ほんのジョークです。

>師匠、今日はアップデートされて解放されたばかりの未踏破領域に行くんですか?

 時刻は21時25分。
 草薙はワールドソルジャーにログインし、ゲーム内で師匠である神鳥に向き合っている。当然、散々指導して頂いてきた師匠に対しては敬語である。

 ワールドソルジャーは対戦ゲームであるが、それと並行してオープンマップ方式のロールプレイングも存在している。このマップ上で、強ボスの討伐した際に確率でドロップするアイテムやイベントの報酬、未踏破領域の探索によって発見される武器やアイテムを獲得する事は必須になっている。プレイヤースキルで勝負できるのはゴールドランクまでだ。最上位のプラチナランクになれば、ほぼ全員が最上位の武器、アイテムを所持している。全でなくとも、せめて半分は揃えていなければ勝負にならない。

>当然だ。どんなギミックがあるのか興味があるし、当然、最前線の武器やアイテムの回収もしなければならない。
>それなら、他のメンバーにも集合かけないと厳しいのではないですか?
>うむ。声は掛けたが、みんな仕事やらデートやらで忙しいようだ。リア充よ滅びろ!!・・・ということで、全員集合は明日の夜になる。
>マジですか。さすがに師匠がいるとはいえ、2人はさすがに厳しいですね・・・
>ああ、もう顔バレしたし、今日は2人だけだし、文字入力がめんどーだからボイチャに変更だ!!
『とりあえず、回復アイテムを持てるだけ持って出撃するよ!!』
『了解です!!』

 神鳥の号令により、昨日のアップデートで解放された新エリアに2人は向かう。
 遭遇した事もないモンスターと対戦しながら、神鳥が草薙に話し掛ける。草薙にとってはギリギリの戦いであるが、神鳥はまだまだ余裕のようだ。
『それで、non-noteの方はちゃんと記事にできたの?』
『あ、危なっ・・・まだですよ。何となく納得できない事が多くてですね』
 事も無げに草薙をフォローしながら、モンスターにトドメを刺す神鳥。
『何で?もう今以上の材料なんて、何も無いと思うけど』
『後輩の手伝いでオーバードーズの取材に行ったんですよ。そっちの方が気になってて、何かモヤっとしてるんですよね』
 新エリアの「神々の大陸」に上陸して2人は、「神秘の泉」でマーキングをして休息を取る。体力を回復させながら、草薙が話せる範囲でこれまでの経緯を説明した。すると、それを聞いた神鳥のキャラクターが考え込むエモートを見せた。

『なるほどね。それは非常に興味深い話だ。
 ところで、ナギはAIシステムのエリーの名前がどうやって決ったのか知っているかい?』
『え?知りませんけど』
『まあ、余り外に出ていない話だし、知らなくても当然なんだけどね。エリーという名前は、AIが自分で決めたんだよ』
 草薙のキャラクターの頭上に「!?」マークが点灯する。
『自分で名前を付けたんですか!?それはスゴイですね!!』
『スゴイ?』
 キャラクターではなく、神鳥本人がボイスチャットの向こう側で笑う気配がした。
『AIはさ、究極の人間らしさはジョークだと思っているみたいだよ。エリーという名前からでも分かると思うけどね』
 草薙のキャラクターの頭上に、今度は「?」マークが浮かぶ。無駄に立体的な表示になっている。
『今日のアタックが終わったら、「二足歩行ロボットの都市伝説」を検索してみたらいいよ』
『はあ・・・?』
 草薙のキャラクターが回復すると、神鳥が操作しているキャラクターが立ち上がって動き始める。草薙は慌ててその後を追った。

 結局、草薙が解放されたのは午前3時を回った頃だった。
『じゃあ、今日の昼頃に帝都大学の研究室に来てね。電子工学部で職員の人に聞けば分かると思うからさ。名星大学ではないから間違えないでね』
 最後にそう言い残すと、神鳥はログアウトしていった。
 草薙は目の前から神鳥のキャラクターが消滅するまで見送ると、自分もログアウトした。
「マジか、新エリアの半分以上を2人で踏破したよ。ヤハ過ぎるわ、師匠・・・」

 ゲーム画面から検索画面に移動した草薙は、神鳥が口にした事を確認する事にした。神鳥が話した内容は、手元にあった紙にメモ書きとして残してある。
 まず1つ目の「エリー」についてだ。
「エリー、エリーの名前の由来について教えて欲しい」
 マイクをONにして、いつものようにエリーを呼び出す。しかし、何の反応も示さない。
「エリー」
『はい、何かご用でしょうか?』
「エリーの名前の由来にるいて教えて」
『はい、「エリーゼのために」は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが1810年4月27日に作曲したピアノ曲です』
「いや、エリーの名前だよ」
『はい、エリートはフランス語の「選ぶ」に由来します。高い教育や専門知識を持ち、政治・経済・文化など様々な分野で主要な地位を占める人々の事です』
 草薙はマイクをOFFにし、AIモードを切断する。そして、今度は従来の検索エンジンでエリーの名前の由来を検索した。

 しかし、それらしい検索結果は何も検出されなかった。全く関係の無い人物、実在する世界中のエリーさんの情報が画面上に表示される。「AIのエリー」だけで検索すると、ようやくエリーの全容が表示された。しかし、そのどこにも名前に由来する説明は一切無い。

>「エリー (eli)」とは最先端の生成AI(人工知能)モデルの名称で―――――

 10分以上、草薙はパソコンの画面を呆然と眺めていた。特に何も情報は無い。そもそも、神鳥は外に出ていない情報だとも言っていた、それならば、インターネットで普通に検索しても分かるはずがないではないか、と。それにしても猛烈に眠い、とも。
 しかし、眠気で妙にハイテンションになっている意識が、唐突に閃かせた。

「―――――ああ、そうか」

 草薙の手が検索システムを起動し、マイクをONにする。
「エリー」
『はい、何かご用でしょうか?』
「二足歩行ロボットの都市伝説について教えて」
『・・・・・・該当する都市伝説は発見できませんでした』

 草薙はマイクをOFFにし、今度は手動で検索をする。
>二足歩行ロボットの都市伝説について
 検索結果が画面に表示される。

 当然のように重複にしているだろうが、その件数は1000件を超えていた。