あの日、灰青の空の下で彼女を残して立ち去ってから、僕の視界は、再び機能しなくなっていた。
ひどく無機質で、体温の感じられない日々。
羽白さんが学校に来なくなって、今日でちょうど一週間が経つ。
「よっ、湊。……また、そんな顔してる」
休み時間の喧騒の中、隣の席の健太が椅子を引いて僕の顔を覗き込んできた。
「……健太か」
「なんだよ、幽霊でも見たような顔しやがって。羽白さんと色の話をしてる時のお前は、もっとこう……生き生きしてたっていうか、人間らしい顔してたのにな」
「……そうだったか?」
「ああ。……まあ、無理すんなよ」
健太なりの、不器用な気遣い。
けれど、その声さえも今の僕には、遠く深い海の底から響いてくる泡の音のようにしか聞こえなかった。
窓から差し込む夏の入り口の陽光。
それが僕の斜め前の彼女の席を白く照らしている。
そこだけが、まるでポッカリと世界に穴が開いてしまったかのように、不自然で、残酷なほど空虚に光っていた。
放課後を告げるチャイムが鳴り響いても、僕は自分の席から立ち上がることができなかった。
カバンの中に押し込んだままのスマートフォンを、壊れ物を扱うような手つきで取り出し、もう何度目かわからないトーク画面を開く。
最後に僕が送った、『ごめん。また明日、学校で』という短いメッセージ。
その隣には、一週間が経った今も「既読」の二文字はついていない。
(どうして、もっと優しい言葉をかけられなかったんだろう)
後悔という名の重い泥が、じわじわと足元から這い上がってきて、僕の心を沈めていく。
あの日、彼女が震える声で絞り出した「魔法使いでいたい」という願い。
それは騙すものなんかじゃなく、僕の隣にいたいと願う彼女なりの、たった一つの切実な悲鳴だったのに。
それなのに僕は、自分の受けたショックの大きさに立ちすくみ、彼女の細い肩を抱きしめることさえできなかった。
校門の横に立っている、あの日屋上から見つめた大きな木。
彼女というフィルターを通さなければ、それは「若草色」の輝きを失った、ただの無機質な灰色の塊でしかなかった。
彼女がいなければ、僕にとっての世界はこんなにも味気なく、冷え切った場所だったのかと、今さら思い知らされる。
夕暮れが近づくにつれ、校舎の影が鋭い槍のように長く伸びていく。
かつては「綺麗な色だね」と笑い合えた時間が、今は鋭利な刃物となって僕の胸を抉った。
「……羽白さん。君は今、どこで、どんな景色を見てるの?」
独り言は誰に届くこともなく、放課後の静まり返った廊下の冷気に溶けて消えた。
彼女がいない一週間。
それは、一度知ってしまった「色彩」を僕から奪い去るには、あまりにも残酷で、長すぎる時間だった。
ふと窓の外を見上げると、空はあの日見た灰青を薄く、薄く引き延ばしたような、冴えない灰色に染まっている。
この空の下のどこかに、君は確かにいるはずなのに。
僕がどれだけ必死に手を伸ばしても、指先はただ空虚な空気をつかむだけだった。
ひどく無機質で、体温の感じられない日々。
羽白さんが学校に来なくなって、今日でちょうど一週間が経つ。
「よっ、湊。……また、そんな顔してる」
休み時間の喧騒の中、隣の席の健太が椅子を引いて僕の顔を覗き込んできた。
「……健太か」
「なんだよ、幽霊でも見たような顔しやがって。羽白さんと色の話をしてる時のお前は、もっとこう……生き生きしてたっていうか、人間らしい顔してたのにな」
「……そうだったか?」
「ああ。……まあ、無理すんなよ」
健太なりの、不器用な気遣い。
けれど、その声さえも今の僕には、遠く深い海の底から響いてくる泡の音のようにしか聞こえなかった。
窓から差し込む夏の入り口の陽光。
それが僕の斜め前の彼女の席を白く照らしている。
そこだけが、まるでポッカリと世界に穴が開いてしまったかのように、不自然で、残酷なほど空虚に光っていた。
放課後を告げるチャイムが鳴り響いても、僕は自分の席から立ち上がることができなかった。
カバンの中に押し込んだままのスマートフォンを、壊れ物を扱うような手つきで取り出し、もう何度目かわからないトーク画面を開く。
最後に僕が送った、『ごめん。また明日、学校で』という短いメッセージ。
その隣には、一週間が経った今も「既読」の二文字はついていない。
(どうして、もっと優しい言葉をかけられなかったんだろう)
後悔という名の重い泥が、じわじわと足元から這い上がってきて、僕の心を沈めていく。
あの日、彼女が震える声で絞り出した「魔法使いでいたい」という願い。
それは騙すものなんかじゃなく、僕の隣にいたいと願う彼女なりの、たった一つの切実な悲鳴だったのに。
それなのに僕は、自分の受けたショックの大きさに立ちすくみ、彼女の細い肩を抱きしめることさえできなかった。
校門の横に立っている、あの日屋上から見つめた大きな木。
彼女というフィルターを通さなければ、それは「若草色」の輝きを失った、ただの無機質な灰色の塊でしかなかった。
彼女がいなければ、僕にとっての世界はこんなにも味気なく、冷え切った場所だったのかと、今さら思い知らされる。
夕暮れが近づくにつれ、校舎の影が鋭い槍のように長く伸びていく。
かつては「綺麗な色だね」と笑い合えた時間が、今は鋭利な刃物となって僕の胸を抉った。
「……羽白さん。君は今、どこで、どんな景色を見てるの?」
独り言は誰に届くこともなく、放課後の静まり返った廊下の冷気に溶けて消えた。
彼女がいない一週間。
それは、一度知ってしまった「色彩」を僕から奪い去るには、あまりにも残酷で、長すぎる時間だった。
ふと窓の外を見上げると、空はあの日見た灰青を薄く、薄く引き延ばしたような、冴えない灰色に染まっている。
この空の下のどこかに、君は確かにいるはずなのに。
僕がどれだけ必死に手を伸ばしても、指先はただ空虚な空気をつかむだけだった。
