平凡な日々に差し込む光



『水野くん、予定空いてる?』


そう連絡が来たのは、大学の中にある食堂で、昼食を取っている時だった。


『うん、空いてる』


と、メッセージを送信する。
なんで俺に声をかけたのか、とか。まだ疑問が沢山あるけど、ペアは今回きりだと思うし、あまり気にしないでおこう。


『よかった、じゃあレポート進めちゃわない?』


と、数分後に返事が来た。オッケー!と、可愛らしい猫のスタンプを送る。



近くのカフェでレポートを進めることになり、約束時間の14時にそのカフェへと足を運ぶ。


「あ、ごめん待たせた?」

「全然。俺も来たところだよ」

「なんか頼む?」

「んー…じゃあブラックコーヒー頼もうかな、」


お互い飲みたいものを頼んでから、レポートに手をつけ始める。
想像していたように橘深月はテキパキと、悩むことなく手が動いている。


「あ…橘くん、次は俺やるよ」


流石に、ずっとやらせるのはこちら側としてもいい気はしないから、思わず申し出た。


「大丈夫。俺こういうの好きだし。あと橘でいいよ」

「うん、ありがとう…」


そんな眩しい言葉に、思わず目を瞬かせた。
でも、外国語が苦手な俺は、手間取る未来しか見えなかったから…任せといた方がいい選択な気がしてきた。


「…水野くんってブラックコーヒー飲むの?凄いね」


橘は感心したように言って、俺のカップを覗き込んだ。
思ったより近くて、少しだけ視線を逸らす。

「うん、ブラックの方が飲みやすいんだ。あと、俺も水野でいいよ」


そういえば橘は、甘いカフェラテにさらに砂糖を足していた。
苦いのが不得意なのか。意外な弱点だな。
あのパーツの整った端正な顔立ちで。

苦いのが苦手。
ただそれだけの事なのに、なぜか少しだけ、印象に残った。
完璧そうに見える橘でも、ちゃんと苦手なものがあるんだと思うと、妙に安心してしまった自分がいた。


「俺、苦いの飲めないんだよね。だからちょっと羨ましい」


姿勢を正して、再びパソコンに向き合った橘がそう言った。


「そうかな?」

「うん。だって、飲めたらかっこよく感じない?」


真剣な顔でそう言う橘に、少し笑ってしまった。
その容姿と性格からは、全然想像のつかない発言だったから。


「え、なんで笑ってるの」

「ごめん、なんか笑っちゃった」


橘には申し訳ないけれど、なぜか可笑しく思えてきてしまった。
だって、こんなイケメンの口から小学生のような言葉が出てくると思わなかったんだ。


「ごめん、なんか面白くて…」

「大丈夫、そんな笑ってくれるなら逆に嬉しい」


なにそれ、とまた笑いが止まらなくなってしまいそうになるのを抑えて、椅子に座り直す。
すっかりレポートを進める手も止まっていた。


「今日はここで終わろうか、まだ時間はあるし」

「うん、また空いてる日にやろう」



荷物をまとめて、会計を済ませて、カフェの外に出る。


「今日はありがとう。あ、家ってどっち方面?」

「こちらこそありがとう。俺はこっち」

「俺もそっち、途中まで一緒に帰らない?」

「うん、いいよ」



まだ、なんで声をかけてくれたのか、とか…なんで俺なのか、とか。疑問なことは沢山あるけど

遠い存在だと思ってた橘と、肩を並べて歩いていることに対しては、あまり不思議には思わなかった。