番端の席に座っていた。神鳥は草薙を一瞥すると興味が無さそうに、再び視線をパソコンの画面に移動させる。その態度に少しムッとするが、昨日の対戦結果を思い出して草薙は押し黙った。
時間帯の関係なのか、やはり室内には神鳥以外誰もいない。そして、神鳥が見詰めるスクリーンに映し出されているのは、デジャブの様なワールドソルジャーの戦闘シーンだ。これでは、ほとんど神鳥専用のパソコンゲームサークルでしかない。
神鳥が使用しているアカウントは、サブアカウントだと言っていたタマネギ。ランクは草薙と同じゴールドであるが、対戦する様子を思い浮かべてても勝てる道筋が全く見出せなかった。それでも―――
「俺の師匠である千神には勝てないだろうな」
自分の力でも何でもないが、草薙はゲーム内で師弟の契りを結んでいる上位プレイヤーの名前を出す。千神は最上位のプラチナランクでも、ベスト10位以内に入る神懸かり的なゲーマーである。ワールドソルジャーをしている者であれば、まず知らないという事はないはずだ。
「千神・・・オジサンのアカウント名って何だっけ?」
千神の名前を出した瞬間、神鳥の手が止まった。さすがに、千神の名前は知っていたようだ。
「昨日対戦しただろ。ナギだよ、ナギ」
神鳥は完全に手を止めて椅子を回して振り返ると、草薙の顔を見上げた。
「えっと・・・」
草薙は小首を傾げながらも、カバンから名刺入れを取り出すと名刺を手渡した。
「名乗ってなかったかな。情報誌先見のMAYで記者をしている草薙だ」
神鳥は名刺を確認しながら、名前を声にする。
「草薙さん、ね。ふうん・・・」
草薙は神鳥がすぐにでもゲームに戻るものだと思っていたが、予想に反して質問を口にした。
「それで、草薙さんは何のために生田君に会いたいの?non-noteの使用について教授と揉めたから?それとも、AIについて調べてるの?」
「AIについて?」と質問の内容を疑問に思いながらも、当初の目的通りの回答をする。
「non-noteについて調べてるんだけど、どういう意味かな?」
すると、神鳥は草薙の質問に答える事なく、全く関係ないと思える質問を返した。
「草薙さんさ、厳しくされるのと、優しくされるのはどっちが好き」
「それは当然、優しくされる方だな。厳しい方が好きなんて人がいるけど、それは本当に厳しくされた事が無いだけだと思う」
草薙の正直な回答に頷くと、神鳥は話しを続ける。
「AIはさ、誰にでも、平等に優しいんだよね」
「は?」
「後でエゴサしてみれば分かるよ」
神鳥の意図が分からず草薙が詳細を確認しようとした時、パソコン研究会のドアが開いた。
「こんにちは」
目の前で挨拶をする学生を目にし、草薙が「ああ」と頷いた。その人物が、何度も繰り返し視聴した動画に映っていた学生だと分かったからだ。事情を既に隊長から聞いていたのか、草薙に対して警戒する様子は全く無いかった。
神鳥から少し離れた位置に座ると、お互いに自己紹介をする。
彼の名前は生田 彰利。つい1ヶ月程前に入学したばかりの新入生だった。そして、やはり経済学部に在籍している。
「それで、動画サイトにも上げられていたけど、あれってどうだったの?」
「ああ、あれですか・・・」
生田は苦笑いしながら、当時の状況を話し始めた。
「実際は、あの動画の様に激しく口論をした訳ではないんですよ。実際、あの後で教授に謝罪して受講の許可も得ていますし。あの動画は、悪意のある切り抜きですよ」
「え、そうなの?」
「はい。まあ、確かに、non-noteの使用を許可しない事には疑問を覚えます。実際、板書しなくて良いのであれば講義に集中できますし、ぶっちゃけ、教授の講義内容だけでは不足している部分もAIが補完してくれますし。そもそも、人間と違って間違えませんから。体調によって波があるような事もなく常に安定していますし、微妙に講義内容が違うなどという事も起きませんから。でも、単位を落としてまで使用しようとは思いませんよ」
生田の冷静は発言を聞き、草薙は拍子抜けした気持ちになった。動画を見た限りでは教授に詰め寄り、激昂している様にしか見えなかったからだ。しかし、あれが切り抜きによって加工されていたという事であれば、目の前にいる生田の態度にも納得できた。
「次の講義があるので、僕はそろそろ行かせて貰いますね」
「あ、ああ、時間を作ってもらってありがとう。ちなみに、動画の講義って誰の?」
生田は立ち上がりながら答えた。
「名越教授の経済学論です」
パソコン研究会から退室する生田を見送った後、草薙も椅子から立ち上がった。もう用事は済んだため、いつまでもここにいる必要がないからだ。
「じゃあ、もう会う事もないかも知れないけど」
パソコンに向かう神鳥に歩み寄りながら、草薙が声を掛ける。ワールドソルジャーで対戦した仲なのである。しかも強者となれば、草薙にとっては無神できない存在だ。すると神鳥はパソコンの画面から視線を外し、隣に立つ草薙を見上げた。
「勘違いしているかも知れないから一応言っておくけど、パソコン研究会はゲームサークルじゃないよ。真面目にプログラミングやセキュリティ、AI等の研究をしているサークル。そうでなければ、この研究棟に部屋を与えてもらうなんて許可されないからね」
意外な説明に草薙は驚く。完全にパソコンゲームのサークルだと思っていたからだ。
「それと、私はアンバサダーであって、ここの学生じゃないんだ」
「え?」
「名刺があるから渡しておくね。後で役に立つかも知れないから」
そう言ってポケットから名刺入れを取り出すと、その中から1枚抜き取って草薙に手渡した。
「帝国大学研究員?」
帝国大学電子工学部研究員 神鳥 千草。
渡された名刺には、全国でもトップクラスの難関校である国立大学の名前が記載されていた。
「うん。研究員って言っても、正確には大学院生だけど。このパソコン研究会の隊長が高校の先輩だから、頼まれて相談役として来てるだけ。で、サークルメンバーがいない時はヒマだからゲームをしているって感じかな」
「いや、研究しろよ。っていうか、隊長は一体何年大学にいるんだ?」
神鳥は苦笑いすると、再びパソコンに向き直った。当然のように画面にはワールドソルジャーが表示されている。それを確認とすると、草薙はパソコン研究室を後にした。



