寝ずの番

 ネバタマ様って知ってるか?

 口から細い糸を出して、村の子どもをその糸を巻き付けて、さらってしまうんだ。
 まるで蚕が繭を作るみたいにさ。
 だから、あんたも気をつけな。特にお子様のいる家族は、財糸村に移住することは慎重に考えた方がいい。
 あそこにはネバタマ様が祀られているからね。養蚕業で一時は栄えた村だったが、化学繊維ができてからは、すっかり看板であった養蚕業も廃れちまった。その名残は今は、見る影もない。栄枯盛衰ってやつだよ。
 生糸産業はかつて、日本の経済を支えてきたし、戦争でイケイケの時には、戦費を賄うのに一役買ったからね。そりゃあ、村では蚕は神の使いだったよ。
 今でも、村の末裔は蚕を神の使いだと思って憚らないよ。
 確かに村は落ち目だけど、ネバタマ様がいる限り、村は安泰だと思ってる。
 あ、ここが重要なんだけど、ネバタマ様が動くのを見た村人は誰もいないんだ。ネバタマ様は村人が寝静まった時に社殿から這い出て来るんだ。
 そうさねえ。秋から冬の端境期にネバタマ様は活動なさる。ただね、さっきも誰も動くネバタマ様を見たことがないと言ったのは、誰か一人でも眠っていなかったら、ネバタマ様はじっとしたままだっていうことだよ。あんた、わたしが気が触れたと思っているだろう。これは本当の話なんだ。わたしもあの村の出身者だったからね。だからわたしは常々言っているんだ。子どもがいる家族は、移住するのは考え直した方がいいと。これは老婆心からだよ。わたしはまあ、見ての通り老婆だ。大概、老婆だと、ムラボケだとか言って、真面目に話を聞いてくれないんだよ。でも、あんたは熱心に耳を傾けてくれるから、こう、舌が滑らかになるね。あんた、モテるだろうね。
女性は聞き上手な男性を好むからね。
 え?あの村に行くのかい?あんた独身か?
 あの村には何もないけど、村特有の閉鎖性は健在だよ。わたしはもう、あそこには帰らないつもりだよ。あの村は浮いているよ。浮世離れしている。とてもじゃないが、人が生活するには窮屈過ぎるねえ。