@はたはた-bc2
高校を卒業して、ずっと居酒屋でフリーターをしていました。
Fランの大学すら落ちてしまって、でも定職に就くのはだるくて、ずっと現実から逃げていました。でも親に「正社員に就かないと家を追い出す」って言われて、ようやく就職活動をはじめたところです。居酒屋は辞めたのですが、自由に使えるお金は欲しくて、面接のない日なんかに単発のバイトを入れています。
バイトは業種を決めず、行けそうな日の求人にどんどん応募しています。その中で、ちょっと気になることがあったので話したいです。
内容は先ほど載せた求人の通りです。工場でお弁当を作るスタッフです。
いわゆるライン作業ってやつでした。夜勤で、結構きつかった。だだっ広い工場の片隅に閉じ込められて、夜更けから朝までお弁当を作るんです。お弁当はたぶん、コンビニ弁当だったのかな。
ぼくの担当は、目の前に流れてきた容器に唐揚げをふたつ置いていく作業でした。単調でしんどかった。シンプルな作業が向いてると思った自分が馬鹿でした。目はだんだんチカチカしてくるし、何時間も同じポーズで足は痺れるし、腰もつらい。終わったころはもうへとへとで、立っていられないくらいでした。20代の俺でさえこうなんだから、まわりにいた40代や50代の人には過酷な業務だったでしょうね。耐えているおじさんたちは本当に尊敬します。
ようやく仕事を終えて、退勤の処理をしてロッカーに向かっているときのことでした。うしろから肩を叩かれて、振り向きました。
同年代くらいの女の子が、じっとぼくを見ていました。
誰だろうと頭を働かせて、そういえば前の工程で女の子が作業していたのを思い出しました。ぼくと同じクルーだったんです。ただ、それがわかったからといって、なんの用事なのかを察することはできませんでした。脳が疲れていて、なにも考えることができなかったんです。
ぼんやりと顔を見返していると、その子が口を開きました。「大丈夫ですか」そう訊いてきました。
どういう意味なのかわからず、一瞬言葉が詰まりました。
「え」
「身体。大丈夫ですか」
「ああ……。大丈夫です。電車に乗っちゃえば、あとは寝れますし……」
「でもあなた、見えてましたよね」
「え?」
「見えてましたよね」
「……なにを?」
「あの人のこと。視えてましたよね」
含みを持たせるようなその言葉に、はっとしました。
彼女の言う、『あの人』に心当たりがあったんです。
その工場、壁際にずっと人が立っていました。ちょうどぼくの背後だったので、気になってはいたんです。仕事を割り振られている様子もなく、かといって監視役の正社員でもない、ただ立っているだけの人でした。
性別は、たぶん男だったと思います。背の低い、痩せ細った男の人。でもはっきりとは見えませんでした。見えない、というか、見ないようにしていました。目が合ったら面倒なことになりそうだったから。
その人が『人』じゃないってことは、最初からなんとなく感じていました。だから目を合わせるわけにはいかなかった。これから長時間働くのに、変なところで精神を消耗するわけにはいかなかったんです。
彼女がなにを言いたいのかを察したぼくですが、どう返せばいいのか迷ってしまいました。
ぼくは〝視える〟ことを他人に内緒にしています。〝視える〟ことを揶揄われて、いじめられた経験があるからトラウマなんです。
彼女もぼくと同様、視える人である可能性は高いとは思いましたが、いつもの癖で「なんのことですか?」って白を切ってしまいました。そしたら彼女は、もう一度「大丈夫ですか」と言いました。
「大丈夫ですか、肩。あの人に掴まれてますけど」
その瞬間、ずんって右肩が重くなって、漬物石でも乗せられたような痛みに気を失ってしまいました。
なにが言いたいかっていうと、幽霊がいる現場もあるよって話です。
悪質な会社だとか、パワハラの話じゃなくてすみません。話もまとまってなくてすみません。ただ本当に、危ない感じはしたから。こういうの、視えない人には関係ないわけじゃないんですよ。気づいたら引っ張られて交通事故に遭ったり、原因不明の病気になったりする。
だから、ここに投稿させていただきました。いろいろ公表したら工場から訴えられそうだから、ナナシさんの言う通り、求人情報は微妙に書き換えています。もし動画にする場合は、詳細は濁したままにしていただければと思います。場所はN県です。N県で似たような内容、文面の求人を見つけたら、避けておいた方が無難です。
その女の子は、いつもその工場で単発バイトをしてるそうです。視えてるのにわざわざここを選ぶなんて変な人ですよね。半年くらい前から来てるって言うから、その男の幽霊が何者なのか訊いてみました。なにか知ってるのかと思って。
彼女が言うに、あの幽霊は工場で過労死したとか、人間関係のストレスで自殺したとかじゃないそうです。この工場の人間ではない。そう、やけに断定的に言われたのですが、なんなんですかね。工場の人から聞き出したんでしょうか。社員が単発のクルーに内部事情を漏らすことはないと思いますが。
「あの人、ここが好きなんですよ。離れたくないんでしょう」
彼女はそう言ってました。地縛霊ってことですかね。でも、なんで工場でって感じですが。
高校を卒業して、ずっと居酒屋でフリーターをしていました。
Fランの大学すら落ちてしまって、でも定職に就くのはだるくて、ずっと現実から逃げていました。でも親に「正社員に就かないと家を追い出す」って言われて、ようやく就職活動をはじめたところです。居酒屋は辞めたのですが、自由に使えるお金は欲しくて、面接のない日なんかに単発のバイトを入れています。
バイトは業種を決めず、行けそうな日の求人にどんどん応募しています。その中で、ちょっと気になることがあったので話したいです。
内容は先ほど載せた求人の通りです。工場でお弁当を作るスタッフです。
いわゆるライン作業ってやつでした。夜勤で、結構きつかった。だだっ広い工場の片隅に閉じ込められて、夜更けから朝までお弁当を作るんです。お弁当はたぶん、コンビニ弁当だったのかな。
ぼくの担当は、目の前に流れてきた容器に唐揚げをふたつ置いていく作業でした。単調でしんどかった。シンプルな作業が向いてると思った自分が馬鹿でした。目はだんだんチカチカしてくるし、何時間も同じポーズで足は痺れるし、腰もつらい。終わったころはもうへとへとで、立っていられないくらいでした。20代の俺でさえこうなんだから、まわりにいた40代や50代の人には過酷な業務だったでしょうね。耐えているおじさんたちは本当に尊敬します。
ようやく仕事を終えて、退勤の処理をしてロッカーに向かっているときのことでした。うしろから肩を叩かれて、振り向きました。
同年代くらいの女の子が、じっとぼくを見ていました。
誰だろうと頭を働かせて、そういえば前の工程で女の子が作業していたのを思い出しました。ぼくと同じクルーだったんです。ただ、それがわかったからといって、なんの用事なのかを察することはできませんでした。脳が疲れていて、なにも考えることができなかったんです。
ぼんやりと顔を見返していると、その子が口を開きました。「大丈夫ですか」そう訊いてきました。
どういう意味なのかわからず、一瞬言葉が詰まりました。
「え」
「身体。大丈夫ですか」
「ああ……。大丈夫です。電車に乗っちゃえば、あとは寝れますし……」
「でもあなた、見えてましたよね」
「え?」
「見えてましたよね」
「……なにを?」
「あの人のこと。視えてましたよね」
含みを持たせるようなその言葉に、はっとしました。
彼女の言う、『あの人』に心当たりがあったんです。
その工場、壁際にずっと人が立っていました。ちょうどぼくの背後だったので、気になってはいたんです。仕事を割り振られている様子もなく、かといって監視役の正社員でもない、ただ立っているだけの人でした。
性別は、たぶん男だったと思います。背の低い、痩せ細った男の人。でもはっきりとは見えませんでした。見えない、というか、見ないようにしていました。目が合ったら面倒なことになりそうだったから。
その人が『人』じゃないってことは、最初からなんとなく感じていました。だから目を合わせるわけにはいかなかった。これから長時間働くのに、変なところで精神を消耗するわけにはいかなかったんです。
彼女がなにを言いたいのかを察したぼくですが、どう返せばいいのか迷ってしまいました。
ぼくは〝視える〟ことを他人に内緒にしています。〝視える〟ことを揶揄われて、いじめられた経験があるからトラウマなんです。
彼女もぼくと同様、視える人である可能性は高いとは思いましたが、いつもの癖で「なんのことですか?」って白を切ってしまいました。そしたら彼女は、もう一度「大丈夫ですか」と言いました。
「大丈夫ですか、肩。あの人に掴まれてますけど」
その瞬間、ずんって右肩が重くなって、漬物石でも乗せられたような痛みに気を失ってしまいました。
なにが言いたいかっていうと、幽霊がいる現場もあるよって話です。
悪質な会社だとか、パワハラの話じゃなくてすみません。話もまとまってなくてすみません。ただ本当に、危ない感じはしたから。こういうの、視えない人には関係ないわけじゃないんですよ。気づいたら引っ張られて交通事故に遭ったり、原因不明の病気になったりする。
だから、ここに投稿させていただきました。いろいろ公表したら工場から訴えられそうだから、ナナシさんの言う通り、求人情報は微妙に書き換えています。もし動画にする場合は、詳細は濁したままにしていただければと思います。場所はN県です。N県で似たような内容、文面の求人を見つけたら、避けておいた方が無難です。
その女の子は、いつもその工場で単発バイトをしてるそうです。視えてるのにわざわざここを選ぶなんて変な人ですよね。半年くらい前から来てるって言うから、その男の幽霊が何者なのか訊いてみました。なにか知ってるのかと思って。
彼女が言うに、あの幽霊は工場で過労死したとか、人間関係のストレスで自殺したとかじゃないそうです。この工場の人間ではない。そう、やけに断定的に言われたのですが、なんなんですかね。工場の人から聞き出したんでしょうか。社員が単発のクルーに内部事情を漏らすことはないと思いますが。
「あの人、ここが好きなんですよ。離れたくないんでしょう」
彼女はそう言ってました。地縛霊ってことですかね。でも、なんで工場でって感じですが。



