橘と友達になって何日か経った。
あれから、よく大学で話すようになったり、橘の家にお邪魔することも増えたり、講義も一緒に受けることが増えた。
あと、どうしてかは分からないけど、買い物中も遭遇することが増えた。
「直大〜!」
「浩太!」
「あ、真山くん」
橘と昼食を食べていると、後ろの方から浩太の声が聞こえてきた。
あの後は色々説明して、たまに3人で遊ぶこともあった。
最初こそは浩太も硬い表情をしていたが、何回か顔を合わすにつれて柔くなって行くのを感じていた。
「今日はなんか予定あんの?」
「俺の家に水野が来る」
「え、俺も行っちゃダメ?」
「狭いから、今度」
こんな会話を最近よく聞く。俺が橘の家に行くことが増えたからだろうけど…
ちなみに、橘の家は全然狭くない。この前だってパーティーしてるって言ってたし。
真山にその事を伝えると、「橘、お前にベッタリじゃない?というか甘い。」なんて言ってたな。
俺は他の人といる橘をあまり意識したことがなかったから、甘いとかベッタリとか、分からない。
「じゃ、俺はここで。楽しんで〜」
「うん、ばいばい浩太」
「またね真山くん」
浩太とは大学を出てから別れて、俺と橘はすっかり見慣れた道を歩き始めた。
橘はなんで、浩太を家に呼ばないんだろう。
特に理由はないけど、少し気になったため、聞いてみることにした。
「橘ってさ、…真山のことなんで家に呼ばないの?」
「水野と2人きりがいいからかな」
「そっか……?え、なんで?」
2人きり。そんな言葉に少しびくりと肩が跳ねた。
「水野と居ると、楽なんだ。気が抜けちゃうって言うのかな、あ、嫌だった?」
「あ、ううん、全然嬉しい」
なんだ、それ。
耳だけでなく、顔まで熱を感じる。あつい。
なんでそんなことを平気で言えるのだろうか…恥ずかしいけど、結構嬉しい。
「あ、今度真山くんも呼ぼうか?」
「いや、大丈夫……俺も、そんな感じだし」
実際、橘と居ると、なぜか分からないけど落ち着く。リラックス効果があるのかな。
そんな事を考えていると、橘が俺の手をぎゅっと包んできた。
あの日からこんなこと、日常茶飯事に過ぎない。隙さえあれば握ってくる。嫌ではないから良いのだけれど、これが友達というものなのか…?
「うぅ、寒…水野の手あったかい…」
「橘の手は冷たいよね」
「水野が温めて〜」
なんてことも。
多分だけど、たまに周りの視線がすごいから、俺にだけしてくるんだと思う。
想像してた完璧なイケメンとは違って、甘えたがりなイケメンだと言うことは、俺以外知らないのだろうか。
そう思うと、少し嬉しく感じる。俺しか知らないイケメンの中身。
「お邪魔します」
「ゆっくりしていってね」
橘の家に来たからと言って、何かをするわけではない。
一緒にお菓子食べながら話したり、ゲームしたり、たまに猫カフェに行くくらい。
でも、それが心地良くて、毎日会うのに窮屈だと感じることはまだない。
そういえば、橘はなんで俺に声をかけてくれたんだ。
ふと思い出して、記憶をたどってみたけれど、なんで俺なのかは、まだ聞いていなかったな。
「橘ってさ、なんで俺に声かけてくれたの?」
「…なんか、真山くんといる所よく見かけてたんだけど
普段から大人しくて、優しそうで、話してみたかったんだよね」
「え、ほんと?」
なんか意外。そもそも俺と浩太が一緒にいるところを見られてるの、知らなかった。
俺が今まで見てきた橘は、The・陽キャだったから、そんなことを思っていたなんて。
「うん。実際話してみたら本当に想像通りで、なんか、雰囲気が優しいというか。心地良いんだよね」
正反対だと思ってた橘の存在。
でも、今は違う気がする。理由は分からないけど、ただそう感じた。
「そっか…なんか、照れくさいかも」
「かわいい」
「やめろよ…」
これからも、橘と仲良くやっていきたい。
ずっと一緒にいたい。
心の奥底で、静かにそう呟いた。
