きみが教えてくれた、世界で一番優しい青


昨夜は一睡もできなかった。
意識を暗闇に沈めようとするたび、あの夕闇の坂道での出来事が、呪いのように脳裏に蘇る。

ありもしない「白磁の色」を見つめていた、彼女の、焦点の合わない硝子細工のような瞳。
それが瞼の裏に焼き付いて離れなかった。

——どうしてこんなに不安なんだろう。

単なる疲れだ、と自分に言い聞かせる。
連日の放課後の散策。

彼女だって人間だ、たまには見間違えることだってある。
しかも、まだたったの一回じゃないか。

そう何度も頭の中で繰り返したけれど、並べ立てた言葉は空虚に響くだけで、僕の心の底に溜まった澱のような不安を洗い流してはくれなかった。

重い足取りで教室に入ると、羽白さんはすでに席に座っていた。


「秋月くん! おはよう」


僕の姿を見つけるなり、羽白さんは春の光を凝縮したような笑顔で手を振った。

昨日、校門であんなふうに逃げるように、よろめきながら去っていったことなんて、まるでなかったことのような眩しさだった。
その明るさが、今の僕にはひどく不自然で、歪で、見ていられないほど痛々しく映る。


「……おはよう、羽白さん」

「昨日ゲーム負けちゃったからさ、ジュース奢るよ」

「……ああ。そうだったな」

「予鈴までまだ時間あるし、今行っちゃおう!」


彼女は弾かれたように椅子から立ち上がると、僕の隣を軽快に歩き出す。
けれど、僕は気づいてしまった。
彼女が教室の入り口を通り過ぎる時、わざとらしいほど大きな弧を描いて回り道をし、ドアの枠にぶつからないよう、指先で壁を探るようにして歩いているのを。