神様、私はなにか悪いことをしてしまったのでしょうか。
毎日を波風立てないように必死に生きてきたではありませんか。
「好きです。俺と付き合ってください」
これはどちらを選んでも、バッドエンドでしょう?
だって私はこの状況の真実を知っているのだから。
「はい、燐晴の負け!」
「判断ミスった・・・で、罰ゲームは何」
教室から廊下まで響くくらいの大きな声。
忘れ物に気付いて戻ってきてみれば、クラスの男子が何やらゲームをしていた様子。
どうせすぐに帰るだろうから隠れて待っておこうとしゃがんだ時だった。
「”ひしの”に嘘告とか!」
”ひしの”といえば学年に一人しかいない。
私、菱野 桜のただ一人だけだ。
でもまだ希望は捨てない、学年には私一人だけれど学校で、となるともう一人いる。
三年の樋篠先輩。漢字も姿も性格も真反対、樋篠先輩はいわば高嶺の花のような存在だ。
たった一つの可能性にかけて私は両手を合わせて祈るようにした。
どうかそっちの”ひしの”でありますように
「菱野・・・って、桜の方?」
「当たり前だろ、なんで先輩の方なんだよ」
フルネーム知られていたんだ。と意外に思いながらも希望はすぐに打ち砕かれた。
まぁそうだろうとは思っていたけれど。
「よりにもよって瀬頼くんかぁ・・・」
瀬頼くんは瀬頼 燐晴という名前の同じクラスの男子でいつも楽しそうなのに少し気怠げに見える不思議な人。
そして、男女という違いはあれど樋篠先輩に負けず劣らずな尊顔を持っている。
樋篠先輩もそんな瀬頼くんを気にかけてるとかなんとかで、嘘告なんてさせるはずがない。
瀬頼くんのことが好きだという女子も知ったら絶対阻止するだろう。
付き合ってしまうかもしれないから。
そんな人が私に嘘告白をするという地獄のような罰ゲームが交わされようとしている。
私は、瀬頼くんが嫌いなわけではない。
けれど、嘘でも告白されようものなら女子に刺されてもおかしくない。
私はまだこの人生を謳歌していたい。
「いや・・・そっか。うん、分かった」
「お!菱野に告る?」
「うん。」
その回答を聞いて私は逃げ出した。
罰ゲームを断ったり、変えるよう頼んだりすると場がシラケてしまうから了承したんだろう
でも私はそんなの知らないよ。
どこかで人生終了を知らせる鐘が鳴っている気がする。
「好きです。俺と付き合ってください」
告白というイベントからは逃げ切れるわけがなかった。
朝一番に登校すると、机に手紙が置いてあった。
差出人を見たとき背筋が凍り付いた。
フォントのように綺麗な字で瀬頼と書かれている。
教室には誰もいないから恐らく昨日置いて帰ったのだろう
本文には放課後、教室に残っててとだけ
無視して帰れば次の日に、瀬頼 燐晴に手紙を貰っておきながら無視して帰ったヤツとして知れ渡っているに違いない。
第一段階として私は、地獄の選択を一つした。
第二段階はさらに地獄だった。これはどう答えてもダメなヤツだ。
OKしたら嘘告を真に受けたキモイやつ。振ったら瀬頼くんのプライドに傷をつけたやつ。
ただ黙っていたら告白を無視した人間として最低なやつになる。
つまり、私は瀬頼くんがゲームに負けたときからバッドエンドが決まっていた。
どうしよう、でもただ地獄に落ちるのは嫌に決まっている。
「いいですよ。いつまでですか」
「・・・・え?」
「知ってますよ。嘘告白だって」
脳をフル回転させてふと思った。罰ゲームだということを言ってしまったらどうだろう。
そうしたら、プライドを傷つけるかもしれないけれど少しはマシなんじゃないだろうか。
「え、ちが」
「教室で話してるの聞きました」
そういうと瀬頼くんは誤魔化すことが出来ないと分かったのか黙ってしまった。
でも私のプランにはまだ続きがあった。
「私は別にあなたが好きなわけではありませんがあなたにもプライドってものがあると思います、なので付き合いましょう、その代わり私と謎解きをしませんか」
大抵は、OKされたらすぐに嘘だと伝えるパターンと付き合って数日して実は嘘でしたのパターン。
私は後者にかけて謎解きを提案してみた。
もし前者だとしても謎解きは面白そうに聞こえて乗ってくれるだろうという期待をこめて。
「謎解き?」
「はい。ルールはとても簡単です。」
もしこれに乗ってくれれば私は生存ルートを探す時間を手に入れることが出来る。
相手の興味を十分に引き簡単に聞こえて実は難しい、且つ少しズルいゲーム。
「私達は一つだけ嘘を吐いていいです。過去、現在、未来は問いません。ただし、この嘘告白はカウントしません。」
即興のゲームをどう魅せようか、普通は難しい。
けれど保身の為ならとよく回る舌を我ながら素晴らしいと思う。
「もしも、相手の事を好きになったら相手の嘘を見破ってください。」
「見破れたらどうなるの?」
「本当に付き合いましょう。」
「!」
なんてそんなこと起きうるわけがないんだけど、
「何度回答してもらっても構いませんが、相手の言葉の全てを記録するのは禁止です。常識の範囲内でお願いします」
「このゲーム自体常識的じゃないけど」
「そこは一旦置いといてください・・・・そして両想いになったとして、相手に答えを教えるのは禁止です。付き合ってからにしてください。最後に、嘘を二つ付いたら即この関係は終わりです。今まで通りになりましょう。あとルールではありませんが昨日のゲームに参加した人以外にこの事を言うのは禁止です。どうですか、やりますか」
一気に畳みかけて相手の顔色を伺う。
このゲーム、私に得しかない。
私が嫌な噂を立てられることがなく、本当に付き合いたいと望めば相手の嘘を探せばいい。
そして、嘘をつかない限り関係は止まったままでどうするかを考える時間もたっぷりある。
一方、瀬頼くんからすれば得なんてない。
強いて言うなら、嘘告してきたの報告ができる、暇つぶしができるくらい。
でもこの年頃の男子なら食いつきそう、そうであってくれ。
「面白そう、やるよ」
釣れた、釣れてしまった。この変な謎解きで学校一の美男子をド陰キャの私が釣り上げてしまった。
「ルールに関して、何かあればその都度増やしたり改変したりしましょう。」
「うん、いいよ。」
何故だかとても悪いことをしてしまったように感じて緊張してしまう。
どうしよう、これからどうしよう
「ねぇ」
「はいっ!?」
声を掛けられると思っていなくて、少しキレ気味になってしまった。
慌てて口を押さえたけれど、瀬頼くんは気にしていなさそう。
「桜って呼んでいい?」
「えっ、たかが謎解きにそこまでしなくてもいいです」
罪に罪は重ねたくない。死刑には絶対なりたくない。
すると瀬頼くんは頬をぷくりと膨らませた。
「菱野に得ばっかのゲームに付き合ってんだから、いいだろ。」
「バレてたんですか。」
「そりゃあ。けど面白そうだし」
元凶はそっちだろと思いながらも考えがバレていたことに少し焦りを感じて仕方なく頷くと瀬頼くんは笑った。
「俺のことは燐晴って呼んで。」
「え、遠慮しておきます。」
「このゲームを辞めて振られたって言いふらすけど、いいの?」
この人、なんて恐ろしいんだ。
「・・・瀬頼くんのほうがしっくりきますし、好きなんですけど。」
「そ、っか・・・・・・・じゃあ許す!」
何でだろうな、空はもう茜色なのに真昼間の日光を直視したように眩しくて堪らない。
「・・・辞めたくなったら、全てを無かったことにするという条件で辞めましょう」
「あのゲームも告白も?」
「はい。」
そうしてくれるなら、何も考える必要もなく元通りになる。
瀬頼くんもこの面倒臭いゲームに飽きたら、そうするだろうな
「やめないよ。」
驚いて顔をあげると瀬頼くんはじぃっとこちらを見つめていた。
「絶対、辞めさせない」
蛇に睨まれた蛙のように少しも動くことができない、逃がさないとでもいいたげなその瞳から顔を逸らすことは許されない。
そんなことあるはずないと分かっていても動いてしまったら食べられてしまうなんて思考になる。
「うん。じゃあな桜」
鞄を持って教室から出て行った瀬頼くん。
廊下に出た瀬頼くんの足音が完全に消えるまで動くことが出来なかった。
「おはよう、桜」
私は今日、死ぬのかもしれません。
「なんでいるんですか、まだ一時間も前ですよ」
「うん。」
うちのクラスは大半の生徒がチャイムの鳴る寸前に教室に入ってくる。
一時間も前に来ているのは私くらいでこの時間が最も好きだった。
嬉しいことに私の席は窓際で一番後ろの大当たり。
そんな席に座って、朝一人で本を読む。
この時間は漫画のヒロインになれたように感じてとても楽しい。
だから私はいつも朝早くに来ているのだけれど、今日は何故か私の席に瀬頼くんが座っていた。
「そこは私の席ですよ」
「うん。」
「・・・聞いてますか」
「うん。」
なんだこの人は「うん。」以外に言えないのか
動く気配は一切ないけれど自分の席についてくれないだろうか。
「ねぇ桜、おはよう」
この笑顔で誰もを虜にしてきたのだろう。
そんな笑顔がなぜ今私一人に向けられているんだろう
「・・・おはようございます」
「桜はきっと他の人の前で話しかけられたくないだろうから、早く来た」
「ゲームの為だとしてもこんなに早く来なくていいですよ」
彼はきっと気まぐれで来ただけ、だから勘違いをしたら駄目だ
「少しでもお互いを知れる時間を作りたかっただけだったんだけど」
これはきっと嘘ではない、だってこんなにも真剣な目をしているんだから。
だからっていつ来るかも分からない相手の為に早く来なくてもいいのに
「菱野 桜です。」
でも、なんだか私を知ってほしくなった
「・・・っふ」
肩を震わせ小さく笑った後に、我慢しきれなくなったのか瀬頼くんは大きな声で笑い始めた
恥ずかしさとそんなに笑わなくてもいいじゃないかという不満が募って瀬頼くんを睨みつける。
下に向いていた視線が少しするとこちらに向けられた。
瀬頼くんは怒っていると思ったのか笑うのを辞めて自身の涙を拭った。
「ごめんって、急に名乗る桜が面白くて」
そういうと瀬頼くんはやっと私の席から退いてくれた。
そしてそのまま私の前の席に腰を下ろしてこちらを見た。
「名前は知ってるから、別のこと教えてくれない?」
渋々席に座って考える。こういう時、何を言うのが正解なんだろうか。
私は長らく友達を作るということをしていなかった。
クラスが変わったときなどに行われる自己紹介でも、ただ名前を言って座っていた。
先生もみんなもそれ以上を求めてくることはなかったから分からない。
彼が求める自己紹介とはどんなものなのだろうか。
「じゃあ最近ハマってることとかある?」
見かねた瀬頼くんが質問をしてくれた、けれど特に思いつかなかった。
学校では目立たないように隅で本を読んだり寝たふりをしていて家では授業の予習復習をしている。
必死に思い出そうにも面白い事なんて何一つなかった。
「・・・俺はね最近読書にハマってるよ。」
意外な言葉に目を丸くして瀬頼くんを見ると優しく笑った。
陽キャの彼ならもっと色々な事をして、私が知らないようなことを自慢のように連ねるかと思っていた。いや、
「瀬頼くんはそんな人じゃないか。」
「俺も本くらい読むけど」
「あっ、違います。考え事してて」
慌てて謝ると瀬頼くんはなんともないといった表情で首を振った。
「桜は休み時間はずっと読書してるよな」
瀬頼くんは前の方の席で休み時間の度にたくさんの人に囲まれていたから、私なんて視界に入っていないと思っていた。
端っこの席に座る陰キャなんか一度たりとも目に入れるわけない別世界の人だ。なんて認識は実は間違いなのかもしれない。
「他にすることがないので」
「友達は?」
瀬頼くんは分かってて言っているのかな、いや私みたいな日陰者の事なんてわかるはずがない。
私なんかに友達がいるわけないのに、どれだけ話しかけたって無視されるだけなのに
「いませんよ、私なんかと友達になりたい人なんていませんから」
「そう?俺はずっと桜と友達になりたいって思ってたけどな」
一瞬自分の耳を疑った。だって彼は、瀬頼 燐晴くんだから
友達なんて数え切れないほどいて、その誰もが瀬頼くんが大好きだと思う。
「まだ俺は嘘つかないから」
真偽なんて分からないけれど、差し出された瀬頼くんのスマホを見て私は信じたくなった。
「ほら、早く起動しなよ」
瀬頼くんの低く優しい声が身体中に響いている。
急いで鞄からスマホを取り出してアプリを起動する。
いつか使う時が来るはず、きっと一番大切だと言える友達が出来て最初に交換するはずだから
と夢を見て親とも繋いでいなかったメッセージアプリ。
本当にこれを読み取ってしまってもいいのかな。
迷った挙句私は別のアプリのアイコンを見せた。
「このアプリ持ってますか?」
私には勇気がなかった。
「知らない、見せて」
瀬頼くんは私の手からスマホを攫って何やら操作を行っていた。
「はい。ありがと」
返されたスマホを見ると、トーク画面が表示されていて瀬頼くんからスタンプが送られてきていた。
でもそのトーク画面は見慣れないものだった。
急いでタスクビューを確認すると、あのアプリが開かれていた。
「っ、瀬頼くんこれ」
「駄目だった?ていうか親とも繋いでないのな」
「最初はいつか、大切な友達が出来たときにって」
説明すると瀬頼くんは安心したように笑った。
「よかった、じゃあ大丈夫か」
「なんで・・・」
「もう友達でしょ?あぁ、恋人だっけ」
そうなんだ、瀬頼くんは友達になりたいと言った時点で友達になれる人なんだ。
ゲームが終わっても友達でいれるかもしれないのか、変だな
目立ちたくないけれど友達って手放したくないな
「ううん、どっちもです」
「確かに、どっちかじゃなくていいか。」
瀬頼くんが鞄にスマホをしまったのを確認してから、こっそりスタンプを送った。
たった二回のタップに緊張したのは初めてだった。
すると小さく通知音が鳴って瀬頼くんがスマホを取り出して電源ボタンを押そうとした。
「あ、あの!好きな動物とかいますか!!」
きっと今の通知音は私が送ったスタンプだなんて思ったらすごく恥ずかしくなって私史上一番大きな声が出た。
瀬頼くんは私の声に肩を大きく揺らしてこちらを見てきた。
「桜って意外と声出るんだ。びっくりした」
「・・・すみません」
一瞬こちらに向いた視線はすぐに戻された。
けれど瀬頼くんは何事もなかったかのようにスマホを閉じて机の上に置いた。
気にし過ぎだったのだろうか。
「そうだなぁリスとかは可愛いと思うけど、桜は?」
「・・・猫とかですかね」
「だと思った。前も」
「前も?」
窓の外を見て口を開いたまま固まる瀬頼くんをつつく、けれど反応がない。
「瀬頼くん?」
「あっ、いやなんもないよ。猫可愛いよな」
言いかけた言葉が気になるけれど、何もないと言われてしまえばそれまでだ。
そういえば、と時計を見るとみんなが来る時間がもう迫ってきていた。
時計に気を取られているとスマホが震えて通知を知らせてくれた。
視線をやると画面がついていてメッセージアプリからだった。
”燐晴さんからプレゼントが届きました”
と表示されていた。驚いてタップして開いてみるとスタンプのプレゼントが届いていた。
受け取るボタンを押してみると、日常的に使えそうな可愛らしい猫のスタンプが大きく表示された。
瀬頼くんを見ると悪戯っ子のような笑みを浮かべて私の表情を伺っていた。
「これからたくさん会話するから、これ使ってよ」
「でもこれお金」
「気にしないで、ゲーム盛り上げなきゃな」
思わぬサプライズに嬉しいと思う反面、申し訳なさでいっぱいになる。
そんな私の表情を見て瀬頼くんは困ったように笑った。
「悪い事した気分になるからそんな顔しないで、それよりも俺さ聞きたい言葉あったんだけど?」
「!ありがとう、瀬頼くん。・・・ええと・・・・・たくさん連絡します」
「あー、うん。」
喜びのあまり敬語を忘れていた。
瀬頼くんを見ると不満げな表情で返事を返してくれたがすぐにいつも通りの気だるげな顔になった。
もしかして調子に乗りすぎただろうか。あの不満げな表情は突然のタメ口にではなくて「たくさん連絡します」と言った私に対しての面倒臭さの表れだった?私からの連絡は嫌だとか?
「明日も、同じ時間に来るから。聞きたいこと考えてて」
一人で百面相してる私にそれだけ言うと瀬頼くんは荷物を回収して自分の席に突っ伏してしまった。
返事をしようか迷っていると笑い声が段々大きくなって聞こえてきた。
慌てて本を取り出して顔の前で広げる。
じっと構えていると窓から人影が見えてそのまま教室のドアが開かれた。
「燐晴、今日は教室いるんだな。廊下にいねぇからまだ来てないかと思ったわ」
「うるさい、今日は座りたかったから。」
次々に入って来た人たちに囲まれていく瀬頼くん。
やっぱり彼は楽しそうだけどどこか気怠げなあの顔のほうがあっている。
さっきまでの彼は、なんだか優しすぎる気がして変なんだ。
「菱野とずっと二人だったん?」
突如として私の名前が出たことに驚いて反射的に声の主の方を向いてしまう。
すると、本人もこちらを見ていて目が合ってしまった。
急いで視線を本に戻したけれど遅かった。
「なぁ菱野、気まずかった?」
笑い交じりにかけられた声に怖くて足の震えが止まらない。
きっと答えないと怒らせてしまう、でもなんて答えるべきだろう。
気まずかったと答えるべき?それとも全く気まずくなかったと答えるべき?上手く話せる気がしない。
ほらね、だからダメなんだ。一緒にいるだけでもこうやって絡まれるんだから。
瀬頼くんは私なんかが関わっていい人なんかじゃなかったんだよ。
「俺さっきまで寝てたしどうも思ってねえだろ。それより昨日さ」
私が声を絞り出そうとしている間に話題が切り替わっていた。
スマホを持ち教室から飛び出て一目散にトイレへと駆け込んだ。
瀬頼くんが助けてくれた。恐怖から解放されて出かけた涙を必死に堪えてスタンプを送った。
意外にもすぐに返信が来てトークを開く。
”ごめん。次から気を付けるから明日もちゃんと来て”
”メッセージもいいけど、普通に桜と話したい”
時々、ゲームのことを忘れてしまいそうになる。
瀬頼くんがあまりにも自然に笑うから。
ゲームの為だと分かっている。ちゃんと弁えているけれど、
たった少しの時間でもその全部が嘘であってほしくはないから。
まだお互いを探り合わずに真っすぐ友達でいたいから。
「まだ、嘘つかないで。瀬頼くん」
なんでもない日常でちっとも痛くない嘘を吐いてほしい。
時間なんていくらでもあるから。
毎日を波風立てないように必死に生きてきたではありませんか。
「好きです。俺と付き合ってください」
これはどちらを選んでも、バッドエンドでしょう?
だって私はこの状況の真実を知っているのだから。
「はい、燐晴の負け!」
「判断ミスった・・・で、罰ゲームは何」
教室から廊下まで響くくらいの大きな声。
忘れ物に気付いて戻ってきてみれば、クラスの男子が何やらゲームをしていた様子。
どうせすぐに帰るだろうから隠れて待っておこうとしゃがんだ時だった。
「”ひしの”に嘘告とか!」
”ひしの”といえば学年に一人しかいない。
私、菱野 桜のただ一人だけだ。
でもまだ希望は捨てない、学年には私一人だけれど学校で、となるともう一人いる。
三年の樋篠先輩。漢字も姿も性格も真反対、樋篠先輩はいわば高嶺の花のような存在だ。
たった一つの可能性にかけて私は両手を合わせて祈るようにした。
どうかそっちの”ひしの”でありますように
「菱野・・・って、桜の方?」
「当たり前だろ、なんで先輩の方なんだよ」
フルネーム知られていたんだ。と意外に思いながらも希望はすぐに打ち砕かれた。
まぁそうだろうとは思っていたけれど。
「よりにもよって瀬頼くんかぁ・・・」
瀬頼くんは瀬頼 燐晴という名前の同じクラスの男子でいつも楽しそうなのに少し気怠げに見える不思議な人。
そして、男女という違いはあれど樋篠先輩に負けず劣らずな尊顔を持っている。
樋篠先輩もそんな瀬頼くんを気にかけてるとかなんとかで、嘘告なんてさせるはずがない。
瀬頼くんのことが好きだという女子も知ったら絶対阻止するだろう。
付き合ってしまうかもしれないから。
そんな人が私に嘘告白をするという地獄のような罰ゲームが交わされようとしている。
私は、瀬頼くんが嫌いなわけではない。
けれど、嘘でも告白されようものなら女子に刺されてもおかしくない。
私はまだこの人生を謳歌していたい。
「いや・・・そっか。うん、分かった」
「お!菱野に告る?」
「うん。」
その回答を聞いて私は逃げ出した。
罰ゲームを断ったり、変えるよう頼んだりすると場がシラケてしまうから了承したんだろう
でも私はそんなの知らないよ。
どこかで人生終了を知らせる鐘が鳴っている気がする。
「好きです。俺と付き合ってください」
告白というイベントからは逃げ切れるわけがなかった。
朝一番に登校すると、机に手紙が置いてあった。
差出人を見たとき背筋が凍り付いた。
フォントのように綺麗な字で瀬頼と書かれている。
教室には誰もいないから恐らく昨日置いて帰ったのだろう
本文には放課後、教室に残っててとだけ
無視して帰れば次の日に、瀬頼 燐晴に手紙を貰っておきながら無視して帰ったヤツとして知れ渡っているに違いない。
第一段階として私は、地獄の選択を一つした。
第二段階はさらに地獄だった。これはどう答えてもダメなヤツだ。
OKしたら嘘告を真に受けたキモイやつ。振ったら瀬頼くんのプライドに傷をつけたやつ。
ただ黙っていたら告白を無視した人間として最低なやつになる。
つまり、私は瀬頼くんがゲームに負けたときからバッドエンドが決まっていた。
どうしよう、でもただ地獄に落ちるのは嫌に決まっている。
「いいですよ。いつまでですか」
「・・・・え?」
「知ってますよ。嘘告白だって」
脳をフル回転させてふと思った。罰ゲームだということを言ってしまったらどうだろう。
そうしたら、プライドを傷つけるかもしれないけれど少しはマシなんじゃないだろうか。
「え、ちが」
「教室で話してるの聞きました」
そういうと瀬頼くんは誤魔化すことが出来ないと分かったのか黙ってしまった。
でも私のプランにはまだ続きがあった。
「私は別にあなたが好きなわけではありませんがあなたにもプライドってものがあると思います、なので付き合いましょう、その代わり私と謎解きをしませんか」
大抵は、OKされたらすぐに嘘だと伝えるパターンと付き合って数日して実は嘘でしたのパターン。
私は後者にかけて謎解きを提案してみた。
もし前者だとしても謎解きは面白そうに聞こえて乗ってくれるだろうという期待をこめて。
「謎解き?」
「はい。ルールはとても簡単です。」
もしこれに乗ってくれれば私は生存ルートを探す時間を手に入れることが出来る。
相手の興味を十分に引き簡単に聞こえて実は難しい、且つ少しズルいゲーム。
「私達は一つだけ嘘を吐いていいです。過去、現在、未来は問いません。ただし、この嘘告白はカウントしません。」
即興のゲームをどう魅せようか、普通は難しい。
けれど保身の為ならとよく回る舌を我ながら素晴らしいと思う。
「もしも、相手の事を好きになったら相手の嘘を見破ってください。」
「見破れたらどうなるの?」
「本当に付き合いましょう。」
「!」
なんてそんなこと起きうるわけがないんだけど、
「何度回答してもらっても構いませんが、相手の言葉の全てを記録するのは禁止です。常識の範囲内でお願いします」
「このゲーム自体常識的じゃないけど」
「そこは一旦置いといてください・・・・そして両想いになったとして、相手に答えを教えるのは禁止です。付き合ってからにしてください。最後に、嘘を二つ付いたら即この関係は終わりです。今まで通りになりましょう。あとルールではありませんが昨日のゲームに参加した人以外にこの事を言うのは禁止です。どうですか、やりますか」
一気に畳みかけて相手の顔色を伺う。
このゲーム、私に得しかない。
私が嫌な噂を立てられることがなく、本当に付き合いたいと望めば相手の嘘を探せばいい。
そして、嘘をつかない限り関係は止まったままでどうするかを考える時間もたっぷりある。
一方、瀬頼くんからすれば得なんてない。
強いて言うなら、嘘告してきたの報告ができる、暇つぶしができるくらい。
でもこの年頃の男子なら食いつきそう、そうであってくれ。
「面白そう、やるよ」
釣れた、釣れてしまった。この変な謎解きで学校一の美男子をド陰キャの私が釣り上げてしまった。
「ルールに関して、何かあればその都度増やしたり改変したりしましょう。」
「うん、いいよ。」
何故だかとても悪いことをしてしまったように感じて緊張してしまう。
どうしよう、これからどうしよう
「ねぇ」
「はいっ!?」
声を掛けられると思っていなくて、少しキレ気味になってしまった。
慌てて口を押さえたけれど、瀬頼くんは気にしていなさそう。
「桜って呼んでいい?」
「えっ、たかが謎解きにそこまでしなくてもいいです」
罪に罪は重ねたくない。死刑には絶対なりたくない。
すると瀬頼くんは頬をぷくりと膨らませた。
「菱野に得ばっかのゲームに付き合ってんだから、いいだろ。」
「バレてたんですか。」
「そりゃあ。けど面白そうだし」
元凶はそっちだろと思いながらも考えがバレていたことに少し焦りを感じて仕方なく頷くと瀬頼くんは笑った。
「俺のことは燐晴って呼んで。」
「え、遠慮しておきます。」
「このゲームを辞めて振られたって言いふらすけど、いいの?」
この人、なんて恐ろしいんだ。
「・・・瀬頼くんのほうがしっくりきますし、好きなんですけど。」
「そ、っか・・・・・・・じゃあ許す!」
何でだろうな、空はもう茜色なのに真昼間の日光を直視したように眩しくて堪らない。
「・・・辞めたくなったら、全てを無かったことにするという条件で辞めましょう」
「あのゲームも告白も?」
「はい。」
そうしてくれるなら、何も考える必要もなく元通りになる。
瀬頼くんもこの面倒臭いゲームに飽きたら、そうするだろうな
「やめないよ。」
驚いて顔をあげると瀬頼くんはじぃっとこちらを見つめていた。
「絶対、辞めさせない」
蛇に睨まれた蛙のように少しも動くことができない、逃がさないとでもいいたげなその瞳から顔を逸らすことは許されない。
そんなことあるはずないと分かっていても動いてしまったら食べられてしまうなんて思考になる。
「うん。じゃあな桜」
鞄を持って教室から出て行った瀬頼くん。
廊下に出た瀬頼くんの足音が完全に消えるまで動くことが出来なかった。
「おはよう、桜」
私は今日、死ぬのかもしれません。
「なんでいるんですか、まだ一時間も前ですよ」
「うん。」
うちのクラスは大半の生徒がチャイムの鳴る寸前に教室に入ってくる。
一時間も前に来ているのは私くらいでこの時間が最も好きだった。
嬉しいことに私の席は窓際で一番後ろの大当たり。
そんな席に座って、朝一人で本を読む。
この時間は漫画のヒロインになれたように感じてとても楽しい。
だから私はいつも朝早くに来ているのだけれど、今日は何故か私の席に瀬頼くんが座っていた。
「そこは私の席ですよ」
「うん。」
「・・・聞いてますか」
「うん。」
なんだこの人は「うん。」以外に言えないのか
動く気配は一切ないけれど自分の席についてくれないだろうか。
「ねぇ桜、おはよう」
この笑顔で誰もを虜にしてきたのだろう。
そんな笑顔がなぜ今私一人に向けられているんだろう
「・・・おはようございます」
「桜はきっと他の人の前で話しかけられたくないだろうから、早く来た」
「ゲームの為だとしてもこんなに早く来なくていいですよ」
彼はきっと気まぐれで来ただけ、だから勘違いをしたら駄目だ
「少しでもお互いを知れる時間を作りたかっただけだったんだけど」
これはきっと嘘ではない、だってこんなにも真剣な目をしているんだから。
だからっていつ来るかも分からない相手の為に早く来なくてもいいのに
「菱野 桜です。」
でも、なんだか私を知ってほしくなった
「・・・っふ」
肩を震わせ小さく笑った後に、我慢しきれなくなったのか瀬頼くんは大きな声で笑い始めた
恥ずかしさとそんなに笑わなくてもいいじゃないかという不満が募って瀬頼くんを睨みつける。
下に向いていた視線が少しするとこちらに向けられた。
瀬頼くんは怒っていると思ったのか笑うのを辞めて自身の涙を拭った。
「ごめんって、急に名乗る桜が面白くて」
そういうと瀬頼くんはやっと私の席から退いてくれた。
そしてそのまま私の前の席に腰を下ろしてこちらを見た。
「名前は知ってるから、別のこと教えてくれない?」
渋々席に座って考える。こういう時、何を言うのが正解なんだろうか。
私は長らく友達を作るということをしていなかった。
クラスが変わったときなどに行われる自己紹介でも、ただ名前を言って座っていた。
先生もみんなもそれ以上を求めてくることはなかったから分からない。
彼が求める自己紹介とはどんなものなのだろうか。
「じゃあ最近ハマってることとかある?」
見かねた瀬頼くんが質問をしてくれた、けれど特に思いつかなかった。
学校では目立たないように隅で本を読んだり寝たふりをしていて家では授業の予習復習をしている。
必死に思い出そうにも面白い事なんて何一つなかった。
「・・・俺はね最近読書にハマってるよ。」
意外な言葉に目を丸くして瀬頼くんを見ると優しく笑った。
陽キャの彼ならもっと色々な事をして、私が知らないようなことを自慢のように連ねるかと思っていた。いや、
「瀬頼くんはそんな人じゃないか。」
「俺も本くらい読むけど」
「あっ、違います。考え事してて」
慌てて謝ると瀬頼くんはなんともないといった表情で首を振った。
「桜は休み時間はずっと読書してるよな」
瀬頼くんは前の方の席で休み時間の度にたくさんの人に囲まれていたから、私なんて視界に入っていないと思っていた。
端っこの席に座る陰キャなんか一度たりとも目に入れるわけない別世界の人だ。なんて認識は実は間違いなのかもしれない。
「他にすることがないので」
「友達は?」
瀬頼くんは分かってて言っているのかな、いや私みたいな日陰者の事なんてわかるはずがない。
私なんかに友達がいるわけないのに、どれだけ話しかけたって無視されるだけなのに
「いませんよ、私なんかと友達になりたい人なんていませんから」
「そう?俺はずっと桜と友達になりたいって思ってたけどな」
一瞬自分の耳を疑った。だって彼は、瀬頼 燐晴くんだから
友達なんて数え切れないほどいて、その誰もが瀬頼くんが大好きだと思う。
「まだ俺は嘘つかないから」
真偽なんて分からないけれど、差し出された瀬頼くんのスマホを見て私は信じたくなった。
「ほら、早く起動しなよ」
瀬頼くんの低く優しい声が身体中に響いている。
急いで鞄からスマホを取り出してアプリを起動する。
いつか使う時が来るはず、きっと一番大切だと言える友達が出来て最初に交換するはずだから
と夢を見て親とも繋いでいなかったメッセージアプリ。
本当にこれを読み取ってしまってもいいのかな。
迷った挙句私は別のアプリのアイコンを見せた。
「このアプリ持ってますか?」
私には勇気がなかった。
「知らない、見せて」
瀬頼くんは私の手からスマホを攫って何やら操作を行っていた。
「はい。ありがと」
返されたスマホを見ると、トーク画面が表示されていて瀬頼くんからスタンプが送られてきていた。
でもそのトーク画面は見慣れないものだった。
急いでタスクビューを確認すると、あのアプリが開かれていた。
「っ、瀬頼くんこれ」
「駄目だった?ていうか親とも繋いでないのな」
「最初はいつか、大切な友達が出来たときにって」
説明すると瀬頼くんは安心したように笑った。
「よかった、じゃあ大丈夫か」
「なんで・・・」
「もう友達でしょ?あぁ、恋人だっけ」
そうなんだ、瀬頼くんは友達になりたいと言った時点で友達になれる人なんだ。
ゲームが終わっても友達でいれるかもしれないのか、変だな
目立ちたくないけれど友達って手放したくないな
「ううん、どっちもです」
「確かに、どっちかじゃなくていいか。」
瀬頼くんが鞄にスマホをしまったのを確認してから、こっそりスタンプを送った。
たった二回のタップに緊張したのは初めてだった。
すると小さく通知音が鳴って瀬頼くんがスマホを取り出して電源ボタンを押そうとした。
「あ、あの!好きな動物とかいますか!!」
きっと今の通知音は私が送ったスタンプだなんて思ったらすごく恥ずかしくなって私史上一番大きな声が出た。
瀬頼くんは私の声に肩を大きく揺らしてこちらを見てきた。
「桜って意外と声出るんだ。びっくりした」
「・・・すみません」
一瞬こちらに向いた視線はすぐに戻された。
けれど瀬頼くんは何事もなかったかのようにスマホを閉じて机の上に置いた。
気にし過ぎだったのだろうか。
「そうだなぁリスとかは可愛いと思うけど、桜は?」
「・・・猫とかですかね」
「だと思った。前も」
「前も?」
窓の外を見て口を開いたまま固まる瀬頼くんをつつく、けれど反応がない。
「瀬頼くん?」
「あっ、いやなんもないよ。猫可愛いよな」
言いかけた言葉が気になるけれど、何もないと言われてしまえばそれまでだ。
そういえば、と時計を見るとみんなが来る時間がもう迫ってきていた。
時計に気を取られているとスマホが震えて通知を知らせてくれた。
視線をやると画面がついていてメッセージアプリからだった。
”燐晴さんからプレゼントが届きました”
と表示されていた。驚いてタップして開いてみるとスタンプのプレゼントが届いていた。
受け取るボタンを押してみると、日常的に使えそうな可愛らしい猫のスタンプが大きく表示された。
瀬頼くんを見ると悪戯っ子のような笑みを浮かべて私の表情を伺っていた。
「これからたくさん会話するから、これ使ってよ」
「でもこれお金」
「気にしないで、ゲーム盛り上げなきゃな」
思わぬサプライズに嬉しいと思う反面、申し訳なさでいっぱいになる。
そんな私の表情を見て瀬頼くんは困ったように笑った。
「悪い事した気分になるからそんな顔しないで、それよりも俺さ聞きたい言葉あったんだけど?」
「!ありがとう、瀬頼くん。・・・ええと・・・・・たくさん連絡します」
「あー、うん。」
喜びのあまり敬語を忘れていた。
瀬頼くんを見ると不満げな表情で返事を返してくれたがすぐにいつも通りの気だるげな顔になった。
もしかして調子に乗りすぎただろうか。あの不満げな表情は突然のタメ口にではなくて「たくさん連絡します」と言った私に対しての面倒臭さの表れだった?私からの連絡は嫌だとか?
「明日も、同じ時間に来るから。聞きたいこと考えてて」
一人で百面相してる私にそれだけ言うと瀬頼くんは荷物を回収して自分の席に突っ伏してしまった。
返事をしようか迷っていると笑い声が段々大きくなって聞こえてきた。
慌てて本を取り出して顔の前で広げる。
じっと構えていると窓から人影が見えてそのまま教室のドアが開かれた。
「燐晴、今日は教室いるんだな。廊下にいねぇからまだ来てないかと思ったわ」
「うるさい、今日は座りたかったから。」
次々に入って来た人たちに囲まれていく瀬頼くん。
やっぱり彼は楽しそうだけどどこか気怠げなあの顔のほうがあっている。
さっきまでの彼は、なんだか優しすぎる気がして変なんだ。
「菱野とずっと二人だったん?」
突如として私の名前が出たことに驚いて反射的に声の主の方を向いてしまう。
すると、本人もこちらを見ていて目が合ってしまった。
急いで視線を本に戻したけれど遅かった。
「なぁ菱野、気まずかった?」
笑い交じりにかけられた声に怖くて足の震えが止まらない。
きっと答えないと怒らせてしまう、でもなんて答えるべきだろう。
気まずかったと答えるべき?それとも全く気まずくなかったと答えるべき?上手く話せる気がしない。
ほらね、だからダメなんだ。一緒にいるだけでもこうやって絡まれるんだから。
瀬頼くんは私なんかが関わっていい人なんかじゃなかったんだよ。
「俺さっきまで寝てたしどうも思ってねえだろ。それより昨日さ」
私が声を絞り出そうとしている間に話題が切り替わっていた。
スマホを持ち教室から飛び出て一目散にトイレへと駆け込んだ。
瀬頼くんが助けてくれた。恐怖から解放されて出かけた涙を必死に堪えてスタンプを送った。
意外にもすぐに返信が来てトークを開く。
”ごめん。次から気を付けるから明日もちゃんと来て”
”メッセージもいいけど、普通に桜と話したい”
時々、ゲームのことを忘れてしまいそうになる。
瀬頼くんがあまりにも自然に笑うから。
ゲームの為だと分かっている。ちゃんと弁えているけれど、
たった少しの時間でもその全部が嘘であってほしくはないから。
まだお互いを探り合わずに真っすぐ友達でいたいから。
「まだ、嘘つかないで。瀬頼くん」
なんでもない日常でちっとも痛くない嘘を吐いてほしい。
時間なんていくらでもあるから。
