昇降口で、それぞれ自分の傘を広げる。
僕のは実用性だけを重視した黒色の折り畳み傘で、彼女のは、空模様をそのまま映し出すような透明なビニール傘だった。
校舎を出て歩き出すと、ポツポツと傘にあたる雨音が、すぐ隣で反響している。
今までの僕なら、この音を聞くだけで「視界と耳がより灰色に濁るな」と安堵していただろう。
けれど、今は違う。
横を歩く羽白さんが、水たまりを避けてはねるように歩くたび、透明な傘に張り付いた雨粒が、街灯の予備灯を反射して宝石のようにキラキラと弾けている。
「ねえ、秋月くん。雨の日の色って、晴れの日より『深い』と思わない?」
羽白さんが、傘を少し僕の方に傾けて笑った。
二人の傘の縁が重なり、雨音がひとつに混ざり合う。
一瞬だけ、雨の幕に守られた小さな個室の中に閉じ込められたような、不思議な密室感が生まれた。
「……深いっていうか、ただ暗いだけだろ。視界も悪いし」
「ふふ、そこがいいんじゃない。水を含んだものは、みんな自分の本当の色を隠さずに曝け出すんだよ。……ほら、あそこの消火栓の赤を見て」
指差された先、雨に濡れた古い消火栓は、普段の乾いた赤色よりもずっと艶やかで、血のように濃い色彩を放っていた。
「あれは『深緋』に近いかな。晴れた日の赤よりも、ずっと意思が強そうでしょ?」
コキアケ。
聞き慣れない響きが、雨音に混じって耳に残る。
彼女は、雨の匂いを胸いっぱいに吸い込む。
駅前の商店街を抜け、住宅街の細い路地に入ると、雨の日の景色はさらに表情を変えた。
誰かの家の庭から溢れたアジサイの葉は、もう花もないのに、雨を弾いて驚くほど鮮やかな緑色に輝いている。
ひび割れたアスファルトの隙間に溜まった水たまりは、低い雲の色を映して、鈍く光る鏡のようだった。
僕のは実用性だけを重視した黒色の折り畳み傘で、彼女のは、空模様をそのまま映し出すような透明なビニール傘だった。
校舎を出て歩き出すと、ポツポツと傘にあたる雨音が、すぐ隣で反響している。
今までの僕なら、この音を聞くだけで「視界と耳がより灰色に濁るな」と安堵していただろう。
けれど、今は違う。
横を歩く羽白さんが、水たまりを避けてはねるように歩くたび、透明な傘に張り付いた雨粒が、街灯の予備灯を反射して宝石のようにキラキラと弾けている。
「ねえ、秋月くん。雨の日の色って、晴れの日より『深い』と思わない?」
羽白さんが、傘を少し僕の方に傾けて笑った。
二人の傘の縁が重なり、雨音がひとつに混ざり合う。
一瞬だけ、雨の幕に守られた小さな個室の中に閉じ込められたような、不思議な密室感が生まれた。
「……深いっていうか、ただ暗いだけだろ。視界も悪いし」
「ふふ、そこがいいんじゃない。水を含んだものは、みんな自分の本当の色を隠さずに曝け出すんだよ。……ほら、あそこの消火栓の赤を見て」
指差された先、雨に濡れた古い消火栓は、普段の乾いた赤色よりもずっと艶やかで、血のように濃い色彩を放っていた。
「あれは『深緋』に近いかな。晴れた日の赤よりも、ずっと意思が強そうでしょ?」
コキアケ。
聞き慣れない響きが、雨音に混じって耳に残る。
彼女は、雨の匂いを胸いっぱいに吸い込む。
駅前の商店街を抜け、住宅街の細い路地に入ると、雨の日の景色はさらに表情を変えた。
誰かの家の庭から溢れたアジサイの葉は、もう花もないのに、雨を弾いて驚くほど鮮やかな緑色に輝いている。
ひび割れたアスファルトの隙間に溜まった水たまりは、低い雲の色を映して、鈍く光る鏡のようだった。
