「聖女さま」
今日も、一人の幼い女の子が、わたくしの名を呼びました。
レティーナという名の、花屋の看板娘です。
レティーナさんは教会の前に、くたびれたぬいぐるみを持ってやってきていました。
お母さまとお父さまは一緒にはいらっしゃりませんでした。
「はい、どうかなさいましたか?」
「あのね」
わたくしが身をかがめて問いかけると、レティーナさんは手をもじもじとさせました。
わたくしは、彼女の緊張をほぐそうとほほ笑んで、レティーナさんの目の前に手を差し出します。
「……聖女さま?」
「見ていてくださいませ、レティーナさん」
レティーナさんに向けて、わたくしは微笑みました。
そして、体の中の魔力を手に集めます。
ぽう、とわたくしの身体が淡く光りました。
「うわぁ……!」
わたくしが顕現させて魅せたのは、雪の結晶。
これくらい、わたくしには朝飯前なのです。
「レティーナさん、何か困ったことがあったのでしょう? ぜひわたくし、フローレンスにお聞かせくださいな」
わたくしがにこりと微笑んで見せると、レティーナさんは安心なされたように微笑まれました。
そして、何か意を決したかのように、ゴクリと息をのみました。
「あのね……さっきみたいな、かみさまのみわざ? を見せてほしいの」
「……神々の御業、ですか?」
「うん。わたしのおさななじみ……テオがね、そろそろとなりの村におひっこししちゃうの。だからね、わたし、見せてあげてほしいの。テオに、さいごのプレゼント。わたしには、きれいなものを買うこうかも、聖女さまみたいにきせきを使うこともできないから」
そこまで一息に言ったあと、レティーナさんは口をつぐんでしまいました。
ぎゅっとスカートの裾を握り締めているせいで、スカートにしわがついてしまいそうです。
わたくしは、レティーナさんの願いが美しいと思いました。
だから……叶えてあげたいと、そう思ったのです。
「レティーナさん」
わたくしは、そっとレティーナさんの手を取りました。
顔を上げるレティーナさんに、わたくしは微笑みます。
「テオさんに見せて差し上げましょう。レティーナさんの願った、神々の御業を」
「……いい、の?」
レティーナさんは、不安そうにわたくしを見上げます。
わたくしは頷きかけました。
「大丈夫ですよ、レティーナさん。神々は許してくださります」



