きみが教えてくれた、世界で一番優しい青

月日は無情に流れ、私の世界を縁取る色彩は、まるで砂時計の砂が落ちるように、一分一秒、確実に削り取られていった。
視界の端から忍び寄る「無」の恐怖。
焦りだけが、初夏の蒸せ返るような熱気とともに私の胸を支配する。

ある日の放課後。
私は、いつか永遠に失われてしまうこの「空の青」を、死んでも忘れないように心へ焼き付けたくて、踊り場の窓辺に立っていた。

手には、おじいちゃんから譲り受けた色見本帳。
震える手でそれを空にかざし、今のこの青が、一体どの名前に当てはまるのかを必死に探す。
けれど、かすみ始めた私の瞳では、紙の上の文字さえも、陽炎のように揺れて滲んでいた。

(……わからない。もう、一人じゃ、色を捕まえられない……っ)

絶望が喉元までせり上がった、その時だった。


「……なに、してるの?」


背後から届いたのは、ずっと私の心の奥底で響いていた、あの、聞き覚えのある声。
けれど、かつて自信に満ち溢れていたその声は、どこか遠く、乾いた風のように虚ろだった。

振り返ると、そこに彼はいた。
二年前、私の魂を震わせたあの絵を描いた人——秋月湊くん。
けれど、今の彼の瞳には、かつて見た眩しいほどの光は一欠片も残っていない。
何を見ても揺らぐことのない、深い喪失に沈んだ、欠落した瞳。

(あぁ、やっぱり。君も、私と同じ場所にいたんだね)

私を飲み込もうとしている「身体的な闇」と、彼を縛り付けている「精神的な闇」。
出口のない暗闇の中で独りぼっちだった二人が、この狭い踊り場で、運命に手繰り寄せられるようにして交差した。

(——今だ。今、言わなきゃ。ここで彼を離したら、きっと一生、後悔する)

これはきっと、神様がくれた、最初で最後のチャンス。
自分のために色を探し続ける限界は、もうとっくに来ていた。
けれど何より、私は彼に——モノクロの世界に自らを閉じ込めた彼に、もう一度、色の世界へ戻ってきてほしかった。
彼が愛したはずの、あの美しくて残酷な、眩しい光の場所へ。


「——秋月くん。私と一緒に、色を探してくれない?」


震える声でそう告げた瞬間。
長い間、錆びついて動かなくなっていた私たちの時間が、ガタンと大きな音を立てて動き出した。

彼を救いたいだなんて、そんな大層なことを思っていたわけじゃない。
私はただ、もう一度、彼にしか描けない「光」が見たかった。
彼が再び筆を握るその時、私の真っ白な世界もまた、本物の輝きを取り戻せると信じていたから。

彼を見つめる私の瞳は、もう、彼の表情を正確に捉えることはできなかったけれど。
その瞬間に吹き抜けた初夏の風は、驚くほど鮮やかな「青」の匂いがした。