君がいなくなってからの僕は

 君が亡くなってから、一週間が経って、八日目になった。この一週間は、何か、あったような、なかったような。僕にとってのこの一六八時間ほどは、無為に過ぎていった。掴んでも手のひらから逃げていく靄のようなものが、僕の周りをゆったりと漂っている。

 三日目ぐらいに、父さんが僕の部屋にずかずかと上がり込んで、僕の頬を引っ叩き、部屋から引きずりだそうとした。止まったままになっている時計の針を、無理にでも動かそうという魂胆だ。

 君が亡くなった次の日から登校できていないから、学校側も心配しているのだろう。父さんは、とにかく外面を気にする人だ。昔からそうだ。

 実の息子が同級生の死にショックを受けて、部屋に引きこもって父さんの母校でもある高校に通わなくなった。世間に迷惑をかけている。……だなんて、父さんには看過できない出来事なのだろう。十六年生きていれば、容易に想像つく。

 僕は――僕自身にも、僕にこれほどまでの力があるとは思っていなかったのだが――父さんを突き飛ばしてしまった。母さんの短い悲鳴が耳朶を打つ。この短い悲鳴で、僕はとんでもないことをしてしまったのだと気付いた。

 そんなことがあって、僕は余計に部屋から出られなくなる。部屋のドアをノックされるまで、僕は声の出し方も忘れていた。

 「狭間さーん。……あ、いや、ここは親しみを持ってもらえるように。雄大くーん?」

 若い男の人の声だ。狭間雄大、という、僕の名前を呼んでいる。

 「ウチは、宮下理緒って言います。よろしゅうたのんます。ご両親からのご依頼を受けて、雄大くんに会いに来ました。怪しい人やないんで、開けてくださーい」

 宮下理緒、という、名前らしい。僕はスマホで、宮下理緒の名前を調べてみる。ご依頼、と言うからには、きっと何かの商売をしている人なのだろう。ご本人は『怪しい人ではない』と自称していても、僕には信じられない。

 「ウチはえーっと、なんて言えばいいかな。……あっ、そうそう。宮下吉能って知っとる?」

 宮下吉能。こちらは、検索で引っかかった。霊能者、とかいう、この世界の『信用できない職業ランキング』にランクインしそうな肩書きで、勝ち気な表情の美人さんが表示される。

 「吉能はウチの妹やねん。妹いうても、腹違いやけど、まあ、それはウチの親父殿がだらしなかったからとして。高校生に何言うとんの!」

 セルフツッコミだ。僕は何も答えていない。
 画面上の美人さんと、ドアを隔てて向こう側の男の人が、異母兄妹だという情報は把握した。ただ、わかったところで何だっていうんだ?

 「で。ウチは『幽霊と話すことができる』んよ。せやから、雄大くんの部屋にいるであろう大輔くんと会話できるっちゅうわけや。ドア、開けたくなったんとちゃいます?」