無色の魔女は染まらない~転生した病弱少女は世界でただひとりの治癒魔法師~

 謎の男に路地裏へ連れてこられたグーズ。
 そこで怪しげに光る石を渡される。


「これをこの町で使っている井戸の中に入れてこい」
「それは……まさか毒!?」
「そんなものではない。ただ、これで足が付くようなことはないから安心すると良い」
「本当なのか?」
「あぁ、そんなに心配なら俺が試してやろう」


 そういうと男はいくつかある石の一つを飲み込んでみせる。


「見ての通りだ。あくまでもこれは下準備でこれだけではほとんど効果はない。だから安心すると良い」
「は、ははっ……、下準備だけで効果はないんだな。よ、よし、わかった。やってやるよ!」


 覚悟を決めたグーズは男から複数の光る石を受け取る。
 そして、それを町中の井戸へと放り込んでいったのだった。まさかこれが魔石病を引き起こすものとは知らずに――。



◇◆◇



 住宅街を治癒し終えたルルたちはすぐ隣にある商業区域へとやってきた。

 住宅街はまだ人通りが少なかったおかげで被害はマシだったのだろう。
 商業区域まで来るとそれはもう悲惨だった。

 屋台で働いている人がそのままの姿で固まっていたり、商品を選んでいる人やそれに対応してる商人が固まっていたら、等、至る所で魔石と化してる人がいたのだ。


――ま、まさかリッテたちも!?


 嫌な予感がルルを襲う。
 イーロス商会もどことなく静かな気がしていた。


「リッテ!!」


 ルルはマリウスの背から降り、イーロス商会へと向けて走り出す。


「ルル、一人で行ったら危ないよ!」


 マリウスもそんな彼女を慌てて追いかけるのだった。







「リッテ!?」
「ルルさん! 無事だったのですね」


 お店の中にはいつもと同じ格好をしてリッテがいた。
 どうやら魔石病はどこも進行していない様子だった。
 その姿を見てルルはようやく人心地つくことができた。


「リッテが無事で良かったよ……。そういえばケイトさんたちは?」
「お父さんたちも奥の部屋にいますよ」


 どうやらこの家の人たちは無事だったようで、ルルは安堵の息を吐いていた。


「それにしてもどうして私たちだけ無事だったのでしょうか?」
「君たちだけ、ではなくて君たちとミーシャ、あとは僕だけが無事って感じだね」


 後から追いついたマリウスが状況の分析をし始める。


「ここの人たちの共通点……か。もしかして君の家族とかもルルのポーションを飲んだことがあるのかい?」
「あっ、はい。この町へ帰ってくる途中で――」
「なら無事だった理由は簡単だね。ルルの魔法を身に受けたことがある人だけ今回の影響を受けなかった、とみるべきだよ」
「それならやっぱり私が範囲魔法を使っていけば今回の騒動は解決ということですね」
「そういうことだね。ということでルル、商業区画にも治癒魔法を頼めるかい?」
「任せてください。えいっ!」


 ルルの掛け声と共に商業区域を透明の結界が覆う。
 そして、魔石病の影響にあった人たちが完治していた。


「じゃあ次は工業区域だね」
「貴族街へ行かなくていいのですか?」
「絶対ではないけど、おそらく大丈夫。一番被害は少ないと思うよ」


 マリウスには何か考えがあるのかもしれない。
 それならばここはそれに乗るのが正解だろう。


「わかりました。ではそれで行きましょう」
「あのあの、私もついて行ってはいけないでしょうか?」


 ルルとマリウスが作戦会議をしているとリッテが不安そうに言ってくる。


「リッテは流石に危ないよ」
「でも、そんな危ないところにルルさんも行ってるんですよね? なら私も何か手伝いたいんです」


 ルルとしてはあまり連れて行きたくはなかったが、マリウスは少し考えているようだった。


「そうだね。商会の子なら工業区域にも知り合いがいるよね?」
「もちろんです」
「よし、なら来てもらおう。僕たちは治癒して回らないといけないから治した人に説明をする人が必要なんだよ」
「せ、説明って?」
「そうだね……。この場合だと『色環の賢者』の一人である『無色の魔女』が治してくれた。これでいいだろうね」
「ま、マリウスさん!?」


 ルルは慌ててマリウスを止めようとするが手遅れだった。
 しかし、リッテは驚いた様子もなく一度うなづくだけだった。


「よし、これ以上は話してる時間がもったいない。行くよ」
「ちょ、ちょっと待ってください。まだ私からリッテへの説明が――」


 マリウスに再び抱えられたルルは抵抗虚しく工業区域目指して連れ去られてしまうのだった。







 工業区域近くの通り。
 この辺りまで来ると魔石病にかかっている人がちらほらと出てくる。


「早速区域の中央に……。ちっ!」


 突然火の玉が飛んできて、それをマリウスが白の結界で防いでいた。


「『赤』か!!」


 マリウスの声に反応するようにクリフォードが現れる。


「くくくっ、やっと見つけたぞ、『無色』よぉ!」
「『赤』、こんなことしてる場合じゃないことくらいわかるだろ!」
「わからないね。俺はただ強いやつと戦いたいだけだ」
「ちっ……。この狂戦士め!」


 マリウスはその場にルルを降ろす。


「ここは僕が食い止める。その間にルルは工業区域の治療を頼む」
「あ、あの……、大丈夫ですか?」
「正直、勝ち目はないだろうね。前も話してたけど、僕には結構なブランクがあるから。でも時間稼ぎくらいならできるよ」
「わかりました。ここはお願いします」


 時間を稼げるならルルが早く治療を終わらせることができたらマリウスを助けに来ることもできるだろう。


「せめてこれだけ持っておいてください」


 カバンの中からポーションを取り出して、それをマリウスに渡す。


「これは?」
「全力付与の水です」
「あはははっ、最高級品じゃないか。ありがたくもらっておくよ」


 マリウスは笑いながらポーションを受け取るとクリフォードへと向かっていった。


「ルルさん!!」
「うん、行こう!」


 ルルはリッテの手を取ると工業区域全体を結界内に収められる中央を目指して走っていく。



◇◆◇



「ちっ、『無色』は逃したか。でもお前を速攻倒せばまだ追えるな」
「そう簡単に行かせると思うのかい?」
「やめておけ。今のお前じゃ俺には勝てないぞ?」
「それはやってみないとわからないじゃないか。君はここじゃ全力を出せないのだからね」
「確かにここじゃ街ごと壊しちまうな。しかしそれはお前もじゃないか。『殲滅天使』!!」
「ずいぶん昔の名前を引っ張り出してくるんだね。今の僕はただの『魔法使い』だよ」


 マリウスの体の周りをいくつかの白の光球が回転し出す。
 それに対して、クリフォードは強大な火の玉を一つ、作り出してるだけだった。


「そんな弱い光球で俺の魔法がどうにかできるとでも思うのか?」
「君は相変わらず力の一点張りなんだね」
「……死ね!!」



 ドゴォォォォォォン!!



◇◆◇



 工業区域の中央を目指して走っていたルルたち。
 後ろから爆発音が聞こえてきて不安げな表情を浮かべる。


「マリウスさん、大丈夫かな?」
「『白の魔法使い』様がそう簡単に負けるわけないですよ」
「でも相手も同じ『色環の賢者』らしいから……」


 リッテが言葉を詰まらせる。


「だ、大丈夫ですよ。でも、私たちにやることは急ぎましょう」
「うん。あっ、そうだ……」


 がさごそと鞄を漁ると奥の方にスライムが入ったままになっていた。


「スライム君!!」
「ぷいっ……」


 鞄から取り出したスライム君がそっぽ向く。
 ここ最近慌ただしすぎてろくに相手ができなかったので仕方ないだろう。


「ご、ごめんね。忙しくて……」
「ぷいっ……」
「こ、これ飲んでいいからね……」


 スライムにポーションを渡すと無言で飲んでいた。
 でも飲み終わると満足したようにゲップをしていた。


「車、お願いしてもいいかな?」
「ぷー♪」


 スライムは箱状の車に姿を変える。


「乗って!」
「えっ? な、なんですか、これ!?」
「早くっ!!」


 無理やりリッテを載せるとルルたちは車で跳ねながら工業区域の中心へと向かうのだった――。